[連載・馬主は語る]ノミネーション情報(シーズン3-16)

「ダートムーアの受胎が確定しました!」と碧雲牧場の慈さんから報告がありました。受胎していること自体はだいぶ前に確認できていたのですが、そこから消えてしまったり、流れてしまったりする馬もいますので、夏から秋に最終妊娠鑑定が行われます。そこできっちり受胎していることが分かれば、あとは来年の出産を待つのみです。まずはひと安心ということでしょう。

果たして牝馬に出るのか、それとも牡馬として生まれてくるのか、楽しみは広がります。タイセイレジェンドの仔は大きく出る傾向が強いため、牝馬に生まれてもスピーディーキックのように牝馬戦線で活躍が見込めますし、牡馬に出たとしたら南関東の3冠路線を目指すことができるはずです。とはいえ、マイナー種牡馬であることはたしかですから、セリで売ってもあまり評価されないようであれば、自分で持って走らせることも視野に入れています。

最終妊鑑が終わってから、種付け料を支払うことになります。基本的には種付けをした年の9月末までにスタリオンから請求書が届き、受胎を確認したタイミングで振り込みをするのが通常です。タイセイレジェンドの種付け料は30万円と安いため、それほどタイミングを気にすることはありませんでしたが、これが数百万や1000万円を超えるようであれば、支払いのタイミングは重要になってきます。経営的に言うと、支払いは後であればあるほどお金の流れは良いということです。

牧場からすると、7月から9月にかけてのセリで馬を売ってお金が入ってきてから、種付け料を支払うこともできますから、売り上げを見込んで冒険して種付けすることもできます。種付け料が前払いだと、手持ちの現金やお金を借りるかして勝負しなければならず、思い切った投資は難しくなります。生産におけるお金の流れ、いわゆるキャッシュフローを体感しておくことも大切ですね。

来年度の種牡馬予約について慈さんと話している中で、株の話も出てきました。皆さんが想像するあの株ではなく、種牡馬の種付け権利のことです。その種牡馬の株を持っていると、優先的に種付けをしてもらえるというメリットがあります。さらに通常の種付け料よりもディスカウントされて出てきますので、少し安く種付けすることができます。たとえば、通常の種付け料であれば250万円するニューイヤーズデイの株が150万円で出てきたことがあったそうです。碧雲牧場は昨年度、ニューイヤーズデイを第一希望で配合する予定でしたから問い合わせてみたところ、すでに売れてしまっていました。どれだけ安くなると決まっているわけではなく、まるで本当の株のように価格は上がったり下がったりして、しかもいつ売りに出されるのかさえ分かりません。

決して安売りということではなく、もともとその種牡馬がスタッドインした当初から株を持っている人が今年は種付けしないので、少し安く出して誰かに買って、種付けしてもらうという譲渡のシステムです。シニスターミニスターやホッコータルマエといった人気種牡馬の株も出てくることもあり、種付けシーズンになると、毎日のように牧場にはFAXで株の情報が届きます。

良いことづくめに見えますが、その株はその年に限って有効という縛りもあります。その年に種付けしなかったり、受胎しなかった場合は翌年に持ち越せませんし、株を買ったお金は戻ってこないので丸損になってしまうのです。ということは、絶対にその馬を種付けするという種牡馬の株しか買うことはできませんし、もしAという繁殖牝馬が受胎しなくても、Bという繁殖牝馬に種付けしようと柔軟に対応できるぐらいの繁殖牝馬の頭数を抱えている牧場や生産者でなければ、株のメリットを享受することは難しいのではないでしょうか。僕の場合は、ダートムーアとスパツィアーレの2頭しか所有していませんので、それぞれに血統も馬体も異なるため配合したい種牡馬は異なるため、ダートムーアがダメだったらスパツィアーレというように簡単に変更できるわけではありません。

株の話を聞いて以降、繁殖シーズンになると僕もノミネーション情報(種牡馬の株の情報のことをいう)を頻繁に見るようになりました。今はインターネットでも、ジェイエスやサラブレッドブリーダーズクラブ、優秀スタリオンステーションなどのホームページに随時更新されている情報をリアルタイムで見ることができます。本当の株の株価には全く興味がない僕が、種牡馬の株の情報は目を皿にして見ているのですからおかしな話です。

(次回へ続く→)

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