[連載・馬主は語る]レモンポップと中年の危機(シーズン3-25)

レモンポップがチャンピオンズカップを優勝しました。距離不安や大外枠の不利がささやかれていましたが、蓋を開けてみれば、受けて立つ横綱相撲での完勝。大外枠はたしかに有利ではありませんでしたが、1800mの距離に関しては、僕は全く心配していませんでした。というのも、レモンポップはダート馬としてはそれほど筋骨隆々のマッチョな馬体ではなく、手肢にも胴部にも長さがあるフレームの大きなタイプであり、どちらかというと馬体の幅が薄くてスラっとした馬だからです。デビューしてからフェブラリーステークスあたりまでは特にそうでした。一線級のダート馬としては、やや線の細さが残っていたということです。それでもフェブラリーステークスで東京のダート1600mをハイペースで先行して押し切ってしまうのですから、スピードはもちろんのこと、スタミナも十分にあることが分かりますし、末恐ろしい馬だと感じました。

実は、レモンポップの厩務員の田端誠さんは、僕の母の友人の娘さんの夫というややこしい関係です。田端さんは大井競馬のトラックマンからJRAの厩務員、そして調教助手にもなったという異色の経歴の持ち主です。要するに競馬好きが高じて、今はレモンポップの背に跨っているのですから、羨ましい限り。「ROUNDERS」を出版した際、当時厩務員になったばかりであった彼から、「このような雑誌を作ってくれてありがとうございます」的な手紙をいただき、いつか取材をさせてくださいと返した記憶があります。その後、一度会って話ししましたが、その後はショートメールでやり取りをするだけで、まだ本格的な取材には至っていません。

「こうしてGⅠ馬に携われて、助手冥利に尽きます。馬が好きでこの仕事を始めて、やりたいことができている。すごくやりがいがあります。現場は楽しいですし、毎日が充実していますね。それにレモンポップは間違いなく種牡馬になる血統。その子供を担当できたらと思うと、楽しみで仕方ないですね」(ZBAT!より)と田端さんは語ります。今はレモンポップという名馬を手掛け、彼も一杯でしょうから、引退したあとにゆっくり話を聞けたらと願っています。

少し気が早いかもしれませんが、最強馬が登場すると、生産者としてはさらに未来を見てしまいます。再来年(2025年)、レモンポップが種牡馬入りしたときには、是が非でも種付けしたいと思います。来年(2024年)の活躍次第では最初から手の届かない種付け料に高騰してしまう可能性はありますが、ダート種牡馬であることは明らかですから、高くて500万円、あわよくば300万円台スタートではないかと勝手に値付けしています。ダートムーアに配合してみても、サンデーサイレンスの血を一滴も持たないところも価値が高いですし、実はストームキャットの血も母の父の父に入っていて、スピードを補強してくれそうです。馬体をさらに大きく出してくれそうなのも好感が持てますね。

スパツィアーレに配合してみても、ノーザンダンサーの血をほぼ持たないスパツィアーレに対し、レモンポップはノーザンダンサーの母ナタルマをクロスさせた母系であり、ノーザンダンサーを多重クロスしたノーザンダンサーの濃い血統ですから、バランスは悪くありません。馬体的にも500kgを超えるような大きな産駒が出てきそうです。ダートムーアにもスパツィアーレにもピッタリくる、レモンポップは待ちに待った完璧な種牡馬なのです。

再来年(2025年)、レモンポップを種付けして、翌年(2026年)に産駒たちが生まれ育ち、2027年にセリで売れ、2028年にはデビューし、2029年にはダートの重賞戦線で活躍している姿を想像するだけで、胸の鼓動は高まります。そもそも僕の生産馬だけではなく、レモンポップの産駒たちは日本競馬のダート戦線を席巻するでしょうし、世界にも飛び出していく一流馬が登場するはず。レモンポップによって、日高の牧場から世界的なダートの名馬が続々と誕生する未来が思い浮かびます。日高の生産者たちの嬉しそうな顔が目に見えるようです。

そんな明るい未来を見ていたら、あと10年は死ねないなと思いました。これを書いている今の僕は48歳。命を軽んじているわけではありませんが、あと2年、50歳ぐらいまで生きたらそれで十分かなと最近は考えていました。息子もある程度大きくなりましたし、やりたいことはこれまでやってきた達成感があるので、もうこれ以上、自分の人生に望むものは少ないというのが正直なところです。

これがいわゆる中年の危機(ミッドライフクライシス)なのでしょうか。50年近く生きてきて、分別はついているつもりですし、過去も未来もある程度は見える位置に立っています。生きづらさや苦悩を抱えているわけでも、鬱に苦しんでいたり、死に至る病を患っているということでもありません。お酒も飲めない、タバコも吸わないにもかかわらず、なぜか血圧や尿酸値はかなり高いのですが(笑)、今のところストレスなく健康に過ごしています。燃え尽きたとかそういうわけでもありません。ただ、人生50年間も生きてきたらやりたいことはほとんどできるし、成し遂げられるのはないかと思うのです。僕は欲が足りないのかもしれませんが、50歳をすぎないとできないことって、何かありますかね。冷静に考えて、50歳以降の余命は余計というか、トゥーマッチ(too much)なのですよ。もちろん、それでも人生は続いていくことは知っています。僕が言いたいのは、50歳まで生きるなんて思わず生きたいということです。

レモンポップはそんな50歳間近の僕に、もう少し生きていたいと思わせるほどの名馬ということです。それって素晴らしいことじゃないですか。オグリキャップが有馬記念で感動的なラストランを飾った年に競馬を始めてから35年、あの頃の競馬に対する新鮮でカラフルな気持ちが薄れ、馬を好きになって追いかけたりすることもなくなり、淡々とレースを見るようになって久しいのですが、まさかこんな感情を抱かせてくれる馬が出てくるとは。お酒が飲めない僕にとって、レモンポップは名前もぴったりですね。

(次回へ続く→)

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