ストームキャットの血を入れて、スピードと馬格をアップさせようというのが2024年度の配合のテーマでした。ダートムーアにはオナーコードを、スパツィアーレにはリアルスティールとダノンレジェンドを予約しました。リアルスティールにおいては、あわよくばダートムーアにも種付けできればというぐらいの期待感を抱いています。
それでも時間が経てば、あれほどときめいた配合も色あせてくるもので、どうしても他の種牡馬に目移りしてしまいます。たとえば、昨年の朝日杯フューチュリティステークスを勝ったジャンタルマンタルの父パレスマリスがダーレー・ジャパンに導入されることが決まれば、種付け料はいくらなのだろうと発表を心待ちにしている自分がいますし(のちに350万円とアナウンス)、実際に架空血統表で当てはめてみたりします。
年明けのシンザン記念を同じくパレスマリス産駒のノーブルロジャーが完勝するや、いよいよ本格的に気持ちが揺れ始めます。パレスマリス自身は3歳時にダート2400mのベルモントステークスを勝利したようにスタミナ豊富なタイプですが、産駒には芝も走れる軽快なスピードと仕上がりの早さを伝えているようです。今年は海外からの大物種牡馬が続々と入ってきている中、新種牡馬の台風の目となりそうな予感がします。
ジャンタルマンタルの朝日杯フューチュリティSのパドックは素晴らしかった。僕が理想とするパドックの姿と言っても過言ではないほど、トモを中心とした後ろ肢から背中を通って、前躯から首、そして頭の先まで、パワーがきっちりと連動して力強く歩けていました。しかも気持ちが入りすぎることなく、レースに向けて集中し、前だけを見て周回できていたのです。2歳の暮れのパドックにて、あれだけの姿を披露できるのですから、肉体的にも精神的にも完成度が極めて高いのでしょう。
ノーブルロジャーの新馬戦のパドックを見てみると、こちらも落ち着いて、リズム良くスムーズに歩けていました。ジャンタルマンタルと比べると、馬体はひと回り小さく、筋肉のメリハリにも物足りなさは残りますが、気性の良さは確実に見て取れます。種牡馬が伝える肉体的な資質は目に見えやすいのに対し、精神的なそれは案外見落としやすいものです。パレスマリスの種牡馬としての良さのひとつに、精神面の強さもあるのではないだろうかと想像します。
ノーブルロジャーの新馬戦で手綱を取った石川裕紀人騎手は、「大人しくて癖がないとは聞いていたのですが、本当にその通りでしたね。跨ってからゴールするまで何も注文付けるところがなかったですし、レースでも折り合いは付いてコントロール性に優れている」とコメントしています。
シンザン記念前に調教でノーブルロジャーの背に跨った川田将雅騎手も、「気性が素直できちんと指示を待てる賢い馬。走ることに対しても気持ちが凄くポジティブですね」と言っています。さらにレース後、ジャンタルマンタルを引き合いに出して「この馬自身ジャンタルマンタル(同じパレスマリス産駒)と似ている部分があって、調教の感じよりも実戦に行ってスイッチが入ってより良いタイプ」と語りました。
アメリカの種牡馬は総じて気性が激しく、だからこそ爆発的なスピードを生かすことができるのですが、道中で緩急をつけて走ることが求められる日本の芝のレースでは、それが仇となることもあります。パレスマリスは適度な気性の良さも伝えているからこそ、それが操作性の良さにつながり、産駒たちは芝でも走っているのかもしれません。
気性の良さということであれば、スパツィアーレには気性の良い種牡馬をと考えていました。スパツィアーレの23(父ルーラーシップ)の全姉にあたるアルデリシャスが、レースに行って凡走を繰り返しているは、気性面の問題があると考えているからです。アルデリシャスは千葉サラブレッドセールで好時計(坂路2ハロン目のタイムがメンバー中2位の11秒1、全体時計の22秒フラットが3位)を叩き出し、美浦トレセンの調教でも動いているにもかかわらず、レースでは砂を嫌がったり、走るのを途中でやめてしまったりして見せ場すらつくれていないのです。
能力が高くても、競走馬は走ることに対して気持ちが向いていないと、力を発揮することは難しいものです。特に牝馬はちょっとしたことでヘソを曲げてしまって、途端に走らなくなってしまったりしますから、扱う人間の技量が問われます。スパツィアーレの23は牡馬ですから、ある程度は荒々しいところは必要だと思いますが、シンボリクリスエスを父に持つスパツィアーレは繁殖牝馬として気性面が課題なのかもしれません。気性の難しさを補う配合ということで、気性の良い種牡馬を配合するというのは間違っていないと思います。種付け料の350万円は決して安くはありませんので悩ましいところですが、パレスマリスにも食指が動き始めました。
(次回へ続く→)