夏旅行のプランは、盛岡競馬場にエコロテッチャンのレースを観に行き、その足で翌日のセレクトセール当歳に参加し、その後、ウインレーシングの取材に臨むというものでした。ところが、仕事上の問題が発生し、盛岡にもセレクトセールにも行けないことが早い段階で判明しました。ウインレーシングの取材はアポイントを取ってもらっている以上、キャンセルするわけにはいかないので、前日の夜に飛行機で北海道に飛ぶことにしました。今回はどこにも寄ることのない弾丸ツアーです。
もしかしたら勝つチャンスがあるかもと期待していた盛岡競馬場も楽しみにしていたセレクトセールにも行けなくなってしまい、がっかりしながらライブ中継を観ていると、エコロテッチャンがパドックでいつもより入れ込みが少なく、比較的落ち着いて歩けているではありませんか。他の出走馬を観ても、抜けて良く映る馬もおらず、5番人気のオッズが示すとおり、エコロテッチャンに決してチャンスがないというわけではなさそうです。スムーズに逃げることができれば、勝ち負けに持ち込めるかもと期待が高まります。
スタートが切られ、エコロテッチャンの鞍上の鈴木祐騎手はムチを1発2発振るって、何が何でも先頭に立つつもりであることを主張します。それに応えるようにエコロテッチャンもダッシュを利かせてハナに立ち、綺麗に第1コーナーを回っていきました。道中は行きたがる素振りを見せつつも、鞍上と喧嘩するほどではなく、第3コーナーを回るころには落ち着いてきて、ひと息入れることができたように見えました。
最終コーナー手前から、少し早めにスパートをかけて、流れるように第4コーナーを回ります。この時点で勝ち負けになると思いましたし、僕の想像以上にエコロテッチャンの脚色は衰えません。ラスト100mの時点でも先頭に立って踏ん張っており、外からツクバマサカドが伸びてきたときは「我慢してくれ!」と願いました。外から交わされる一瞬前にエコロテッチャンがゴールインしたのが分かりました。間違いありません。エコロテッチャンは逃げ切ってくれたのです。パソコンのモニターを観ながら、僕は思わずガッツポーズをしてしまいました。
正直に言うと、勝つのはもう少し先になると思っていました。惜しいレースを続けながらも、少しずつ岩手の競馬に慣れてもらい、馬体にも実が入ってくれると、エコロテッチャンのスピードがさらに生きる。そうこうしているうちに、どこかでポンと勝てる日が来るのではと考えていたのです。芝1600mという条件はエコロテッチャンにとっては最適な舞台ですが、まさかこんなにも早く地方競馬の初共有馬で1勝を挙げられるとは思いも寄りませんでした。
一口馬主や共有馬主、そして1頭持ちをやっている馬主さんなら分かると思いますが、自分の馬が勝つことがどれだけ難しいことか。僕の感覚ですと、1年間で1勝するのが普通の馬のペースです。1勝を挙げたとしても、クラスが上がって実力上位のメンバーに揉まれて結果が出なかったり、勝ったあとに怪我が発覚して休ませなければならなくなったりと、ポンポン勝つ馬などほとんどいないのです。愛馬が勝利した直後は、明るい未来に視野がパッと広がりますが、しばらくすると現実に引き戻されてしまいます。だからこそ、勝った直後ぐらいは嬉しさを必要以上に抑えることなく、喜びの感情をしっかりと味わうべきなのです。1年に1度のことなのですから。
実は、7月に入ってから、タスマニアのエルもキャロットで初めて出資したトゥルーヴィルも勝利を収めていました。勢いに乗ってエコロテッチャンが3勝目となったのですが、勝つときはポンポンと勝つものなのですね。エルは半年ぶり、トゥルーヴィルは1年3か月ぶり、そしてエコロテッチャンは初勝利になりますので、めったにないことが続けて起こったということですね。逆に言うと、僕はずいぶんと勝てない時期を長く過ごしてきたことになります。長い間、勝てなかったとしても、我慢して待ち続けていれば、勝ちがポンポンと続くこともあるということです。
エコロテッチャンを担当してくださっている志村厩務員からは「やりました!チームの勝利です」、Equine Vet Ownersの上手健太郎代表からは「ありがとうございます!」とLINEが飛び交いました。エコロテッチャンの横断幕をつくってくださった、共有馬主のひとりである柴田さんも「やったぜテッチャン!ジュライカップ優勝!」とインスタグラムにアップされています。それぞれがそれぞれの形でエコロテッチャンに関わって、勝利を純粋に喜び合える。僕は現地に足を運ぶことぐらいしかできなかったのに、それすら叶わずに申し訳なく思ったのと同時に、一口馬主と違って共有馬主は受け身で臨むだけではもったいない、それぞれができることを持ち寄って、チームで1頭の馬に関わり、勝利を皆で一緒に喜ぶことが共有馬主の新しい楽しみ方なのではないでしょうか。
僕にできることは何だろう、そう考えました。そうだ、僕には書くことがあったんだ。エコロテッチャンのことを書くことで、馬主についてはもちろん、馬にたずさわる人々の素晴らしさや勝利の喜びを伝えることができる。それでいいのだ、とバカボンのパパのように自分を納得させてみました。もしこれからできることがさらに出てくれば、チーム・エコロテッチャンやチーム・エルのためにもっと何かができるようになるはずです。
(次回に続く→)