[連載・馬主は語る]千葉サラブレッドセールに行ってみた(シーズン1-8)

生産者たちの熱い想いに触れ、東京に戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、北海道のトレーニングセールの広告でした。

「『北海道市場トレーニングセールに、スクリーンヒーロー産駒の凄いのがいるらしい』という噂が広まったのは2013年春、セール本番を6週間後に控えたリハーサル撮影の前後からだった」

スクリーンヒーロー産駒とはモーリスのことであって、確かにモーリスは2013年の北海道のトレーニングセールの公開調教にて、ラスト2ハロン21秒8の最速時計を出し、ノーザンファームに1050万円で落札されました。今や世界的なマイラーとなったモーリスの走りを目の前で見て、それからセリで購入するチャンスが誰にもあったということです(しかも比較的安値で)。

セリ市とはまた違うトレーニングセールの雰囲気に触れてみたくなり、さすがにまた北海道に戻るのは気が引けて、同じような時期に行われていた千葉サラブレッドセールに行くことにしました。北海道のトレーニングセールで起こったことは、千葉サラブレッドセールでも起こるかもしれませんから。

2001年から始まった千葉サラブレッドセールは、船橋競馬場で行われています。初年度は10頭の上場馬からスタートし、少しずつ増えて、僕が足を運んだ2016年は63頭が上場されました。しかも2009年以来、社台ファームが市場を支える形で生産馬を多数送り込むようになったことで、売却率も総売り上げも大幅に上昇しました。2015年は全体で12億4000万円の売上額を叩き出し、関東圏で行われる一大セールになったのです。2015年はエイシンフラッシュの弟(父ディープインパクト)が1億9000万円の値をつけたように、上場馬の血統レベルは総じて高く、今年も重賞戦線で活躍した牝馬の仔やブラックタイプに埋め尽くされた血統馬がほとんどでした。

ちなみに、今年(2021年)はオンラインオークションとして開催され、13億8960万円という2015年の記録を更新する総売上額を計上しました。サイバーエージェントの藤田晋氏がプレミアムステップの19(父ディープインパクト)を4億7010万円で落札したことも全体の売り上げを大きく引き上げた要因になっています。

「ウマ娘」で社台グループの名馬のキャラクターを使わせてもらうためのお近づきの印(人脈づくり)だとも噂されますが、そもそも藤田氏は馬券を嗜んでいましたし(競馬好きかどうかは分かりませんが)、馬主に対しても夢を持っていたはずです。競馬ゲームで稼いだお金を競馬界に還元し循環させようと考えるのは、経営者として自然な流れだと思います。それとこれは別だと考えているのではないでしょうか。

入口で購買者登録を済ませ、カタログをもらい、スタンドに駆け上がってみると、すでに多くの競馬関係者たちが集まっていました。自分を棚に上げて、こんな平日に馬を買いに来られるなんて皆さん良いご身分だと思いつつも(笑)、いつもの競馬場とはまた違った静かな熱気に、動悸が少しずつ激しくなりました。スタンドのど真ん中には、社台グループの吉田照哉氏が座って、真剣な眼差しを登場馬たちに送っています。

最初の組が最終コーナー手前の残り400m標識のところあたりから併走し始めると、全員の目がその2頭に注がれる。誰もひと言も発しません。ただ静かに見守っています。聞こえてくるのは、2頭のサラブレッドの息遣いと蹄がダートを蹴る音のみ。2頭がゴール板を通過したあと、2ハロンと最後の1ハロンのタイムがアナウンスされます。それから次々と2頭ひと組みの2歳馬たちが、僕の目の前を走り過ぎていきました。

当時の船橋競馬場の砂は深いこともあってか、速い時計を出す馬でも2ハロンが23秒台、1ハロンが11秒台前半でした。目いっぱいに追われている馬もいれば、ほとんど流しているように耳を立てて走っている馬もいる状況でのタイムだけに、時計が速ければ良いということではないのですが、それでも速いタイムが出ると場内は騒然とします。それだけの能力の一端を持っているということの証明であることに違いはなく、順調に仕上げられ、デビューできるとある程度の好走は期待できるということです。

2ハロンの最速タイムは23秒5、1ハロンの最速タイムは10秒9でした。1ハロンの最速を叩き出したミルルーテウスの14(父ワークフォース)は、前脚がしっかりと伸びてきれいなフォームで走れていたのが印象的でした。ちなみに、ミルルーテウスの14はハットラブという競走馬名で中央競馬にて走り、現在21戦5勝でオープン入りしています。飛び切りの大物を掴むということではなく、コンスタントに走る馬を見出す確率を上げるという意味においては、トレーニングセールには一定の有効性があることは間違いありません。

セリ市やトレーニングセールで馬を買うことについては、何となく雰囲気を味わってもらえたかと思いますので、次はオークションサイトについて語ります。

(次回へ続く→)

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