栄光、挫折、そして栄光。
波乱に満ちた4歳シーズン。

ゴールドドリーム陣営は、年明け初戦にフェブラリーSを選択。
ぶっつけ本番にはなるものの、ゴールドアリュール産駒が得意とする舞台で、初のG1タイトルを狙った。

この前日、ひとつの訃報が舞い込んでいた。
大種牡馬ゴールドアリュールが心臓疾患のため急死したのである。
2017年2月18日のことだった。

そうした背景もあり、注目度の高まった一戦。
3歳馬だった1年前とは異なり、ヒヤシンスSではなくフェブラリーSへの出走を果たしたゴールドドリームは、2番人気という評価を得る。
モーニンをはじめ前年の1〜3着馬が揃ったレースだったが、ゴールドドリームは中団でどっしりと構えるとそのまま抜け出し、ベストウォーリアとの競り合いをクビ差しのいで勝利。
見事、父に捧げるG1制覇を達成したのだった。

勢いそのままにドバイへ渡ったゴールドドリームは、栄冠から一転、ドバイワールドCで最下位の14着に敗れる。アウォーディーが5着、ラニが8着など存在感を見せる中、13着に大差をつけられる惨敗だった。

ゴールドドリームはリズムを崩したのか、そこから帝王賞7着、南部杯5着と続けて馬券圏外の敗北を喫する。特に帝王賞は、同期のケイティブレイブが勝利するなかで、離されての7着。悪い流れが続いていた。

しかし、過去最低人気の8番人気で挑んだチャンピオンズCで、1番人気テイエムジンソクをクビ差差し切り、優勝。
前年12着と大敗した舞台で、強さを見せた。

その勝利は、ゴールドドリームが同年にJRAダートGIを完全制覇したことを意味していた。
それはウイングアロー、トランセンドに続く栄冠で、チャンピオンズCに変更後は初めての記録だった。
その記録をもって、ゴールドドリームは、2017年最優秀ダートホースに選出された。

GI級競走5戦全連対、ダートの帝王へ。
そして新興勢力の台頭──。

5歳シーズン、ゴールドドリームはダート王者として君臨し続けた。
年明け、フェブラリーSを2着に敗れたものの、かしわ記念・帝王賞と連勝。
余談だが、ここでも、1番人気のフェブラリーSのみ敗れ、2番人気だった2戦を連勝するのだから、面白い。

秋冬になってもゴールドドリームの安定感は変わらず、2戦連続で1番人気2着という戦績を残す。
まさに盤石といったところだったが、実はこの2戦はどちらも3歳馬に先着を許したものだった。

南部杯ではルヴァンスレーヴ、東京大賞典ではオメガパフューム。
まさに新時代の到来を予感させた。

さらに翌年・6歳シーズン初戦のフェブラリーSでは、5歳馬インティにクビ差届かず2着。インティは5歳馬ではあるものの、未勝利戦から7連勝でGI初出走初制覇という、やはり新興勢力。
世代交代という言葉が、現実味を帯びてきていた。

ゴールドドリームは得意のかしわ記念でインティにリベンジを果たしたものの、続く南部杯では5歳馬サンライズノヴァ・4歳馬アルクトスの後塵を拝することに。
さらには、チャンピオンズCで3歳馬クリソベリルにクビ差届かず、またも2着。
4歳でチャンピオンズCを制覇してから10戦連続でGI競走・JpnI競走に出走し、さらには馬券圏内を外さない安定ぶりを示しながらも、どうにも勝てない。
「引退」の2文字が忍び寄る頃合いだった。

そしてラストランが発表される。
東京大賞典。1番人気に推されたゴールドドリームは、地方馬2頭に先着を許し、4着に終わった。

長年築き上げた「ゴールドドリーム時代」の終焉かに思えた。
しかし、ひょんなことから、ゴールドドリームには、新たな夢が与えられることとなった。

引退取り消しからの海外遠征。
そして舞台は再び中京へ。

ラストラン直前の2019年12月15日、サウジカップへの挑戦が発表されたのだ。サウジカップは賞金総額2000万米ドルを誇る世界最高峰のダートレースとして創設され、その記念すべき第一回が2020年2月29日に開催されることになっていた。

ゴールドドリームは引退を延期し、7歳シーズンにサウジアラビアへと旅立った。
そこで、フロリダダービー馬Maximum Security、サンタアニタオークス馬Midnight Bisouといった強豪馬と激突し、6着で入線。世界とも戦える手応えを感じさせる、価値のある6着だった。
コロナ禍によりドバイ遠征などの予定が狂う中、帰国後は平安Sで3着、南部杯で6着に敗れた。

そして、チャンピオンズC。
3歳シーズンで12着に敗れ、4歳でリベンジ。6歳シーズンでは新興勢力クリソベリルを相手に2着に敗れたレースに、ゴールドドリームは4度目の挑戦を果たした。

2020年のチャンピオンズCは──ゴールドドリームは単勝9.9倍の3番人気ではあったものの──構図としては、ダート王者クリソベリルに3歳馬カフェファラオが挑むというものになっていた。
クリソベリルはサウジカップでこそ7着と敗れたものの、国内ではデビュー以来無敗の8連勝中という圧倒的な戦績。対するカフェファラオは注目の新種牡馬American Pharoahの産駒で、こちらも5戦4勝という安定感を誇っていた。ルヴァンスレーヴ、クリソベリルと2年連続で3歳馬が制していたということもあり、4歳・クリソベリルVS3歳・カフェファラオの構図は際立っていた。

レースが始まると、エアアルマス・インティが引っ張る展開に。
クリソベリルも好位に位置どり、ゴールドドリームはカフェファラオ・タイムフライヤーと並んで中団やや後方にポジションを取る。
鞍上の和田騎手は、ゴールドドリームとしっかりとコンタクトを取りながら、直線でスムーズに外へ進路をとった。
クリソベリルは伸びあぐね、カフェファラオも思うように末脚を繰り出せない。
チュウワウィザードが抜け出し、勝ち馬は決まった。
あとは2着争い──先行から粘り込みを狙うインティと、外から追い込むゴールドドリーム。
熾烈な追い比べは、7歳馬ゴールドドリームに軍配が上がった。

ゴールドドリーム、2着。
7歳にして、中央GIでまたも連対を果たした。

その後ゴールドドリームは東京大賞典・フェブラリーSを目指すプランが発表されていたものの、脚部不安にて引退。ダート界を牽引してきた王者が、今度こそ、競馬場を去ることになった。

振り返れば、中央GIでは7戦して2-4-0-0-1という戦績。最初に跳ね返された3歳・チャンピオンズCでの12着以外は全て連対していたということになる。
ゴールドドリームに勝利し、GIタイトル・JpnIタイトルを獲得した馬は多い。異母兄弟であるエスポワールシチー・スマートファルコン・コパノリッキーらと比べると、勝ち星の数では見劣りする。シルバーコレクター的な側面もあったのかもしれない。しかし引退を目前に撤回して、翌年に海外の強豪を相手に善戦し、さらには中央GIで連対を果たしてから去っていくことのできる名馬は、どれほどいるだろうか。
2017年〜2020年の日本ダート界は、彼抜きに語ることはできない。

ゴールドアリュール亡きダート界を担った、紛う方なき父の代表産駒である。

写真:Horse Memorys

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