[インタビュー]引退馬ににんじんをプレゼント! 松岡騎手とのコラボTシャツで話題となった、馬に関するクリエイター集団「Happy Horse Creators」×アパレルブランド「HAYLIFE」とは?

馬に関するクリエイター集団「Happy Horse Creators」とアパレルブランド「HAYLIFE」が、松岡正海騎手とコラボした引退馬支援のための「にんじんプレゼントTシャツ」を発売し、話題を呼んだ。2020年から活動をスタートしたHAYLIFEが、2023年からはHappy Horse Creatorsとコラボして一部を共同製作。Tシャツの販売した収益の一部で購入したにんじんは、全国の乗馬クラブや馬術部などへプレゼントされるという。今回はそのHappy Horse Creatorsの渡部貴文さんと、HAYLIFEのゆっちさんにお話を伺ってきた。

乗馬クラブで救われたことをきっかけに…

「仕事で辛い時期に、たまたま乗馬クラブに通ったのが5〜6年前のこと。そこで馬に癒されて、馬に興味を持つようになりました」

そう話すのは、HAYLIFEのゆっちさん。

ゆっちさんの通っていた乗馬クラブには馬が多くいたが、その大半が痩せているように見えたという。ただ、その乗馬クラブの馬しかしらないゆっちさんは特に疑問に感じることもなく「そういうものかな?」と考えていた。転機が訪れたのは、通い始めておよそ1年後のことだった。

「たまたま他のクラブの馬を見る機会があったのですが、そこの馬たちがみんな凄くツヤツヤしていて…衝撃を受けたんですよね。『あ、環境によって馬の状態ってこんなに変わるんだ…』と。私自身はクラブの馬たちにとても救われていたので何かお返ししたかったのですが、上手に乗ってあげられるわけでもなく、引き取って飼ってあげることもできず、もどかしい思いがありました」

そうした葛藤の中、ゆっちさんは「馬にしてやれることと言えばおやつをあげることくらい」という日々を過ごすことになる。1度のおやつでは効果が薄いことは理解していたものの、それ以上のことをしてやれる環境になかった。ゆっちさんが立ち上がるきっかけになったのは「全国には痩せている馬を抱えているクラブも少なくない」という話を耳にしたこと。そこで思いついたのが、オリジナルのTシャツを販売し、その利益の一部をにんじんにして全国のクラブに送るという活動だった。

「2020年に、1枚目のTシャツを製作しました。ただ、しばらくの間は月に1枚売れたら御の字というレベル。最初の1年間はずっと同じような感じで、活動のレベルも限られていました」

もう一つ苦戦したのが、にんじんの送り先を決めることだった。交渉は、自分自身で直接電話する以外の方法がない。見ず知らずのクラブに電話して交渉する必要があった。しかしいきなり「にんじんを送りたい」と伝えても、怪しまれることがほとんど。説明をしっかりすることで寄付を受け入れてくれるクラブが多かったが、当然、「飼料は徹底的に管理しているから」「貸しを作りたくない」など断られることもあった。

「にんじんを送って、食べてもらえることに活動の意義を感じましたし、嬉しかったですね。2年目には少しずつTシャツの購入者も増えて、購入できるにんじんの量も増えました。そうなると、活動の幅が広がります。そうした手応えがある中で、共通の知り合いがいたことで紹介してもらったのがHappy Horse Creatorsの渡部さんでした」

藤沢調教師や松岡騎手の協力するプロジェクトに

渡部貴文さんが一般社団法人としてHappy Horse Creatorsを立ち上げたのは、2023年4月のこと。YouTubeで活動する「おさむとなべ Next Challenge!!」チャンネルの主催としてご存知の方も多いだろう。外乗乗馬旅の動画や馬業界の関係者インタビュー動画など、様々な動画が公開されている、馬好きなら必見のチャンネルだ。

不思議な事に『馬』の繋がりって、結局『人』との繋がりなんですよね。

そんな事に着目しながら、楽しく馬を学び楽しく乗馬をするお手本動画チャンネルです。

この動画をたくさんの人に見てもらって、馬ってこんな動物なんだ!?乗馬って楽しそうだな!?ってちょっとでも思ってもらえたら、馬の働く場所や居場所は増えます。実は乗馬はゴルフやキャンプと同様にオシャレで身近なアウトドアです!ぜひお手本をご覧ください!

── 「おさむとなべ Next Challenge!!」YouTubeチャンネル概要欄から引用

藤沢厩舎の厩務員として長く活躍をしてきた渡部さん。

担当馬にはグランアレグリアなど歴史的な名馬が並ぶ、一流の経歴を持つ競馬人である。

そんな渡部さんがゆっちさんの活動を知った時に感じたことは「すごいことやってるな」「面白いことやっているな」という驚きだったという。

「ぜひ活動に協力したいと思い、第一弾コラボの時には『身近にいる人に着せちゃえ!』と、いきなり松岡騎手のところにTシャツを持っていきました(笑) 経緯を説明すると、Tシャツのモデルとして撮影に応じてくれました。藤沢先生の家にも行ってTシャツを渡すと、その場で脱いで着てくれました! 競馬関係者でも引退馬支援に意欲がある人は多い印象ですね」

それ以降、コラボをするようになった渡部さんとゆっちさん。今回のコラボでは松岡騎手が実際の競馬で使用しているジョッキーパンツにプリントされているM.Matsuokaロゴと全く同じデータを使用している。ゆっちさん曰く「(普段の)100万倍の反響があった」というコラボをきっかけに、にんじんプレゼントTシャツの活動を知る人も多くなった。しかし渡部さんは「僕は盛り上げただけ、実際に作ったのはHAYLIFE・ゆっちさん」と謙遜する。

「今回のコラボは、松岡騎手が『僕にできることがあればやりますよ』と名乗り出たことで実現しました。ただ、松岡騎手が『俺が宣伝する暇ないじゃん!』というほど、売れ行きはよかったみたいですね(笑)」

大学などとも提携、広がる活躍の場

「価格的な観点から、業者への発注はしていません。資金はなるべくにんじんプレゼントに回したいので…。一枚ずつ、にんじんのことを考えながら作られた気持ちのこもったTシャツです。そのため生産体制に大量生産には限界があるため、今回のようなコラボでは開始数日で主だったサイズは売り切れてしまいますね」

現在は、生産体制に課題は抱えつつも、にんじんプレゼント自体は順調に拡大を続けている。さらに今では帝京科学大学の「うまセンター」に毎月プレゼントをするなど、有効活用の輪は広がった。にんじんは、与那国馬の馬ふん堆肥を使ったものを積極的に使用。実はにんじんは食べられなかったというゆっちさんも美味しく食べられる絶品にんじんなのだとか。

ゆっちさんの活躍は、にんじんプレゼントだけではない。ボランティアとして、長野の保育施設での体験乗馬に人材を派遣したこともある。多くの人に馬の魅力を伝える活動も非常に重要だ。

──最後に、ゆっちさんの目標を伺った。

「夏にこどものふれあい会に行ったのですが、ポニー乗馬で、とても楽しそうにしていました。馬を知らない子どもたちに馬の良さを知ってほしいので、この3〜5年の目標の一つに子どもたちへの馬事普及を考えています。また、10年後の目標は人を乗せられなくなった馬をファッションモデルにすること。引退馬に新しい活躍の場を広げられるのではないか、と可能性を感じています。あとは、いつか、にんじんで届けるところまで動画で投稿できたらなと思います!」

渡部さんにも、多くの目標がある。

「自社では馬を飼わずに、個々で馬のために頑張っている人や施設をプロ目線で紹介するという方法の馬事普及をする会社を目指します。現役の厩務員であることもあるので、馬の知り合いは多いですから、そこを活用できたら、と。全く馬を知らない人にまで届けられるように影響力をつけていきたいですね。最終的にはJRA馬事文化賞を獲りたいです。藤沢先生に授賞式に連れて行っていただいたことありますが、今度は私が藤沢先生を授賞式に連れていきたいですね!」

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