昨今、競馬ファンによる障害レースへの関心が高まっている──
ふと、そう感じた。
2016年・最優秀障害馬には満票でオジュウチョウサンが選出。また平地・障害両方での活躍が認められ、熊沢騎手が特別賞を授賞した。
さらにはイベント等でも同馬のグッズが作られたり、ニュースやコラムなどでも障害馬や障害騎手が取り上げられる機会が増えたように感じる。
これらは過去、そして現在の障害界を担う人馬のたゆまぬ努力によるものである。
「華の大障害」とも呼ばれる、格式高い春秋・中山大障害。障害レースに関わる人馬の憧れの舞台であり、そこに立つ者は皆、選び抜かれた精鋭たちだ。
この舞台で旧王者が新王者へバトンを託す光景こそ、障害王者が代々紡いできた系譜とも言える。
また、中山大障害とは異なるコースを沸かせた名障害馬たちも見逃せない。
飛越のたびに他馬との差を広げるスピードジャンパーや、特定の競馬場に突如出現するそのコースの「鬼」が最たる例であろう。
彼ら・彼女らは、スペシャリストとしての才を発揮しファンを魅了している。
そして忘れてはならないのが、障害騎手による貢献だ。
そのレースにかける思いは並大抵のものではない。ニュースやコラムから感じられる熱意は、感服するばかりである。
巧みな騎乗技術と愛情をもって、騎手が障害馬を作る過程。人馬の絆を見聞きするたびに、胸が熱くなる。
障害馬として育てたレッドキングダムが、北沢騎手の騎乗で中山大障害を勝った際に、その勝利を満面の笑みで讃えた西谷騎手。オジュウチョウサンを「オジュウ」と呼び、我が子のように障害王者へと育てた石神騎手など、枚挙にいとまがない。
また、障害騎手はファンサービスも素晴らしい。
騎手自らがコースを案内し、質問コーナーやプレゼント企画もある、ファン参加型の障害バックヤードツアー。
ウィナーズサークルでの和やかな空気。
いずれも障害レースを盛り上げようという騎手の熱意と、騎手に対するファンの敬意が織り成す光景だ。
更に、スター障害馬の存在が観衆を魅了し、新たなファンを障害レースの世界へと引き込む事も少なくない。
遡ること数年、名ジャンパー達の相次ぐ訃報・引退の哀しみに包まれた混戦の障害界。その中に誕生し、希望の光となった障害王者が脳裏を過る。
「アポロマーベリックの強さに憧れて、障害レースが好きになった」
「素人目にも格好良くて、これが王者の貫禄なんだ……って」
2013年から2014年にかけて初めて障害レースを観戦した複数のファンから、そのような声を聞く事が多い。
マーベリックは、2013中山大障害・2014中山グランドジャンプとJ-G1を秋春連覇した障害王者だ。
惜しくも彼は2015年の暮れ、自身が栄華を極めた大障害コースで空へと旅立った。
最期まで美しい飛越を魅せて。
しかしマーベリックに憧れたというファンたちは、今も障害レースに魅了されている。
時折耳にする、「アポロマーベリックって、飛越うまいよね」「綺麗だったよね」の声。
彼は今なお障害界に貢献し、障害王者として「生きて」いるのだ。
障害レースにはあまりにも多くの魅力が詰まっており、どれだけ時間をかけようと語り尽くす事ができない。
その中でも後編は、障害レースファンの熱意、現障害王者の一頭・オジュウチョウサンの魅力、そして第二の馬生で活躍中の障害馬について綴る事としよう。
写真:すぺっきお、たちばなさとえ、がんぐろちゃん