父と母の夢を叶えたノンコノユメ。大雨に煙るジャパンダートダービーで見せた豪脚

ダートを主戦場とする牡馬には珍しく450kgそこそこの小柄な馬体。ダート中長距離では珍しいド派手な追い込み戦法、そして愛らしい名前で親しまれた馬が今回の主役だ。 

その馬は父トワイニング、母ノンコ、母の父アグネスタキオンという血統。父は米GIIのウィザーズSを5馬身差、ピーターパンSを7馬身差で圧勝し、大舞台での活躍が期待されていたが、脚部不安もあって志半ばで引退した。母のノンコはJRAで3勝。馬名の意味は「ノンコの夢」。父、母の夢であったGI制覇を成し遂げた孝行息子こそノンコノユメである。 

2014年の11月、東京競馬場の2歳新馬戦でデビュー。前後半の3Fが37.9-36.2という後傾ラップで2、3着には先行馬が粘る中、後方から鋭く追い込んで勝利を収めた。馬群を割るように伸び、上がりタイムもメンバー中で最速。確かな素質を感じさせる勝ち星となった。 

出遅れ癖があり、位置取りが悪くなる弱点はあったが、レースでは必ず上がり最速を記録。直線の短い中山では差し損ねることがあったが、東京コースでは持ち味がフルに生きた。2015年5月の青竜Sでは逃げ馬が2着、3番手を追走した馬が3着に粘る典型的な前残りの展開を、上がり34.7という目の覚めるような末脚で快勝。続く6月のユニコーンSでも道中15番手からの差し切り勝ち。ド派手なパフォーマンスで勝ち星を重ね、実力、実績、人気を確かなものにしていく。 

重賞タイトルを手にしたノンコノユメはいよいよGI級競走に初挑戦。3歳ダート王決定戦ジャパンダートダービーに出走した。地方競馬の中では比較的、直線が長いとされる大井競馬場も東京よりは100m以上も短い。加えて地方のタフな砂、一周競馬、距離延長など不安要素は挙げればキリがなかった。おまけに当日は視界が煙るほど激しい雨で馬場は田んぼ状態。「泥水を被ってやる気を無くさないか……」「軽くなった馬場で前が残ってしまうのでは……」ファンからも不安な声が聞かれた。 

そんな状況もあってか、兵庫チャンピオンシップで9馬身差の逃げ切り勝ちを収めたクロスクリーガーが1.6倍の1番人気。ノンコノユメは2番人気となった。 鳳雛Sを勝利したライドオンウインド、全日本2歳優駿を制したディアドムスなども人気を集めたが、2頭に人気は集中。逃げ馬vs追込馬の様相となった。 

傘をさしていても濡れるほど激しく叩きつける雨の中、20時10分にレースはスタート。クロスクリーガーが馬なりのまま楽々ハナを切り、ライドオンウインドが外の2番手。東京ダービー馬ラッキープリンスなどが先行集団を形成していく。ノンコノユメはスタートで遅れたが、少し巻き返して後方4、5番手の位置。1000m通過62秒そこそこのゆったりとした流れでレースは進んだ。 

その後も道中、大きな動きはなく逃げたクロスクリーガーは手応え楽に3、4コーナーを通過。ノンコノユメは馬群の外に出してじわじわ進出するるが、直線入口でもまだ7、8馬身は離れていた。だが、ルメール騎手が左ムチを入れるとノンコは一気に加速。泥水を跳ね上げながら、あっという間に先頭に迫っていく。 

残り約130m。クロスクリーガーを射程に入れると、ルメール騎手が右ムチを入れて合図を送った。手前を替えたノンコノユメはさらにスピードを上げ、一気にクリーガーを置き去りにしていく。水かきが付いている、二段ロケット、水上バイク……なんと表現したら良いかわからないが、とにかく驚異的な加速。「9番ノンコノユメ先頭に立った! ……正夢だ!」実況アナウンサーも信じられないという様子で伝えた。戦前の不安は何だったのか。終わってみれば2馬身半差の快勝劇となった。

ビッグタイトルを掴んだノンコノユメは、後にフェブラリーSを制覇するなど自慢の末脚を武器に活躍した。晩年は南関東に移籍して現役を続け、9歳時の2021年帝王賞では2着に好走するなどファンを魅了。ダート史に残る名馬の一頭となったが、人気や実績の面でキーポイントになったのは、間違いなく2015年のジャパンダートダービーだった。

写真:Horse Memorys

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