[重賞回顧]好位差しの横綱相撲で、セイウンハーデスが初重賞制覇!2000m路線の主役へ、堂々と勝ち名乗り~2023年・七夕賞~

夏競馬の風物詩ともいえる七夕賞は、サマー2000シリーズの開幕戦。ハンデ戦で毎年のように混戦となり、1番人気馬が苦戦するレースとしても知られている。

言い換えれば、波乱の決着となることも少なくなく、3連単の配当が10万円超となったのは、過去10年で6回。さらに、そのうち2回は100万円を超える大波乱で、二桁人気馬の激走も多々あり、一筋縄ではいかないレースとなっている。

2023年も、最終的に5頭が単勝10倍を切る混戦模様。うち4頭のオッズが接近して、いわゆる卍巴の様相となり、その中でバトルボーンが1番人気に推された。

後にGⅠで度々好走するダノンベルーガとデビュー戦で好勝負を演じた本馬。休養をはさみながらも2戦目から4連勝し、オープン入りを果たした。今回は7ヶ月半ぶりの実戦とはいえ、前走ウェルカムSの勝ち時計は、東京芝2000mの条件戦で3歳馬がマークした史上最速タイム。5連勝での重賞制覇が期待されていた。

これに続いたのがセイウンハーデス。ダービートライアルのプリンシパルSを勝利した実績馬で、ダービーと菊花賞はクラシックの壁に跳ね返されたものの、前々走3勝クラスを快勝。さらに、前走の新潟大賞典も2着と好走した。バトルボーンと同じシルバーステート産駒で、GⅠ以外では6着以下がなく堅実。この馬もまた、重賞初制覇が懸かる一戦だった。

3番人気に推されたのがフェーングロッテン。ここまでGⅡ・GⅢは5戦してすべて3着以内の堅実派で、同じ福島の重賞、ラジオNIKKEI賞を勝利した実績がある。半兄にGⅠ馬ピクシーナイトがいる良血で、1年以上コンビを組む松若風馬騎手が引き続き騎乗。1年ぶりの重賞2勝目が期待されていた。

4番人気となったのがエヒト。2022年の当レース勝ち馬で、続く新潟記念は大敗を喫したものの、チャレンジC3着、年明けのGⅡアメリカジョッキークラブCも2着と好走している。前走、サウジアラビアでおこなわれたレッドシーターフハンデキャップは7着とはいえ、勝ち馬から0秒8差と大きくは負けておらず、この馬もまた1年ぶりの重賞2勝目が懸かっていた。

さらに、これら4頭からやや離れた5番人気となったのがテーオーソラネル。上位人気2頭と同じくシルバーステート産駒で、現在3連勝中。とりわけ、3走前の1勝クラスを新人の河原田菜々騎手と逃げ切り、圧勝してから別馬のように強い競馬を見せるようになった。また、前走の岸和田Sは一転して差し切り勝ちと変幻自在で、血統構成も、現在世界ランク1位のイクイノックスと似ており、4連勝での重賞制覇が懸かっていた。

レース概況

全馬ほぼ揃ったスタートの中から、テーオーソラネルとセイウンハーデスがいこうとするところ、内枠を利してバトルボーンが先頭。2馬身差でテーオーソラネルが続き、3番手にククナという隊列になって、1コーナーへと進入した。

その後ろは、セイウンハーデスを挟んでトーラスジェミニ、シフルマン、ホウオウエミーズなど伏兵陣が中団を形成。一方、エヒトはレッドランメルトと並んで中団直後につけ、逃げると思われたフェーングロッテンはスタートでダッシュがつかず、後ろから5頭目に位置していた。

前半1000m通過は1分0秒7と遅い流れ。最後方に構えていたカレンルシェルブル以外の15頭は10馬身ほどの差で固まり、レースは勝負所へと差しかかった。

すると、ここでテーオーソラネルがバトルボーンに並びかけようとスパートし、セイウンハーデスもククナを交わして3番手へ。さらに、残り400mの標識を過ぎたところで、中団付近にいた5頭が先団までどっと押し寄せ、馬群が一気に凝縮。そのまま最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、バトルボーンが後続を引き離しにかかり、リードは1馬身。後退したテーオーソラネルに替わってセイウンハーデスが2番手に上がると、残り150mで先頭に躍り出た。

2着争いは、バトルボーン、ククナ、ホウオウエミーズ、レッドランメルトの争いとなり、さらにそこから牝馬の2頭。ククナとホウオウエミーズに絞られるも、それを尻目にセイウンハーデスが1着でゴールイン。1馬身1/4差の2着争いを制したのはククナで、クビ差3着にホウオウエミーズが入った。

良馬場の勝ちタイムは1分59秒8。好位追走から直線半ばで抜け出したセイウンハーデスが、堂々の横綱相撲で重賞初制覇。近走好調馬が揃った一戦を完勝し、サマー2000シリーズの初戦を飾った。

各馬短評

1着 セイウンハーデス

好位から抜け出して押し切る横綱相撲で、着差以上の完勝。初重賞制覇とは思えないような、堂々の内容だった。

2009年のリーディングサイアーに輝いたマンハッタンカフェは、母父として好調。本馬以外にも、ダービー馬タスティエーラや、先日の帝王賞で1、3着した、それぞれGⅠ3勝のメイショウハリオとテーオーケインズ。さらに、メイショウハリオの半弟テーオーロイヤルとミスニューヨーク、ソウルラッシュなどが、2022年以降に重賞を勝利。また、今回も出走した21年の七夕賞勝ち馬トーラスジェミニも母父マンハッタンカフェで、キングヘイローと並び、今、最も勢いに乗っているブルードメアサイアーである。

2着 ククナ

過去3年の3着内馬9頭中、実に8頭がキングマンボ系種牡馬の産駒。とりわけ2022年は、キングマンボ系種牡馬の産駒、かつ母父ディープインパクトが3着までを独占したが、ククナもまた、この血統構成。

母は、2015年桜花賞2着のクルミナルという良血で、自身もアルテミスSでソダシの2着に好走した実績があり、春二冠も6、7着とまずまずの結果を残していた。その後、3勝クラスを脱するのに手間取り、オープン再昇級初戦の前走も、距離が長かったか人気を裏切ってしまったが、一気の距離短縮となった今回、しっかりと巻き返してみせた。

勝ち切るという意味では、おそらく4で割り切れる根幹距離のレースが良さそう。次走、どのレースに出走するか、動向が注目される。

3着 ホウオウエミーズ

この馬もまたキングマンボ系種牡馬ロードカナロアの産駒だが、同産駒の七夕賞出走は2頭目で、3着内好走はこれが初めてだった。

3週間後にクイーンSがおこなわれるため、牝馬の出走がさほど多くない七夕賞。上位3頭中2頭を牝馬が占めたのは、2011年以来(その前は1987年)で、実に12年ぶり。しかも、2012年以降に出走した牝馬14頭中、2021年2着のロザムール以外は、すべて4着以下と苦戦していた。

同じ2000mでも、前走のマーメイドSは超ハイペースだったのに対し、遅い流れとなった今回も見事に対応して連続3着と好走。2走前の福島牝馬Sは12着と崩れたものの勝ち馬から0秒6差とそこまで負けておらず、昨秋の新潟牝馬S以降は非常に充実している。

コーナーを4度回る直線の短いコース。かつ1800m以上のレースに出走してきた際は、積極的に狙いたい。

レース総評

前半1000m通過が1分0秒7、同後半59秒1と後傾ラップで=1分59秒8。前走、4コーナーを先頭で回った馬が4頭。さらに、近2走に範囲を広げると、4コーナーを2番手以内で回った馬が8頭いるというメンバー構成で、先行争いが激しくなることが予想されたものの、こういう時に限って逃げ争いはあっさりと決着。遅い流れとなり、中団以下に位置した馬にとっては、ほぼノーチャンスとなってしまった。

近走好調馬に、条件戦を連勝してきた馬。また、前述した逃げ・先行馬や、シルバーステート産駒など、共通項の多い馬が顔を揃えた2023年の七夕賞。その中で、シルバーステート産駒に注目すると、2番人気のセイウンハーデスが勝利したのに対し、1番人気のバトルボーンは4着に敗れてしまった。

ただ、今回や前走の結果を見ると、淀みないペースで先行した方が、おそらく良さを発揮できる馬。中山で2勝しているものの、新潟外2000mや東京2000mに適性がありそうで、新潟記念や、例年どおり10月の東京でオクトーバーSが組まれ、そこに出走してくることがあれば、改めて注目したい。

一方、勝ったセイウンハーデス。同じ2000mでも、前走は新潟の外回り。今回は小回りの福島と、両極端な2つのコースでともに連対を果たした。

ダービーと菊花賞は大敗したものの、それ以外の9戦はすべて掲示板を確保するなど非常に堅実。特に、菊花賞後の休養が良い方向に出たことは間違いなさそうで、確実に力をつけている。

次走は新潟記念になりそうとのことで、再び好勝負するようなことがあれば、サマー2000シリーズのチャンピオンはもちろん、七夕賞、新潟記念と連勝し、天皇賞馬にまで上り詰めたオフサイドトラップの再現も期待される。

また、天皇賞(秋)がおこなわれる芝2000mは、JRAの10場すべてに唯一設定されている距離だが、シルバーステート産駒が最も得意な距離でもある。

過去3年(2020年7月11日から23年7月2日まで)、産駒が100走以上した種牡馬の中で、芝2000mの複勝率1位はシルバーステートで36.5%。34.5%のモーリスがこれに続き、二大種牡馬のキングカメハメハとディープインパクト(それぞれ3、4位)を抑えているほど。

シルバーステートといえば、現役時に2度屈腱炎を発症し、5戦4勝の成績で引退。「未完の大器」と呼ばれたが、その5戦すべてでコンビを組んだ福永祐一現・技術調教師も、排気量の大きさは、今まで乗った馬のなかで間違いなくナンバーワンと絶賛。三冠馬コントレイルに巡り会った後も、この評価は変わらないという。

初年度は80万円だった種付け料も、2021年の150万円から、2022年は一気に600万円まで上昇。それでも、過去最高の200頭に種付けするなど、馬産地では絶大な人気を誇っている。

ディープインパクトの後継種牡馬から、牡馬の大物がなかなか出てこないが、シルバーステート産駒は、ニュージーランドトロフィーを制したエエヤンに続き、セイウンハーデスも根幹距離の重賞を勝利してみせた。

現在、ディープインパクトの後継争いで一歩リードしているのはキズナだが、シルバーステートがその座を脅かす日も、そう遠くはないのかもしれない。

写真:焙烙

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