[安田記念]香港馬6年ぶりの安田記念参戦が決定! 香港馬の挑戦の歴史を振り返る。

今年の安田記念は香港馬2頭が参戦!

2024年の安田記念には、2頭の香港馬が参戦する。挑戦を決めたのは、香港ダービー馬ヴォイッジバブルと、クイーンエリザベス2世カップ三連覇を果たした名馬・ロマンチックウォリアーの2頭。

近年、日本で香港の大レースの馬券を買えるようになり、日本の競馬ファンにとっては香港競馬の存在は以前にも増して身近なものになっている。

2011年香港マイルに優勝したエイブルワン。当時はまだ日本で馬券を購入することはできなかった。

しかし、香港の国際G1への親しみが増す一方、安田記念への香港馬の参戦は2018年のウエスタンエクスプレス(結果は10着)を最後に途絶えていた。
近年なら世界の賞金王・ゴールデンシックスティ(G1・10勝馬、2019年〜本稿執筆時点で現役)や、香港マイル、香港チャンピオンズマイル各2勝のビューティジェネレーション(G1・8勝、2016年〜2020年引退)など、参戦していたら大きな注目を集めたであろう名馬の参戦がなく、安田記念は、国際G1というよりは純粋な「春の日本マイル王決定戦」という意味合いが強くなっていた。

久々の香港馬の参戦により、国際G1としての華やかさを堪能できることは喜ばしい。

しかも、香港競馬の歴史にすでに名を残したと言えるレジェンドホース・ロマンチックウォリアーの参戦とあっては、否が応でも胸は高まる。

本稿では、1993年に外国馬に開放された安田記念への香港馬の挑戦の歴史を概観すると共に、今年の香港馬2頭の挑戦について考察したいと思う。

安田記念への香港馬挑戦の歴史。

安田記念が海外馬へ門戸を開いたのは1993年。

以来、31年の歴史で、香港馬は延べ38頭が挑戦し、戦績は2勝、2着・3着が2回ずつ、32回が馬券圏外となっている(なお、香港馬以外では、アメリカ、欧州、オーストラリア、UAEからの参戦があり、通算で延べ18頭、戦績は1勝、2着・3着とも1回ずつ)。

安田記念開放後の数年は、1995年に外国馬として初優勝を飾ったハートレイク(鞍上は武豊)に代表されるUAE勢や、欧米からの有力馬の存在感が大きかった。

特に、1994年は1番人気スキーパラダイス(結果5着)、2番人気サイエダティ(7着)、4番人気ドルフィンストリート(3着)、6番人気ザイーテン(12着)と欧米馬が上位人気を占めた。(優勝したのは日本のノースフライト)。

この年にもう1頭海外から参戦したのが香港馬・ウィニングパートナーズで、これが香港馬にとって初めての安田記念挑戦だった。結果は7番人気で14着であった。

香港競馬界にとって初挑戦は苦い結果となったが、4年後の1998年にはオリエンタルエクスプレスが不良馬場の中タイキシャトルの2着に好走し、”香港馬侮るべからず”と、日本の競馬ファンに印象づけた。

香港馬の歴史的勝利、フェアリーキングプローン。

香港馬が安田記念初制覇を果たしたのは、実力拮抗、混戦模様の2000年だった。

この年の安田記念は、1998年のタイキシャトルや1999年のグラスワンダーのように圧倒的な人気の中心という馬がいなく、1番人気のスティンガーでも単勝オッズは4.5倍。

2番人気以下、ブラックホーク、キングヘイロー、シンボリインディと続き、フェアリーキングプローンは単勝オッズ39.9倍の10番人気という伏兵扱いだった。

しかしレースでは、フェアリーキングプローンは中団後方を追走し、直線で外に持ち出されるとキングヘイロー、スティンガーを差し切り、UAEのディクタットの追い込みも凌ぎ見事に優勝。

府中マイルという底力を問われるコースで、伏兵人気とは思えない堂々とした勝ちっぷりだった。

フェアリーキングプローンは翌2001年にも2年連続で安田記念に参戦。
結果は1番人気に推されながらの9着に終わったが、ドバイデューティーフリーにも挑戦するなど、果敢に海外レースに挑戦した名馬だった。

馬の実力と共に、日本の馬名の文字数制限に収まらない12文字の長さ、「活きがいい大きなエビ」という意味を持つユニークな名前を覚えている日本のファンは多いのではないだろうか。

香港馬2勝目はブリッシュラック。サイレントウィットネスとの”巨漢コンビ”も印象深い。

香港馬として2度目の安田記念制覇は、ブリッシュラックにより2006年にもたらされた。

2006年の勝利はもちろん、前年2005年の僚馬サイレントウィットネスとの参戦も見応え十分だった。

サイレイトウィットネスは、デビューから前走のチャンピオンズマイルまで17連勝を飾っていた香港最強馬。そのチャンピオンズマイルでサイレントウィットネスを差し切り、大金星を上げたのがブリッシュラックだった。

この2頭は550kg前後の迫力満点の体躯を誇り、2005年の安田記念にはサイレントウィットネスが550kg、ブリッシュラックが538kgでの出走となり、合わせて1088kgの「巨漢コンビ」は日本ファンに大きなインパクトを与えた。

この年、人気は割れに割れた。1番人気は最終的にテレグノシスとなったが、単勝オッズは5.8倍。2番人気以下は順にダイワメジャー、ダンスインザムード、アドマイヤマックスと続き、そのあとに単勝8.6倍でサイレントウィットネスが、単勝10.3倍でブリッシュラックが続いた。

サイレントウィットネスにとって、マイルは適距離より少し長かったが、レースでは先行策から直線に向くと、ローエングリンやオレハマッテルゼを競り落とし、ゴール寸前まで迫力ある粘り込みを見せ、3着に踏ん張った。
そして、大外から巨体を揺らし4着に追い込んだのがブリッシュラックだった(勝ったのはアサクサデンエン)。

翌2006年、またしても混戦模様の安田記念。
1番人気は単勝5.7倍のオレハマッテルゼ、2番人気にダイワメジャーが続き、3番人気が2年連続の挑戦となったブリッシュラックだった。

レースでは、ブリッシュラックは道中は馬群の内側で脚を溜め、直線で外に持ち出されると力強く抜け出し、2着のアサクサデンエンに2馬身半の差をつけ快勝した。

前年の優勝馬・アサクサデンエンにきっちりと借りを返し、香港の競馬ファンはさぞかし溜飲を下げたのではないだろうか。

ロマンチックウォリアー、ヴォイッジバブルの挑戦は如何に。

そして今年、2頭の精鋭が東京競馬場にやってくる。

まず、2023年の香港ダービー馬で、今年もマイルG1スチュワーズカップを制しているヴォイッジバブル。

前走のチャンピオンズマイルはビューティーエターナルの華麗な逃げに屈し3着に敗れたものの、ゴールデンシックスティ(4着)に先着している。

また、3走前の香港ゴールドカップではロマンチックウォリアーと直線マッチレースに持ち込んでの惜しいクビ差の2着、5走前の香港マイルではゴールデンシックスティには屈したが、日本のナミュール、ソウルラッシュ、セリフォスなどに先着する2着と、香港トップクラスの実力馬であることは証明済みである。

鞍上には2015年の高松宮記念を香港馬エアロヴェロシティで制した香港競馬のリーディングジョッキー、ザカリー・パートンを配しており、今まで安田記念に参戦した香港馬と比較しても勝負気配は高い。

そして、香港最強クラスであり、世界レベルでも最強レベルにあるロマンチックウォリアー。

ロマンチックウォリアーの馬主、ピーター・ラウ氏は、香港初の百均ショップチェーンを創業した事業家で、自宅の内装に和のテイストを取り入れるなど、大の親日家とのことだ。

日本には旧知の友人もいるというピーター・ラウ氏にとって、ロマンチックウォリアーの日本遠征はかねてからの願望であり、コース適正や相手関係の研究も怠りない。

昨秋のオーストラリア遠征・コックスプレート挑戦も、鞍上のマクドナルド騎手がムーニーヴァレー競馬場を知り尽くしていること、東京に遠征してイクイノックスを相手にすることの難しさなどを天秤にかけ決断したと、香港メディアに語っている。

馬自身の実力については、日本の競馬ファンもクイーンエリザベス2世カップや香港カップで何度も目にしている。この2レースが2000mなので中距離馬のイメージも強いが、香港では2022年1月の香港クラシックマイルを制し、ゴールデンシックスティ、カリフォルニアスパングルと「BIG3対決」と注目された2023年1月のマイルG1スチュワーズカップでもゴールデンシックスティと死闘を繰り広げ2着の成績を残している。

国際G1含むG1・7勝の戦績は今年の安田記念のメンバーでは頭抜けているが、果たしてどのようなレースを見せてくれるだろうか。

迎え撃つ日本勢との縁も興味深い。

セリフォスはロマンチックウォリアーに何度も苦杯を嘗めさせられたプログノーシスの僚馬であり、鞍上も同じ川田将雅。ここは借りを返す千載一遇のチャンスだ。

また、ソウルラッシュはモレイラ騎乗で臨むが、モレイラと言えば2022年まで香港を主戦場とし、香港の競馬ファンには「雷神」の愛称で親しまれ、パートンとは年間最多勝を毎年争った関係である。(過去10年間で、香港リーディングジョッキーはパートンが6回、モレイラが4回)。

ヴォイッジバブルのパートンと、ソウルラッシュのモレイラが日本のG1で腕を競い合う。これぞまさに国際レースの醍醐味だ。

日本の競馬ファンはもちろん、香港の競馬ファンにとっても大注目の一戦。

歴史に残る一戦を期待してゲートインを待ちたい。

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