奇跡の血脈から生まれた無事是名馬 - 2019年ハヤヤッコが勝利したレパードSを振り返る
■白毛という奇跡

当記事を書いている2025年8月現在、中央競馬における「白毛」の現役登録馬は7頭(未出走馬含む)。相変わらず珍しい存在だが、筆者が競馬を見始めた2000年前後はもっと珍しく、まさに奇跡の存在だった。

振り返ってみると、日本初の白毛競走馬のハクタイユーがデビューしたのが1982年の2月。その産駒であるハクホウクンが白毛馬として大井競馬で初勝利したのが1997年12月。そしてホワイトベッセル(母が白毛馬のシラユキヒメ)が白毛馬として中央競馬における初勝利を挙げたのが2007年の4月だったので、2000年頃は中央競馬で白毛馬が勝利することは夢のような話だったのである。

競馬を見始めた2000年前後、学生であった筆者はテレビで観ていた程度だが、おそらくシラユキヒメが走ったであろうレースを、中継で偶然目にした記憶はある。成績を振り返ると地上波の競馬中継に映る10R~11Rを何回か走っているので、そのいずれかのレースだろう。当時は、走るだけでも相当な話題になっていたと記憶している。

また、筆者は当時ダビスタに熱中し、それこそ最強馬をつくるべく何頭も競走馬を生産していたが、1頭も白毛馬に出会うことがなかった。調べてみると1万頭に1頭という説もあるようだが、正確な確率はどうやら判明していないようだ。

さて、競馬中継で偶然目にできた白毛馬のシラユキヒメだが、結局、競走馬としては勝利を挙げることができなかった。しかし父サンデーサイレンスの競走馬としての遺伝子、そしてシラユキヒメ自身の白毛遺伝子が産駒にうまく伝わったのか、多くの子孫たち、しかも白毛の子孫たちが素晴らしい結果を残すことになった。その流れは時を経た今も繋がっている。

関東オークス等の地方重賞3勝を挙げたユキチャン、桜花賞などG1を3勝したソダシ等の白毛馬の活躍馬たち。白毛以外にも重賞6勝のメイケイエール、スプリンターズS勝ち馬ママコチャもシラユキヒメの子孫である。あのとき見たシラユキヒメは間違いなく「奇跡」の馬だったようだ。

ここまで挙げた馬は牝馬ばかりだが、しっかりと牡馬の活躍馬を出している。その代表が2019年のレパードSを勝利したハヤヤッコである。

■タフなレースで目覚めた才能

シラユキヒメの6番仔であるマシュマロの初仔として誕生したハヤヤッコだったが、父キングカメハメハ、母父クロフネ、そしてマシュマロとシラユキヒメということで、オーナー金子真人氏ゆかりの血統背景を持っていた。調教師はアパパネやアーモンドアイら活躍馬を多数世に送り出した国枝栄師。生産はノーザンファームということで、白毛馬であることを除いたとしても注目される存在だった。

後にクラシックホースを多く輩出しているレベルの高い2018年6月の東京でデビュー戦を迎えたが、結果は3着とまずまずの滑り出し。2戦目を夏の新潟で迎えると、最後の直線で白い馬体が1頭突き抜けて4馬身差の圧勝。その後の活躍を期待させてくれる素晴らしいパフォーマンスを披露した。

その後、秋のアイビーSへ歩を進めたが、結果は8着と大敗(ちなみに勝ち馬はクロノジェネシス)。その後は早々に血族で活躍馬をたくさん輩出しているダート路線へと進んでいくことになった。

ダート転向後は4着、2着、2着と歯がゆい結果が続いたが、2019年3月の中山で3馬身半差の圧勝で2勝目をあげてオープンクラスに昇りつめた。その次走は5月の東京で行われる青龍Sに臨むが8着に敗れ休養に。しかしへこたれることなく3か月後の復帰戦に選ばれたのが夏の新潟ダートの重賞レパードSであった。

レパードSにはさすがにダートの強豪馬がそろっていた。兵庫ジュニアGP以降勝ち星からは遠のいていたが、全日本2歳優駿2着・UAEダービー4着・ジャパンダートダービー2着のデルマルーブル、ヒヤシンスS2着・兵庫チャンピオンシップ2着のヴァイトブリックらを筆頭に、すでにこの時点で2勝クラスを勝ち上がっていたサトノギャロス、ビルジキール、ブラックウォーリア、ブルベアイリーデ、アッシェンプッテルらも出走してきていた。そんな中で1勝クラス勝利後、オープンで大敗していたハヤヤッコが10番人気に留まっていたのも当然と言えよう。

スタートすると、多くの馬の鞍上が激しく気合を入れて先行争いは激しくなる。1コーナーで先頭に立ったのがハヤブサナンデクンとサトノギャロスの2頭でどちらも譲らぬ姿勢で並走。デルマルーブルは中団7番手に控え、その後ろにヴァイトブリックが続いた。ハヤヤッコは後方の12番手から無理せず構えてレースを進めていた。

前半の1000m通過は60秒1で良馬場のダートとしては速いペースでレースが進み、3コーナーへ。後方の馬が激しく手が動き始め進出を開始する。ハヤブサナンデクンが先頭とキープし、差がなくサトノギャロスがぴたりとマーク。デルマルーブルが内から先頭の2頭を射程圏に入れて4コーナーへと向かう。ハヤヤッコは相変わらず後方のまま大外の進路を選択。

最後の直線を向くと、ハヤブサナンデクンをサトノギャロスが捕らえ先頭に立とうとするが、内から脚が溜まったデルマルーブルの伸び脚が勝り、一気に先頭に立ちリードを広げようとする。デルマルーブルとサトノギャロスの体勢で決するかと思いきや、ここで2頭を上回る脚で内から伸びたのがトイガー、大外から飛んできたのがハヤヤッコとブルベアイリーデだった。

それでもデルマルーブルがもう一伸びで維持を見せるが、最後の50mでグンと強烈な末脚でデルマルーブルを捕らえたのが白い馬体のハヤヤッコ。1頭だけ残っていたスタミナが違ったようで、まさに俺の出番と言わんばかりの先頭進出だった。クビ差リードしたところでハヤヤッコが1着でゴール。2着に意地を見せたデルマルーブル、3着がトイガーでレースが終わった。レース前半のハイペースが結果的に中団~後方で構えた馬に展開が向いたのはたしかだが、タフな流れの中でそのスタミナが最後の伸びにつながったのがよくわかるレースで、今思うとその後のハヤヤッコが活躍した舞台を振り返れば当然の結果だったのかもしれない。

ハヤヤッコはこのレースが重賞初制覇となり、同時に、これが白毛馬による中央の重賞初制覇となった。

■息の長い活躍でファンを魅了

ハヤヤッコはその後、時には大敗を繰り返しながらもひたすら走り続けた。

2020年10月のブラジルカップ(リステッド)や2021年6月のスレイプニルS(オープン)で勝利をしたが、2つ目の重賞勝利にはなかなかたどり着けない日々が続いていたが、2022年7月に重馬場で行われた函館記念を勝利し、約3年の時を経て重賞2勝目を果たす。洋芝でなおかつ雨で湿ったタフな舞台でハヤヤッコの良さが出たレースだった。

さらに約2年後の2024年の11月のアルゼンチン共和国杯でも後方から追い込みを決めて、G2勝利を挙げて重賞3勝目。この頃ハヤヤッコは8歳を迎えていたが、衰えていないどころかその可能性をさらに広げる勝利を挙げていた。

その次走は有馬記念にも出走したが、8歳らしからぬ”幼さ”を見せてしんがり負けも、その挑戦は年末のファンを喜ばせた。

翌年9歳も現役を続行し、日経賞(10着)からダービーデーの最終レースの目黒記念に出走したが、4コーナーから最後の直線付近で故障発生、競走を中止。白い馬体が馬群から離れる姿にファンは悲鳴を上げたが、なんとか命を取り留め、胸をなでおろした。

引退後はノーザンホースパークで引退展示馬として繋養されることが決まり、ファンミーティングという仕事をしながら第二の馬生を歩んでいくことになった(※)。長くにわたりその愛らしい姿でファンを魅了し続けたハヤヤッコに、筆者もいつか会いに行きたい。”無事是名馬”だからこそ実現したその境遇を大変うれしく思う。(※見学の際はHP等で最新の情報を必ずご確認ください)

写真:ふわまさあき


■白毛ファン待望の「白毛本」が大好評発売中!

ソダシ、ハヤヤッコ、アマンテビアンコ、マルガ──そしてゴージャスやアオラキなど、近年多くの白毛馬たちが競馬界を盛り上げている。そんな白毛馬たちの魅力をまるごと詰め込んだ一冊『名馬コレクション 純白の奇跡』が大好評発売中。ハクタイユーからシラユキヒメ一族、さらにはゴージャス・アオラキといった最近の白毛血統まで、白毛馬たちを徹底的に取り上げた書籍となる。その美しき純白の名馬たちを心の底から堪能できる一冊だ。

※本コラムは書籍未収録です

■巻頭は国枝調教師が語るハヤヤッコとの日々

巻頭 国枝栄調教師インタビュー
   最後に出会った白毛馬との9年間
            - 取材・文 和田章郎

第1章 シラユキヒメ一族 part1

ソダシ ”純白の奇跡”を体現したスーパーアイドル
マルガ デビュー前から話題沸騰したニューアイドル
ハヤヤッコ 愛され続けた、速くて白いタフネス
ユキチャン 白毛旋風の先駆けとなった砂上のヒロイン
アマンテビアンコ ダート競馬の新章を刻んだ白き新星

第2章 シラユキヒメ一族 part2

シラユキヒメ 日本競馬に白毛を定着させた一族の礎
ブチコ おてんば娘から偉大な母へ
シロニイ 碧眼のイケメン兄さん
マイヨブラン、カルパ、エクラドネージュ、シュネーグロッケン、スーホ ほか

第3章 輝き続ける白毛血統

ハクタイユー 一族(ハクホウクン、ハクバノデンセツ・ハクバノスケなど)
The Opera House 一族(アオラキ、スノーエルヴァなど)
マダムブランシェ 一族(ユキンコ、デルマイダテンなど)
サトノジャスミン 一族(ゴージャス、ジャジャミンなど) ほか

第4章 白毛を愛する人々

ヤシ・レーシングランチ代表が明かす・ゴージャス育成秘話
アオラキ 新天地での挑戦 笠松・笹野調教師インタビュー
ナリタファームで過ごす 白毛馬たちの幸せな日々 ほか

【特別寄稿】『私と白毛』
矢野吉彦さん(フリーアナウンサー/競馬評論家)
木津信之さん(日刊ゲンダイ記者)
栗林さみさん(フリーアナウンサー)
一瀬恵菜さん(競馬大好きタレント)
和田稔夫さん(週間Gallop記者)
太田尚樹さん(日刊スポーツ記者)

第5章 白毛を知る

白毛を化学する
世界の白毛事情
白毛馬たちの第二ステージ ほか

書籍名純白の奇跡 名馬コレクション
監修ウマフリ
発売日2025年08月5日
価格定価:2,980円(税込)
ページ数96ページ
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