MRO金賞(えむあーるおーきんしょう)は徽軫賞と共に、他地区のファンからすると謎なネーミングの重賞であろう。
この「MRO」とは、石川県を放送エリアにするテレビ・ラジオ放送局で石川県最初の民放である北陸放送の略称である。
金沢競馬3歳4冠3番目の重賞で、4冠唯一の近畿・東海交流の重賞であり、JRAの菊花賞トライアルへのステップ競走にも指定されている。
創設は1957年で今年64回を迎える4冠で最も歴史ある重賞。金沢競馬の全重賞の中でも今年67回の北國王冠に次ぐ回数を誇る。
その長い歴史の中でMRO金賞は様々な変更が行われてきた。
距離は第1回から1600m→1800m→2300m→2100m→1700m→1900mと伸びたり縮んだり。開催時期や条件も多くの変更が行われ、第1回は夏の古馬重賞というものだった。それが秋に移行され、さらに初夏に移行されて百万石賞のトライアル的レースになり、さらにはJRA準OP馬との交流重賞になり、JRA900万下馬との交流重賞となったのを経て、遂に1999年から東海・近畿・中国交流の3歳重賞となって現在に至る(福山競馬廃止に伴い現在は東海・近畿交流)。
その変更に次ぐ変更の歴史の為に、3歳重賞にも関わらず過去の優勝馬の前半はほぼ全て古馬。優勝騎手を見ると武豊騎手や福永祐一騎手の名前もある(ちなみに福永騎手のルーキーイヤーでこれが地方初勝利)。
さらに条件級重賞(出走条件がA2・A3クラス)の時代があったり、左回りの時代(旧金沢競馬場時代)があったり……長い歴史を持つだけあって他で見られないバラエティに富んだ重賞になっている。
なお、第1回のみ「MRO銀杯賞」と言うレース名であり、名前すら変更が行われていたということになる。
去年、一昨年と遠征馬が優勝。金沢でよく見る『馬場を貸すだけの交流戦』『予想は遠征馬からいけば間違いなし』と思いそうになるが、そういうわけでもない。
3年前、2017年は金沢勢のワンツーで決まっている。
その時の2着は2番人気で後にサラブレッド大賞典を制し、古馬になってから中日杯を制し、東京大賞典にまで駒を進める牝馬のヤマミダンス。そしてその金沢の名牝を抑えて優勝したのは、9番人気のグラスワンダー産駒ムーンファーストだった。
ムーンファーストはこの年の4月23日にデビュー。そこから8月1日までのMRO金賞まで9戦4勝2着5回という安定した成績を収め、ここが初めての重賞だった。
レースは1枠1番の最内枠からスタートよく飛び出し、笠松のグレイトデピュティと軽く競り合うも前を取り切ってハナを切る。1馬身から1馬身半ほど離れてグレイトデピュティが追走し、そこからまた1馬身ほど離れてヤマミダンスが追走。
先行有利と言われていた馬場を先頭で気分よく逃げるムーンファースト、軽快に追いかけるグレイトデピュティ、虎視眈々と前を狙うヤマミダンス。この隊列のままレースは進み、第3コーナー辺りからヤマミダンスが進出を開始し、グレイトデピュティを交わしにかかる。
4コーナーから最後の直線に入るとムーンファーストはさらに差をつけて単騎先頭に。二番手に上がったヤマミダンスが猛追するも1馬身半差を付けてゴールした。派手に大きく何度もガッツポーズをした鞍上の栗原大河騎手と共に、初重賞を飾った。
その栗原騎手は、今年の3歳重賞を自身が所属する菅原厩舎のカガノホマレとともに駆け抜けている。
カガノホマレはデビューから1度も掲示板を外さない堅実な走りを見せて北日本新聞杯5着、そして石川ダービーではあわやの3着。さらに前走のJRA交流能登千里浜賞では押し寄せてきたJRA勢6頭を返り討ちにして優勝。その実力は金沢の3歳の中でも上位クラスと思われる。
そして栗原騎手は今年金沢四大重賞の一つ百万石賞を制して勢いもある。ここで交流重賞を制して、さらなる高みを望むか──要注目な存在となる。
写真:バンコロの渕