今年でちょうど20回目を迎えたアイビスサマーダッシュは、夏競馬の代名詞の一つに挙げられる名物レースで、中央競馬で行われている直線競馬唯一の重賞競走である。今年も、新潟1000m・通称「直千」を滅法得意とする馬、「直千」に初めて出走する馬、芝のレースに初めて挑戦する馬など、バラエティーに富んだ18頭が集結した。

その中で1番人気に推されたのはライオンボスだった。
デビュー後、ダートの短距離を中心に走っていたライオンボスは、2勝クラスの芝とダートのレースで2戦連続最下位に終わり頭打ちになっているようにも思われた。しかし、昨年5月に初めて直千競馬に出走すると一転して5馬身差の圧勝。昨年のアイビスサマーダッシュ制覇を含め、この条件で5戦4勝2着1回というほぼ完璧な成績を残し、現役では日本一直千に強い馬といっても過言ではない「直千の王」である。

対して、2番人気に推されたのはジョーカナチャン。
この馬も、それまでの全勝利を挙げていたダート短距離から一転、一昨年の10月に直千競馬を使われてからはこの条件で4戦2勝2着1回。前走の韋駄天ステークスではライオンボスにアタマ差の2着と肉薄し、今回はリベンジを期す一戦となった。

そして、3番人気は一昨年のこのレースの覇者ダイメイプリンセス。こちらも直千競馬で5戦3勝3着1回と抜群の成績を見せており、それ以外に昨年8月の北九州記念も制した「夏女」である。単勝オッズ10倍を切って上位人気に推されたのは以上の3頭だった。

レース概況

とにかくスタートが重要となるこの一戦で、2番人気のジョーカナチャンが少し出負けし、さらに隣のイベリスに少しぶつかってしまった。しかし、そこからの二の足が抜群に速く、スタートを五分に出て先頭に立とうとしていたライオンボスを制して一気に外ラチ沿いに進路をとり先手を奪う。対して、ライオンボスは無理に付き合おうとはせず2番手に控え、3番手には前走のCBC賞で復活の勝利を挙げたラブカンプーが、2番枠からこちらも外目に進路をとった。

レースの中間点を過ぎると早くも各馬が仕掛け始めるが、手応えが楽だったのか序盤に足を使ったからか、ジョーカナチャンだけは仕掛けをワンテンポ遅らせてから手綱をしごき始める。

残り200m地点。馬場の中央をほぼ真っ直ぐに伸びていた内枠のカッパツハッチが2番手に上がるが、やはりここから末脚に勝ったのは「外枠有利」の定説通り、外枠から発走した馬や外に進路をとった馬だった。残り100mを切り、いよいよライオンボスが最後の仕上げとばかりにジョーカナチャンを交わそうとするが、そこから伸びず脚色が同じになってしまい、逆に後方から追い込んできた直千競馬初出走のビリーバーが一気に差を詰めてくる。結局、ジョーカナチャンがアタマ差しのぎきって重賞初制覇を成し遂げ、ライオンボスは連覇ならず惜しくも2着。さらにクビ差でビリーバーが3着と健闘した。

各馬短評

1着 ジョーカナチャン

上述の通り決して良いスタートではなかったが、二の足が抜群に速く、あっという間に挽回しそれが勝敗を大きく左右した。過去にこのレースを逃げ切った馬は何頭もいるが、今回記録された2ハロン目10.0秒より速いタイムで逃げ切ったのは、2010年のケイティラブ(9.9秒)まで遡らなければならず、その価値は高い。
さらに、前走ライオンボスと4.5kgあった斤量差が、今回は3kgに縮まるも着順は逆転しており、この2ヶ月で力をつけた上に調子も良かったのではないだろうか。
また、ダート短距離に実績のある馬が強いとされるこのコースで、牝馬のロードカナロア産駒は好成績であるデータも後押ししたか。この点については、後述の総評で触れることにする。

2着 ライオンボス

スタートも五分に出て難なく2番手につけ、最もスムーズなレース運びをしたように思えたが、最後のひと伸びを欠いてしまった。今回のパドックでは、前走や昨年優勝時のようなキビキビとした歩きではなく少しのんびり歩いていたように見えたので、もしかすると本調子の一歩手前だったのかもしれない。
ただ、この条件では次走以降も引き続き見限れない。

3着 ビリーバー

土曜日1レースの直千競馬に12頭出走させたことが話題になったミルファームの所有馬。
ハイペースに乗じて差し込んできたとはいえ、初の直千競馬、古馬になってから初の重賞挑戦で3着という結果は、今後に大きく展望が広がる内容だった。

総評

スタートで出負けするも、この馬の最大の武器である二の足の速さですぐに挽回した菱田騎手の積極的な騎乗が光った今回のレース。4走前からコンビを組んでここまで勝つことはできていなかったが、前走ライオンボスに肉薄したことで手応えを掴んでいたからだろうか、レース後のインタビューでも「調教過程がうまくいっているということと、調子がすごく良いと聞いていたので自信をもって乗った」という言葉通り、陣営と騎手が一丸となって最高の結果を生み出した。

最後に、上述の各馬短評でも触れた牝馬のロードカナロア産駒と直千競馬に関して。
直千競馬に強い牝馬のロードカナロア産駒は、それ以外にもダート短距離、特に札幌・小倉のダート1000mにめっぽう強い。これは、スタートから強い馬がガンガン飛ばしていく米国のダート競馬と同じような展開になる直千競馬に親和性があると思われ、おそらくロードカナロアに流れるStorm Catの血が大きく影響しているのではないだろうか。

血統傾向が短期間で変わることが多い直千競馬であるが、ロードカナロアの他にも、今後この舞台で注目できると思われる種牡馬を、数は多いが5頭あげておきたい。
1頭目は、上述のようにStorm Catを持っている点と芝の重賞ウイナーを出しているという点でヘニーヒューズ。もう1頭は、近年の米国のスピード競馬においてStorm Cat系と双璧をなすアンブライドルド系の種牡馬から、まだ芝の重賞ウイナーは出していないがダンカーク。
最後に、今年産駒がデビューする新種牡馬から、Storm Catを持っているという点でアジアエクスプレスと穴でダノンレジェンド、そして今回の3着馬のビリーバーと同じく父系にDubawiを持っている点からマクフィをピックアップする。
来年以降、気にしていただけたら幸いである。

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