年間の最初に行なわれるGⅡが日経新春杯。1ヶ月後に行なわれる京都記念とともに、春の中・長距離路線に向かう古馬たちにとっては、重要なステップレースとなっている。
ただ、別定戦の京都記念とは異なり、ハンデ戦の日経新春杯は例年、これから大舞台を目指す前走条件戦に出走していた馬の活躍が目立つ。世代別に見ると4歳馬が強く、過去10年で7勝と断然の実績。そのうち5頭は、オープンや重賞で勝利実績がなかったものの、この日経新春杯で重賞初制覇を成し遂げた。
ところが、2011年の日経新春杯は、クラシックで連対した4歳馬が2頭も出走し、そのうち1頭はGI・2勝馬という、レース史上最高レベルのメンバーが集結。計6頭出走した4歳馬が上位人気を独占し、とりわけ人気は3頭に集中していた。
1番人気に推されたのはローズキングダム。デビュー戦で、後の皐月賞馬ヴィクトワールピサに完勝すると、3連勝で朝日杯フューチュリティSを勝利。「バラ一族」に、悲願のGIタイトルをもたらした。
その後、史上最高のメンバーといわれたダービーで2着に好走すると、菊花賞でも2着。さらに、続くジャパンカップでも2位に入線し、母のローズバドと同じく、GIで3戦連続2着の憂き目にあったかと思われたが、1位で入線したブエナビスタが進路妨害のため降着。思わぬ形で、2つ目のGIタイトルを手にしたのである。
その後、年末の有馬記念を疝痛で取消し、ここは仕切り直しの一戦。ただ、過去の日経新春杯に出走した馬と比べても実績はトップクラスで、GI馬のプライドを賭け負けられない一戦だった。
2番人気に続いたのがルーラーシップ。父は、ローズキングダムと同じキングカメハメハ。そして、母は牝馬として26年ぶりに年度代表馬に選出されたエアグルーヴという、極めつけの良血馬である。
デビュー当初は、出走を予定していたレースの直前に体調を崩して回避するなど、良血馬特有の順調さを欠く一面もあったが、プリンシパルSを勝利すると、ダービーでも5着に好走。秋は、休み明けの鳴尾記念で重賞初制覇を達成し、続く有馬記念でも0秒4差の6着と健闘していた。
その内容から、古馬の一線級と戦える実力があることは明白。血統面からも、その体に流れるポテンシャルは現役馬でもトップクラスとみられ、大きな期待を集めていた。
一方、3番人気に推されたのがヒルノダムール。
3歳初戦の若駒Sでルーラーシップに勝利すると、若葉Sの2着を挟んで皐月賞も2着に好走した。その後、ダービーと菊花賞で7、9着と敗れ、ここまで重賞は未勝利。
とはいえ、ヒルノダムールには、ルーラーシップにないクラシックの連対実績があり、意地でもここは2頭に先着して重賞初制覇を成し遂げたいところだった。
この3頭が抜けたオッズとなって「三強」の様相を呈したが、それ以外の4歳馬も実力派揃い。菊花賞で3着に好走後、準オープン(現・3勝クラス)のオリオンSを勝利したビートブラックや、京都新聞杯を勝ったゲシュタルト。さらには、前走のステイヤーズS勝利からGⅡ連勝を目指すコスモヘレノスなど、豪華メンバーが集結し、レースは発走の時を迎えた。
ゲートが開くと、全馬きれいに揃ったスタート。その中から、大外枠のビートブラックが各馬の出方を窺いながら先手を主張し、1コーナーに入る手前で単独先頭へ。メイショウクオリアが2番手に続き、その直後をゲシュタルトが追走。そこでおおよその隊列が決まり、ペースは一気に落ちた。
一方、三強の中で最も前に位置したのは、4番手につけたルーラーシップ。ローズキングダムとヒルノダムールは、一団となった先行馬群を前に見ながら、8、9番手を並走していた。
前半の1000m通過は60秒1とゆったりした流れで、先頭から最後方までは、およそ10馬身の差。その後も坂の頂上までペースは上がらず、レースが大きく動き始めたのは、坂の下りからだった。
まず、先に仕掛けたのはルーラーシップで、これにメイショウクオリアとゲシュタルトも反応。早目にスパートをかけた3頭が逃げるビートブラックに並びかけ、前は4頭が横並びに。そこへ内からローズキングダム、外からヒルノダムールも差を詰め、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に向くと、ビートブラックが早くも一杯になり、入れ替わるようにルーラーシップが抜け出し、あっという間に2馬身のリードをとった。ようやくエンジン全開のヒルノダムールが2番手に上がったのに対し、内を突いたローズキングダムは、前が詰まって馬群をなかなか捌くことができない。
そんなライバルたちを尻目に、潜在能力を爆発させたルーラーシップの勢いは、ゴールまで残り200mを切っても衰えず、そこにかつてひ弱だった超良血馬の姿は見られない。一方、皐月賞2着馬として意地でも負けたくないヒルノダムールも懸命に前を追い、GI・2勝馬としてさらに負けられないローズキングダムも、ようやく馬群を捌いて抜け出し、前2頭との差を一気に詰めた。
それでも、2頭の猛追を問題にしなかったルーラーシップが、余裕を持って振り切り1着でゴールイン。先に抜け出した上で、2着ヒルノダムールに2馬身差をつける文句なしの内容で、見事2つ目の重賞タイトルを手にしたのだった。
その後、ルーラーシップは金鯱賞と翌年のアメリカジョッキークラブCを勝利し、香港のクイーンエリザベスⅡ世CでGI初制覇を成し遂げた。GIはこの1勝のみに終わったものの、種牡馬として菊花賞馬のキセキや、コーフィールドCを勝ったメールドグラースを輩出。その能力はたくさんの産駒に受け継がれ、リーディングサイヤー争いでも、毎年ベストテンに名を連ねている。
また、2着のヒルノダムールも、この日経新春杯で目覚めたかのように本格化。次走の大阪杯をレコードで勝利しシルバーコレクターから脱却すると、続く天皇賞・春でも、同期のダービー馬エイシンフラッシュの追撃を封じて連勝。それまでの詰めの甘さが嘘のように、一気にGI馬へと駆け上がったのだ。
一方、ローズキングダムは秋に京都大賞典を制したものの、その後、勝ち星には恵まれなかったが、日経新春杯で逃げて10着に敗れたビートブラックは、翌年の天皇賞・春を逃げ切り、14番人気の低評価を覆して優勝。後輩の三冠馬オルフェーヴルや、前年の天皇賞・秋を制したトーセンジョーダンを破る大金星で、歴史に残るアップセットを演じて見せた。
三強が意地とプライドをぶつけ合った結果、素晴らしい好勝負となった2011年の日経新春杯。以後、それぞれが歩んだ道のりと残した実績を見れば、このときのレースレベルがいかに高かったかは、いうまでもないだろう。
写真:ふわ まさあき