北海道SCで凱旋勝利。門別が送り出した怪物、ニシケンモノノフ。

毎年4月にホッカイドウ競馬が開幕すると「春が来たな」と感じ、10月に閉幕すると「冬が近いな」と感じるファンは、私だけでは無いはずだ。

ニシケンモノノフもそんな一頭だった。同馬は原孝明厩舎に入厩し、2013年7月4日に門別競馬のJRA認定フレッシュチャレンジでデビュー。初戦はハナを切ってレースを運ぶが、ジュリエットレターに2馬身遅れた2着に終わった。だが、中1週で挑んだJRA認定アタックチャレンジでは後続に2.1秒差を付ける圧勝。確かな素質を披露した。

その後、1700mの2歳OPでも勝利を挙げたが、短距離ではモノが違った。秋のイノセントCでは後に南関クラシックで活躍するサーモピレーを相手に1馬身半差の完勝。重賞初制覇を飾る。 

さらなる活躍に期待したいところだったが、移籍話が舞い込む。次の舞台はJRA。世代屈指のスピード能力を買われたニシケンモノノフは勇躍、新天地へと旅立っていった。

JRAの栗東・領家政蔵厩舎に移籍したニシケンモノノフは、不慣れな場所を物ともせず、前評判通りの活躍を見せる。初戦は11月京都の2歳500万下。いくら重賞を勝っているとはいえ、JRAは門別よりも砂厚が薄く、高速馬場で流れも速い。追走に苦労して大敗を喫する馬も多いのだが、結果は大外枠を跳ね除けて4馬身差の圧勝。門別からやってきた怪物候補にJRAのファンや関係者はただただ驚くばかりだった。

同馬はその後、兵庫ジュニアグランプリで重賞初制覇。以降もコンスタントに出走を重ね、古馬になると短距離のダートグレード競走で全国行脚の活躍を始める。また、2017年のフェブラリーSでは不慣れなマイル戦に加えて相手も強力だったにもかかわらず5着に健闘。短距離路線をけん引する存在に昇華していった。

勇躍、ホッカイドウに凱旋

北海道スプリントC、ブリーダーズゴールドC、エーデルワイス賞、JBC2歳優駿と、ホッカイドウ競馬には4つのダートグレード競走がある。このうち、古馬の牡馬が出走できるのは北海道スプリントCのみ。加えて少ないJRAの出走枠に入るのは容易いことではない。

だが、ニシケンモノノフに里帰りのチャンスが巡ってきた。2017年の北海道スプリントCに選定されたのである。黒船賞で5着に敗れたあとだったが、巻き返しを期して出走。ホッカイドウ競馬のファン、地方競馬のファンに成長した姿を見せる、またとない機会が巡ってきたのだ。久々に門別の砂上に立ったニシケンモノノフは凱旋を喜ぶかのようにレースで躍動する。

好スタートからハナに立つと、道中も速いペースのまま後続をけん引。直線の入り口では、他馬の鞍上が激しく手を動かす中、ニシケンモノノフの鞍上・横山典弘騎手は持ったままでさらに加速していき、あっという間に後続に大きなリードを取った。

直線の映像を今改めて見返しても「速い」という印象を抱く。それほど、軽やかな走りで直線を駆け抜けていった。後続は2、3着争いが精一杯で、終わってみれば4馬身差の圧勝。しかも、勝ちタイムは1分9秒4というレコードのオマケ付きだった。それまでのタイムを0.2秒更新。地方やホッカイドウ競馬のファン・関係者は成長した姿を見るどころか、あまりの強さに言葉を失うほどの内容だった。

およそ4年ぶりの凱旋で素晴らしい結果を残すと、その後はJBCスプリントを勝利。名実ともに短距離路線の頂点に立った。地方馬にとってのライバルとなるJRA所属馬の勝利とはいえ、門別出身馬の戴冠に嬉しさを感じたファンも多かったことだろう。筆者もその一人だ。

さらに翌年には再び地に帰還。連覇を狙った2015年の北海道スプリントCは厳しい斤量差もあって4着だったが、ファンに元気な姿を披露。次戦のJBCスプリント10着を最後に引退し、現在は北海道の優駿スタリオンステーションで種牡馬として暮らす。

初年度から複数の勝ち馬を送り出すなど父親としても確かなスピード能力を伝えている。筆頭格は兵庫ジュニアグランプリ3着のデステージョ。門別デビューで現在は高知で活躍中だ(2023年6月現在)。筆者はニシケンモノノフファンの一人としてデステージョの凱旋、里帰りを心待ちにしている。

写真:かぼす

あなたにおすすめの記事