連勝ストップ、思わぬ大敗

こうして重賞連勝を成し遂げた彼女ですが、休むことなく次は船橋で行われるマリーンカップ(1600m・GIII)へ転戦します。ここで再び現女王ホワイトフーガと再びぶつかることになるのですが、今度は自分が単勝2.1倍、ホワイトフーガは2.9倍台と、分け合う形とはいえ1番人気を背負うことになりました。

しかし、5連勝を目指す彼女はゲートが開いた直後、一瞬気を抜いたのか下を向いてしまい、やや出負けしてしまうという痛恨のミスを犯してしまいます。対して大外枠のライバル・ホワイトフーガの方は、ゲートの出はそれなりでも外枠に助けられかぶせられることなく先頭へ。そして、リンダリンダ、ララベル、プリンセスバリューと好スタートを決めた地方勢を追って3番手の外に付けました。
こうなると勝利は厳しいかと思いそうになりますが、ワンミリオンスの本領は、条件戦時代とは言え、1400mで牡馬を撫で斬りにした鋭い末脚。
スタートで若干不利な展開になりつつも勝機はまだあります。ワンミリオンスは6番手当たりにつけてコーナーに入り、末脚を繰り出すべく馬群の中で力を貯めながら待つことになりました。

迎えた3コーナー、逃げるララベルを先に捕らえようとリンダリンダが動いたところで、ホワイトフーガも遅れをとらないようにと外を回って2頭を飲み込もうとします。
抵抗した2頭とともにペースの早くなる先頭集団。こうなると末脚が武器のワンミリオンスに展開が向く……そう思っていた4コーナーで中段を見ると、先頭を追うどころか並走するパールコードとタイニーダンサーに飲み込まれまいと必死にもがく彼女の姿がそこにありました。

そしてそのまま先団にいたホワイトフーガ、ララベル、リンダリンダの順で決着し、ワンミリオンスは出負けしたまま見せ場を作ることなく6着。連勝がストップした上に、痛恨の大敗を喫しました。

彼女の敗因はゲートの出が悪くうまく先団につけられなかったこともありますが、それ以上に57キロの斤量が大きかったのでしょう。
TCK女王盃の時は55キロで、対するホワイトフーガは58キロ。3キロ差というかなり大きなものがありました。
斤量が1キロの差で2馬身は違うといわれていることを考えれば、初勝利の時が小差であった2頭の逆転は仕方ないものと思えます。
加えて中央時代は3歳牝馬ということでかなり斤量的に優遇されていたことを考えると、実力差以上に斤量の影響は大きかったのかもしれません。
ただ、この時には、初の経験であったことや1番人気のプレッシャーということを考えれば、今後の成長でカバーできると思われたのか、大敗について悲観的な声はそこまでありませんでした。

こうして、5連勝はかなわずとも強豪の一角に名を連ねた彼女ですが、3歳秋からの連戦を考えて一旦休養に入ります。
その間に3歳勢からは関東オークスを勝利したクイーンマンボが出てきたり、南関でダートグレード勝利に最も近かったリンダリンダが故障でマリーンカップ後に引退したりと、勢力図が移り変わります。
そんな中彼女は8月に行われる門別のブリーダーズゴールドカップを目指して7月に帰厩し函館で調整に入ったのでした。

破れない壁、自分との闘い

大敗を引きずることなく調子を取り戻したいワンミリオンス。
しかし、トントン拍子で勝ち上がった前年の秋のように上手くいきません。
調整の最中に打撲をしてブリーダーズゴールドカップを回避することになり、さらにはJBCの前哨戦でなんとしても使いたかったであろうレディスプレリュードも態勢が整わず回避。まさかのぶっつけでGI級競走に臨むことになってしまったのです。

この年のJBCレディスクラッシックは昨年以上に混迷を極めていました。
ホワイトフーガは絶対女王だった前年ほどの安定感がなく、ほかの中央勢も勝ったり負けたりと、勢力図が入れ替わり気味といった感じ。
レディスプレリュードで2着のホワイトフーガに8馬身差をつけて快勝したクイーンマンボが回避したこともあって、さらに混沌としそうな雰囲気がありました。
オッズも割れるかどうか注目されましたが──不安要素がありながらも2年続けて勝利していたことや現女王に対する敬意の表れというべきか──押し出されるように、ホワイトフーガが前年同様1.8倍の1番人気に押されます。
続いて2番人気に3歳勢のアンジュデジール、3番人気にワンミリオンスが、ぶっつけ本番とはいえ年初の活躍からおされました。
そのあとに南関勢のララベル、中央準OP馬のプリンシアコメータなどが続く形に。

半年ぶりの実戦に加えて大レースならではの大歓声。ワンミリオンスはゲート入り後に激しく首を振ったりしていて、見ている側としては気が気でなかったですが、久々にコンビを組む福永騎手になだめられ少しずつ落ち着きを取り戻します。

ゲートが開く際に少し跳び上がるような形になってしまいましたが、なんとか互角のスタートを切ってからは、淡々と逃げるプリンシアコメータから4馬身ぐらいのところに陣取り、ホワイトフーガと並走して馬群の中で息を潜める選択をしました。

そして迎えた勝負所の4コーナー、逃げるプリンシアコメータに3番手にいたララベルが外から並びかけ、それをマークするようにホワイトフーガも発進体制。直線に向いたところで彼女も末脚を繰り出そうと馬場の三分所あたりに出しました。

内回りとの合流地点に入ったところで2番手にいたプリンセスバリューが後退し、逃げたプリンシアコメータとララベルが2頭並んでマッチレースの様相となります。
伸びていく2頭を必死に追うワンミリオンス。しかし、外にいた女王ホワイトフーガはバテたのかズルズルと後退。変わって自分を飲み込むほどのすさまじい勢いで伸びてくるのは伏兵のラインハート。
見ているほうも予想だにしなかった結果で驚いたかもしれませんが、それ以上に走っている彼女も複雑だったことでしょう。追い越そうと必死に追い続けた絶対女王が伸びあぐねるも、なかなか縮まらない前の2頭との差、そして猛烈な勢いで追い込んでくる伏兵。

最終的には勝ったララベルからは2馬身と決して大きな差ではありませんでしたが、前の2頭を捉えられなかったうえに、最後はラインハートに差されて4着と無念の結果に終わってしまいました。そして、11着に敗れたホワイトフーガはこのレースを最後に引退して繁殖入りすることになりました。

ワンミリオンスはその後、船橋のクイーン賞でプリンシアコメータへのリベンジに臨む予定でしたが、今度は捻挫で回避を余儀なくされます。こうして彼女の2017年は終わりましたが、重賞2勝ということを考えれば決して悪くない1年だったといえるでしょう。
こうしてGI級競走での勝利こそ得られませんでしたが、ダート牝馬路線の有力候補の1頭として来年もダート戦線に臨むことになりました。

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