再挑戦への道のり

年が明けてダート牝馬路線の勢力図も一気に様変わりを果たしました。
ホワイトフーガはすでに引退し、ララベルもフェブラリーステークスへの挑戦を最後に引退。変わってプリンシアコメータや3歳のアンジュデジール、さらに休養中のクイーンマンボとワンミリオンスが女王の座を狙って相まみえる──そんな構図が出来上がったところで、彼女は翌年のエンプレス杯に臨むことになりました。

ですがここでは勝ったアンジュデジールから1.5秒差をつけられ5着と大敗。その後は中央のOP特別に活路を求めるも栗東ステークス、アハルテケステークスを6着、5着。大敗こそしなかったものの、期待値と比べてパッとしない結果に終わりました。
再び牝馬路線に戻った7月のスパーキングレディースカップでは、牡馬相手にそれなりに走ったこともあって2番人気に押されたものの行き足がつかず4着に敗れ、JBCレディスクラシックの前哨戦となる9月レディスプレリュードでは中央馬5頭の中ではワーストの人気となる5番人気まで支持を下げることになりました。
そこでも人気通りの5着と結果を出せず、かつての輝きを取り戻せないまま彼女の競走生活は過ぎていきました。

この年のJBCは京都で開催ということから、賞金面での不安が特ににない彼女は昨年のリベンジに向かうと思われていました。

「近走勝ちきれなくても牡馬相手のOP特別でそれなりの着順であったことから十分やれるはず」
「6歳になる来年はクラブ馬である以上JBCの時期には引退しているため、ここがGI制覇のラストチャンスなので生涯最高のデキで臨んでくれるのは……」
少なくとも私はそう思っていましたが、なんと次走に選ばれたのは、芝のOP特別アンドロメダステークスでした。

およそ2年半ぶりとなる芝のレースに出走する彼女は、最低人気こそ免れたものの15頭立ての14番人気と、デビュー以来最低の評価で臨むことになりました。メンバーに芝重賞勝ち馬が何頭かいることを考えれば一気の巻き返しは厳しい……そんな非情な評価を背負ってゲートを出た彼女は、後方にポジションを取ります。
迎えた直線、インを突いて伸びるドレットノータスや馬群から伸びるサーブルオールの後方で、ダートで全盛期に見せた末脚を見せることなくそのまま人気通りの14着に沈みました。

しかし、着差は1.0秒と着順の割にそこまで大きくはありませんでした。その甲斐もあってか自走のTCK女王盃では5番人気と、なんとか7歳の準OP馬ビスカリアより人気になるという形でファンからの評価を取り戻しました。しかしゲートが開くと9番手から動けず、直線でバテた馬を抜いて7着。奇しくも勝ち馬は2年前の彼女と同じ5番手からレースを進めたビスカリアでした。そしてこのレースの二日後、彼女はついに輝きを取り戻すことなく競走馬登録を抹消しコースを去ることになったのです。

戦いは次の舞台へ

こうしてワンミリオンスは4連勝のあと、ついに、勝ち星はおろか馬券に絡むことすらできずに引退となってしまいました。
あのマリーンカップでの惨敗はともかく「もし4歳夏の故障がなければ」「もし京都のJBCレディスクラシックに出走していれば」と、競馬に禁物であるタラレバを考えてしまう1頭です。

それでも、2度の故障が幸いにも軽度で、3年間の競走生活を完全燃焼に近い形で終われたことは、彼女にとっても救いであったかもしれません。

ライバルを見ると、ホワイトフーガは4歳の秋以降は喘鳴症に苦しみながらの競走生活でしたし、リンダリンダは故障が原因で4歳春に現役を引退して繁殖入り、トーセンセラヴィに至っては初重賞の舞台で競走中止という悲しい最期を遂げました。
このようなライバルたちの怪我や悲劇を間近で見ての競走生活でしたから、ラストランを終えたときには、衰えへの悲観よりも限界まで走り続けられたことへの安堵の気持ちのほうが大きかったのかもしれません。

ダート牝馬戦線が盛り上がるようになって久しいですが、こうして大怪我なく競走生活を送り、次の世代へとバトンをつなぐ馬が増えていけば幸いです。
まだ気が早いかもしれませんが、いつか彼女や彼女としのぎを削った馬たちの産駒がダートの舞台で活躍するのが楽しみです。

写真:かぼす
 

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