![[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]初めて心が通じ合った瞬間(シーズン1-53)](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/06/2025070104.jpg)
福ちゃんは平穏で幸せな日々を送り、牧場も冬景色へと変わり始めました。今年の年末は意外と休みが取れそうなこともあり、せっかくだから福ちゃんと福ちゃんのお姉さんにも会いに行こうと思い始めました。慈さんにお伺いを立てると、25日ならスタッフもいるので動けそうとのこと。NO,9ホーストレーニングメソドの木村さんにも聞いてみたところ、25日でも大丈夫と答えをもらいましたので、何とクリスマスイブからクリスマスにかけての1泊2日の弾丸ツアーに行くことになりました。
前日(23日)に福ちゃんマグカップの発送作業があり、思いの外、一つひとつを梱包して発送するのに時間がかかり、半日で終わるかと思っていたところが、丸1日を費やしてしまいました。何せ物販を手掛けるのは初めてですから、致し方ありません。福ちゃん応援団の皆さまの元に、クリスマスイブかクリスマスにはマグカップが届き、喜んでもらえる姿を想像するだけで嬉しくなってきます。



その勢いで翌日、羽田空港から飛行機に乗り、新千歳空港に向かいました。空港ではいつもどおり理恵さんが待っていてくれました。牧場からの往復だけでも3時間かかるのに、近所から来ましたといった雰囲気で、何ごともないかのように待ってくれる彼女には感謝しかありません。彼女がいるからこそ、碧雲牧場はここまで安定して素晴らしい牧場になったのでしょう。馬たちだけではなく、牧場のスタッフに対しても、とにかく愛情が深いのです。そして、底抜けに明るい。
新千歳空港でケーキを買い、牧場に向かいました。クリスマスイブのパーティーまで少し時間があるとのことで、僕はさっそく福ちゃんたちの様子を撮影に行きました。前回は福ちゃん以外の3人組女子に周りを固められ、福ちゃんに近づくことができませんでした。もうこの時期の当歳馬は、牝馬とはいえ、身体が大きくなってきていますので、体当たりをされたり蹴られたりしたら大ごとになります。放牧地に入っていくと、どうしても馬たちは興味津々に近づいてきて、ぶつかったり噛んだりされてしまうので、近づきたいけれど近づけないというジレンマが生じます。
今回も一度は放牧地に入ってみましたが、やはりサバちゃんとマンちゃんというヤンチャな2人組がやってきて、僕は放牧地の外に退避せざるを得ませんでした。彼女たちにとっては、「あなた誰? 美味しいもの持ってるの? 遊んで!」と近づいてきているだけなのかもしれませんが、僕にとっては300kgの巨体をした生き物に囲まれて、オヤジ狩りに遭っている気分です。

仕方なく今回は柵の外から撮影をすることにしました。牧柵を間に挟めば、蹴られることもぶつかられることも、周りを囲まれることもありません。噛まれるのに注意するぐらいでしょうか。案の定、牧柵の外にいても、馬たちは近づいてきます。福ちゃんは控え目な性格なのか、何をするにも群れの後ろにいますし、最後に現れます。福ちゃんと話したいし、触れ合いたいのに、肝心の福ちゃんが近づいてこないのです。
今回も福ちゃんとは話せなかったか…とあきらめようとしていた矢先、他の馬たちが僕に飽きて他の場所に行ったこともあり、福ちゃんが最後に寄ってきてくれました。久しぶりの対面です。福ちゃんが少し横向きになったので、お尻のあたりを撫でてあげると、気持ち良かったのかずっとその体勢で動きません。全身に冬毛が生えてきて、まるで絨毯のよう。毛並みを整えるように手でブラッシングすると、福ちゃんも僕に気を許したのか、その後は顔を近づけるようにして甘えてきます。額をはじめ、耳やおでこ、口先を撫でながら、一方的に話しかける幸せな時間でした。福ちゃんと二人きりで長時間を過ごし、初めて心が通じ合った瞬間でした。
実は福ちゃんとはツーショットの写真を撮ったことがありません。福ちゃんのお姉さんとの写真は何枚かあるのですが、福ちゃんとのそれはないのです。なぜかというと、おそらく僕が福ちゃんという存在を一歩引いて眺めていたからだと思います。生まれた瞬間から生かすか殺すかという選択を迫られ、生かすのであればどのように生きる道をつくろうかと考え、動画や写真を撮り始めました。その目は、親バカ的な馬主としての視点ではなく、第三者的なジャーナリストの視点です。守ってあげなければという気持ちが強すぎて、対象を外から見てしまっていた面もあったと思います。障害のある子が産まれた家族の方々にはご理解いただけるかもしれません。そんな僕たちの関係性が、今回の出会いをきっかけに、大きく近づいたのです。
クリスマスイブのパーティーでは、骨付きチキンや理恵さんが焼いてくれたステーキ、慈さんのお母さまのお手製のラザニア、そして空港で買ってきた絶品のチーズケーキなどのご馳走を食べさせてもらいました。最後はクリスマスプレゼントの交換です。僕はハンドクリームやリップなどを贈りました。理恵さんはROSEの匂いのするハンドクリームを選び、さっそく手に塗ってみたようで、「No.1キャバ嬢がつけてそうな良い匂いがする!」と言って喜んでくれました(笑)。
パーティーは盛大でも、牧場の翌朝は早く、22時前にはそれぞれが散り散りに自分たちの部屋に戻っていきます。僕は明日、浦河のNO,9ホーストレーニングメソドに、福ちゃんのお姉さんの様子を見に行きます。12月頭から少しずつ馴致を始めましたので、もしかすると馬場入りするシーンが見られるかもしれません。
(次回へ続く→)