[連載・クワイトファインプロジェクト]第44回 地方競馬を考える①「フタイテンロック」から考える地方競馬の役割とは

地方競馬振興策について、競馬評論家の須田鷹雄氏のX(旧Twitter)の一連のポストが心に引っかかっており、自分なりに地方競馬の良さをアピールしたいとずっと考えていた。

私は地方競馬にしか登録のない馬主であり、中央については組合馬主(3名以上)の構成員になら辛うじてなる資格はあるが今のところ組合を作ってくれる仲間もいない。ただ仮に仲間がいたとしても、正直なところ今の中央競馬のシステムで馬を壊すリスクを負ってまで勝ち上がり競争に挑む必要はないと思っている。

なにしろ、3歳8月というデッドラインが早すぎる。馬がまだ完成しない2歳から3歳前半に無理をさせて、それで疲弊して力を発揮できないまま終わってしまうことは本末転倒ではないかと思うのである。そんな状況下で地方競馬が発揮できるメリットとは何なのか。

クワイトファインにとって、今も忘れられないレースがある。

門別⇒福山と全く好成績を残せないでいた彼は名古屋移籍後3歳の7月に初勝利を挙げ、その後も次々と入厩してくる元中央馬を相手に着賞金を拾い続けた。当時は南関への特例転入という制度があり、条件となる3歳10月末時点での獲得賞金500,000円の到達まであと45,000円までこぎつけていた。しかし2歳5月から1年以上休みなく走り続けた影響か、夏負けも相俟って8~9月は調子を落とし、このままでは10月末までの500,000円到達は極めて困難と思われた。

そして迎えた2013年9月30日の名古屋競馬第1レース。ちなみにこの日は月曜であり、前日にはJRAで最後の3歳未勝利戦が行われていた。

1枠1番、2度目のコンビとなる新人の木之前葵を鞍上に迎えたが、クワイトファインは着外続き、相手もほとんどが中央下がりでは9頭中6番人気の低評価も致し方ないところであった。

レースが始まり、中央復帰を狙う猛者たちが先行争いをするなか、中段インを追走するも前との差は一向に詰まらない。もはやこれまでか、と思った瞬間、木之前騎手が一か八か最内でじっと我慢する選択肢を取った。それが功を奏し、先行争いで疲弊した他馬をしり目に直線するすると馬群を縫い、中央から転入初戦の馬には及ばなかったものの2着に食い込む大健闘、2着賞金35,000円を獲得した。その結果、次走で3着賞金15,000円を加算し、ぎりぎりで南関への移籍を勝ち取ることが出来た。9月末、平日の平場のレースで、並み居る元中央馬を相手に、彼は見事に運命を切り拓いたのである。

とは言え、クワイトファイン自身も含めていつがピークか等は今さら知る由もないが、この時鎬を削ったライバル馬たちはおそらく中央在籍時と比べピークは過ぎていたものと推測されるし、逆にクワイトファインもここがピークだったとも思えないが少なくとも3歳前半よりは力をつけていた。10月まで3歳馬限定戦が組まれていた(現在は9月中旬まで)名古屋競馬の番組編成と、特例転入制度があったおかげではあるが、2歳時に成績が今一つ振るわなくともこつこつと鍛えていって3歳後半でステップアップすることができるのも地方競馬の良さではないかと思うのである。

そんななか、馬券がらみの話で恐縮なのだが、9月28日のGⅢシリウスステークスで、約2年ぶりに万馬券を的中させることができた。軸にしたのはフタイテンロックという馬で、正直なところハンデ50kgと鞍上期待値だけで買ったのだが、ありがたいことに3着に大健闘してくれた。

レース後、この馬の戦績を調べてみて少し驚いた。

一般的に、地方競馬から中央に転入する馬というと、①2歳認定競走勝馬、②中央からいったん地方に移籍し、2~3勝を挙げての再転入、がイメージされると思われるが、この馬はそのどちらでもない。2歳時に岩手でデビューしたものの9戦1勝で認定は勝てなかったが、移籍した南関東で3歳時に7連勝するなど一気に実力が開花し、1着賞金の金額で中央移籍基準をクリアしたという最近ではかなり珍しいケースである。そして中央では3勝クラスの身でありながら重賞で3着に来たのだから、今後が本当に楽しみであるし、地方競馬馬主にとってこんなに勇気を与えてくれる馬は他にいない。はっきり申し上げて、この馬の出世街道を駆け上っていくプロセスこそが「競馬のロマン」だと思うのだ。

クワイエットエニフ号も、このまま行けば3歳になってからのデビューとなる可能性が高く、残念ながら「認定競走」に出走することはできない。しかし、南関東でなんとか食らいついていければ更なる新しいステージを目指すことも理論上は可能(ただし私が中央の馬主ではないので、その際は馬を手放すことにはなるのですが)となる。フタイテンロック号が何がきっかけで実力を開花させたのか、同じ地方競馬関係者として非常に気になるし、クワイエットエニフも南関東の後輩としてぜひともあやかりたいものである。

地方競馬が、そのメリットを生かして地元のスターホースを生み出すために何ができるのか、「時間軸」というテーマで次回コラムを展開していきたいと思う。

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