マーチステークスは、毎年のように大混戦となり、波乱になることが多いダートのハンデ重賞。
過去10年で、3連単の配当が10万円を超えた年が5度あり、その内2度は100万円を超えている。

今年も、出走頭数はフルゲートの16頭となった。

単勝オッズ10倍を切ったのは1頭のみで、断然の支持を集めていた。
その1番人気に推されたのは、4歳の外国産馬アメリカンシード。

父は、米国ダートの大種牡馬タピットではあるものの、デビュー戦には芝のレースが選ばれ、そこを快勝。さらには、皐月賞に出走した実績もある。

そして、昨年の10月。
満を持してダートに転向すると、怒濤の3連勝を達成。
勝ちタイムや2着以下につけた差は圧倒的で、今回がダートの重賞初挑戦ながら、あくまで通過点と見る向きすらあった。

そのオッズは、最終的に1.4倍となった。マーチステークスが重賞に昇格してから単勝2倍を切った馬は、2008年のフィフティーワナー(1.7倍で3着)以来、2頭目であった。

以下、人気順では、前走の東京大賞典で0秒1差の4着に好走したヒストリーメイカー。
6歳牝馬ながら、GⅡ東海ステークス3着、前哨戦の総武ステークス2着と、好走が続くメモリーコウ。
この舞台で安定している、白毛馬ハヤヤッコ。
総武ステークスで久々の勝利を挙げたナムラカメタローが続き、これら4頭が単勝20倍を切っていた。

レース概況

ゲートが開くと、出遅れた馬はおらず、きれいなスタート。

大外から、押してベストタッチダウンがハナを切り、あっという間に2馬身のリードをとった。
2番手にはナムラカメタローがつけ、3番手をレピアーウィットとライトウォーリアが併走。アメリカンシードは、その後ろの5番手となって、レースは向正面へと入った。

他の上位人気馬では、ヒストリーメイカーが7番手。
メモリーコウとハヤヤッコは、そこから2馬身差の10、11番手を追走した。

1000m通過は、59秒7のハイペース。先頭から最後方までは、20馬身以上の縦長の隊列となった。

続く3~4コーナーの中間点で、ベストタッチダウンのリードはさらに4馬身と広がり、2番手と3番手の差も2馬身に広がったが、4コーナーでベストタッチダウンが急性心不全を発症、ペースが急激に落ちる。
ナムラカメタローとレピアーウィットがそこに並びかけ、4コーナーを回った。

直線に入ると、ナムラカメタローとレピアーウィットが抜け出す一方で、早くもアメリカンシードはズルズルと後退。さらに、坂を上ったところでナムラカメタローが脱落し、レピアーウィットが単独先頭に立った。

そこへ、後続から襲いかかってきたのが、ヒストリーメイカーとメモリーコウの2頭。とりわけ、ヒストリーメイカーの勢いがよく、レピアーウィットに半馬身差まで迫ったが、レピアーウィットも前に出ることを許さず、半馬身差をキープしたまま1着でゴールイン。

2着にヒストリーメイカーが入り、3馬身差の3着にメモリーコウが入った。
稍重の勝ちタイムは1分51秒0。6歳馬のレピアーウィットが、念願の初重賞制覇を飾った。

各馬短評

1着 レピアーウィット

3戦全勝で2013年の朝日杯フューチュリティステークスを制し、種牡馬としても、2020年から産駒がデビューしているアジアエクスプレスを全兄に持つ良血馬。その良血ゆえ、自身も2016年のセレクトセール1歳市場で、税込1億5120万円で購買されている。

勝つときと負けるときの差が激しく、いかにもアメリカ系種牡馬の産駒らしい特徴を持つ。
道悪か良馬場か、外枠か内枠かなど、走る条件が定まらず、なかなかあてにしにくいタイプではある。

今回も、武蔵野ステークス10着から4ヶ月半の休養を経て復帰し、プラス18キロが太そうに見えたが、何事もなかったかのように勝利してみせた。

ただ、中山ダート1800mはこれで5戦3勝3着1回となり、昨年のこのレースでも3着に入っているため、得意舞台とみて間違いないだろう。

2着 ヒストリーメイカー

昨年の、みやこステークスの回顧を担当した際に「湿った馬場の阪神で2勝しているが、基本的には力勝負が得意ではないだろうか」と書いたが、今回も湿った馬場であっさりと好走した。申し訳ない。

7歳になっても好走が続いていて、デビュー2戦は大敗したものの、それ以降31戦して(地方競馬所属時も含め)掲示板を外したのはたったの2回だけ。しかもその2回のうち1回は6着という、堅実派。

1800m以上であれば、まだまだ活躍は続くと思われる。
なんとか重賞を勝ってほしいと、応援せずにはいられないような存在だ。

3着 メモリーコウ

JRAには現在、重賞を含む牝馬限定のダートのオープンがない。
オープンまで出世した牝馬は、地方競馬で行われる、牝馬限定のダートグレード競走を目指すのが基本路線となる。

しかし、本馬はなかなかその出走枠に入れず、年明け以降、JRAの牡馬混合のレースに出走している。そしてその3戦すべてで、3着内に好走している。

6歳ながら、23戦して掲示板を外したのは3回だけという堅実派。
ヒストリーメイカーと同様に、この馬にも、なんとか重賞を勝ってほしいと思わずにはいられない。

14着 アメリカンシード

落鉄の影響もあったようだが、逃げることができず、砂を被って頭を上げ大敗してしまった。

マーチステークスは、5、6歳馬が強い一方で4歳馬は苦戦していて、1番人気に推されるような馬でも、度々4着以下に敗れている。

昨年、ジャパンダートダービーで断然の支持を集めながら、7着に敗れたカフェファラオを思い出すが、アメリカンシードも持っているポテンシャルは間違いなく一級品。内枠に入ったときや逃げられなかったときなど、課題はあるが、それらを克服し成長すれば、近い将来GⅠを制したとしてもなんら驚かない。

レース総評

JRAで、最も多くレース数が行われているコースは中山ダート1800m。次いで中山ダート1200mとなっている。今回勝利したレピアーウィットの父ヘニーヒューズは、ダートのトップサイヤーの一頭だが、この2コースともを得意にしている。

また、近年の日本のダートは、ゴールドアリュール系やキングカメハメハ系が強いが、依然としてアメリカ系種牡馬の産駒も強い。

ヘニーヒューズのように、父型にストームキャットを持つ種牡馬や、エーピーインディを持つ種牡馬、ファピアノを持つ種牡馬、フォーティナイナーを持つ種牡馬が代表的。総じて、馬場が湿って時計が早くなると、さらに強さを発揮する。

一方で、今回のアメリカンシードのように、砂を被るなどのいやなことがあると、途端に大敗を喫してしまうことがある。

レピアーウィットは、アメリカンシードよりもさらに内枠の、2枠からのスタートなったが、道中は3番手の外を回り、2番手とも差が離れていたため、砂を被らず気分よく走れたことも勝因の一つだろう。

土曜日の深夜にはドバイワールドカップデーが2年ぶりに開催され、中でも、アメリカ勢が強いゴールデンシャヒーンとワールドカップで、日本のレッドルゼルとチュウワウィザードが2着に好走したことは、大変な快挙といえる。

そういった世界に通用するような一流馬がこれからもどんどん誕生し、日本のダート界が芝に負けないくらいの、さらなる盛り上がりを見せてくれることを願っている。

最後に、ベストタッチダウンが急性心不全を発症、この世を去った。
残念でならない。まだ5歳、昨年にOP競走を勝利して、まさにこれからの馬だった。
ご冥福をお祈りいたします。

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