上半期の総決算、宝塚記念。
有馬記念同様、ファン投票により出走馬が決まるこのレースは、通称『春のグランプリレース』と呼ばれ、例年GⅠ勝ち馬が多数集結し華やかなイメージがある。しかしその華やかさとは対照的に、しばしば上位人気馬が馬券圏外に終わってきた波乱の歴史もある舞台だ。

梅雨時に開催されるため馬場が悪化していること、小回りコースで行われること、そしてJRAのGⅠでは2レースしかない2200mで開催されることが、波乱の主な要因といえるだろう。
今年は10年ぶりに、フルゲートとなる18頭が参戦。ファン投票1位のアーモンドアイは回避したものの、GⅠ馬8頭という大変豪華なメンバーが揃った。

上位人気に推されたのは、アーモンドアイと並ぶ古馬王道路線のスターへの道を期待されるサートゥルナーリアと、2頭の牝馬・ラッキーライラックとクロノジェネシスの3頭だった。

その血統背景からも、デビュー前から大いにファンの期待を背負ってきたサートゥルナーリア。ここまで馬券圏外に敗れた2戦が東京競馬場ということもあり左回りが苦手なのではないかと不安視されていたが、前走GⅡ金鯱賞でその不安を吹き飛ばすかのような2馬身差の快勝。今回は、それ以来約3ヶ月半ぶりの実戦となったが、昨年の皐月賞優勝時と同様、近年のトレンドにもなっている『休み明け初戦でのGⅠ出走』というローテーションでもあり、大きな問題はなさそうに感じられる。

一方、2頭の牝馬ラッキーライラックとクロノジェネシスは、前走4月上旬に阪神内回りコースで行われたGⅠ大阪杯の1・2着馬。サートゥルナーリアほどの長さではないにせよ、2頭もまたそれ以来の休み明けでのGⅠ出走となり、上位人気馬3頭にはいずれも、ノーザンファームしがらきで調整されていた休み明けの馬という共通項があった。

レース概況

前夜に降ると予想された雨はほぼ降らず、当日は良馬場のままレースが進んでいた。
しかしレース発走のおよそ1時間前に短時間ながら降った大雨により、馬場状態は稍重となった。結果的に、この大雨がレースの行方を大きく左右することになる。

全馬大きな出遅れはなくスタート。
まずはトーセンスーリヤ、ワグネリアン、ラッキーライラック、ダンビュライトの4頭が先行集団を形成する。展開の行方を大きく左右し得る存在でありスタートが大いに注目されていたキセキは、まずまずのスタートを切りながら、後方に控える。
4番人気ブラストワンピースが大外18番枠から先行した4頭を追走し、クロノジェネシスはラッキーライラックを1馬身半ほど前に見る形でマーク。ちょうど真ん中の9番手の外側を、北村友一騎手が少し押さえるように追走していた。
一方、同じポジションではあるものの馬場の内目を走っていたのがサートゥルナーリア。そして、スタートしてすぐ後方に控えたキセキも、向正面に出た辺りから馬場の外側に持ち出し前との差をジワリと詰め始めた。

前半1000mの通過タイムは60秒0。
一見スローに思えるが、直前に降った大雨の影響により馬場はおそらく重馬場相当にまで悪化していたと思われ、むしろやや速い流れといえた。

3コーナー付近から18頭中14頭が一団になり、残り800mを切ってまずラッキーライラックが仕掛け始める。連れてクロノジェネシスがその外から馬なりで並びかけ、キセキも同様に馬なりで上がっていく。先頭集団で手応えが良いのはこの3頭。
ブラストワンピースは早くも後退し、一度集団の最後方14番手まで下がってしまったサートゥルナーリアは、そこから馬場の外目に持ち出してポジションを上げ始め、後手を踏みつつも先頭の上位人気馬3頭を追撃し始める。

4コーナーを回り最後の直線に向くと、明らかにクロノジェネシスとキセキの手応えが良く、ラッキーライラックをあっさり交わして差を広げていく。これまた中団やや後ろからいつの間にか先団に上がってきていたモズベッロと、4コーナーで猛追してきたサートゥルナーリアが前の2頭を追うが、残り200m地点を前にしてクロノジェネシスがキセキをはじめとする後続との差を広げはじめ、坂を越えてさらにその差が一気に広がる。
3番手以降はここで完全にバテてしまい、キセキは最終的には3着馬に5馬身の差をつけたが、クロノジェネシスはそのはるか6馬身前を悠々と駆け抜け、歴史的な圧勝。
見事に春のグランプリホースの座を獲得した。

各馬短評

1着 クロノジェネシス

レース前の大雨で道悪の巧拙の差が例年以上に顕著に出たため、この着差を鵜呑みにはできないものの、それを踏まえても大変強い内容だった。
3ヶ月の休み明けで、馬体重はプラス10kg。しかしパドックでは全く太く見えなかった。まさに今が充実期ということなのだろう。
外枠を利して、馬場状態が幾分かマシだった外目を選び、終始手応え十分に追走した北村友一騎手の好騎乗も見逃せない。

父は凱旋門賞馬バゴ。
今回のレース内容や血統背景を見て、この馬に是非とも凱旋門賞に挑戦してほしいと思ったファンは多いはずだ。
また、有馬記念に出走しても昨年同様の消耗戦になれば、リスグラシュー級のパフォーマンスも期待できるのではないだろうか。

2着 キセキ

前走の天皇賞春では、スタートを決めたにも関わらず見せ場なく終わってしまった。「もはやここまでか」と思っていたファンは、少なくなかったはずだ。
パドックでも抜群の気配を見せ、調子は明らかに上向きだったこともあるが、さらに今回は名手の騎乗が光った。
得意の道悪となった今回は序盤後方に控えたものの、水を得た魚のごとく馬場の外目からスイスイとポジションを上げ、3コーナー中間ではあっという間に先頭集団へ。最終的にこの馬自身も2着馬に大きな差をつけたが、いかんせん相手が悪かった。
もともと阪神2200mが大得意な武豊騎手ではあるが、まさに『ユタカ・マジック』炸裂ともいうべき内容だった。今後もスタートの不安はつきまとうものの、消耗戦になれば浮上してくる可能性は十分にあるだろう。

3着 モズベッロ

芝の距離短縮に強いディープブリランテ産駒。しかし道悪に関しては、牝馬が得意な一方で牡馬は苦手とする馬が多いため、この馬の激走は個人的に驚きであった。
1着馬同様、母系に流れるアメリカのダート血統がそれを後押ししたのかもしれない。
また、相変わらずGⅠ、とりわけ春秋グランプリに勝負強い池添騎手のアシストが大いにあったことも見逃せない。

4着 サートゥルナーリア

この馬は東京競馬場や京都外回りに多い「切れ味勝負」をこなせなくはないが、アーモンドアイやディープインパクト産駒には分が悪いのかもしれない。
皐月賞を勝利し、有馬記念で2着していることからも、直線が短くゴール前に急坂のある中山や阪神での消耗戦が得意なのだろう。
母系を強く出すロードカナロア産駒の例に漏れず、母系に流れるサドラーズウェルズの血が影響している可能性が高い。

しかし、いかんせん今回は直前の大雨で馬場が悪くなりすぎてしまったように思う。また、阪神2200mに関しては、ルメール騎手にしては珍しく苦戦しているという点も見逃せない(宝塚記念は6戦して全て4着以下)。
結果論ではあるが、道中も馬場の悪い内側ではなく外目を通っていれば、残り200mでバテることなくもう少し前との差を詰められていたはずだ。

レース総評

レース1時間前の大雨により、例年以上に道悪の巧拙が問われ大きな着差がついた今年の宝塚記念。しかし、8枠が強い・牝馬が強い、という宝塚記念のセオリーは、今年も変わらなかった。

今秋から京都競馬場の改修工事があり、来年のこの時期の阪神開催がどういった流れで行われるかはわからないが、この傾向は忘れずにいたい。また、今回の結果は秋シーズンに行われる天皇賞秋やジャパンカップとリンクしない可能性は高いが、有馬記念とは大いにリンクする可能性があることも忘れてはならない。

今年でなくとも、クロノジェネシスには凱旋門賞に挑戦して欲しいと感じるレースであった。日本競馬の悲願である凱旋門賞優勝を、父娘二代制覇という偉業とともに達成してほしい。

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