サマースプリントシリーズ第2戦、CBC賞。毎年中京競馬場で行われてきた伝統の一戦だ。しかし、今年は秋から京都競馬場の改修工事が行われる影響で、2011年以来9年ぶりに阪神競馬場での開催となった。
従来の左回りから右回りに、直線の長いコースから直線の短い内回りコースに、さらにハンデ戦と梅雨時の緩い馬場という要素も相まって、多くの競馬ファンにとって難解なレースとなったはずだ。
ファンの悩みが反映されたかのように、単勝オッズが10倍を切った馬は最終的に5頭。
そのなかで1番人気に推されたのはクリノガウディーだった。
前走のGⅠ高松宮記念では1位入線も、直線で他馬の進路を妨害してしまい無念の4着降着。通算2勝目がGⅠ制覇という大金星は目の前ですりぬけてしまったが、GⅠで1位入線を果たしたことは事実。今回はその実力を再度見せつけたいところだ。
2番人気のタイセイアベニールは近4戦で3勝と、5歳にしてついに本格化。
鞍上も今年GⅠ2勝を含む重賞7勝と、こちらも本格化の感がある松山騎手。前走勝利した鞍馬ステークスから継続して騎乗することも、力強い後押しになると評価された。
3番人気は昨年の覇者レッドアンシェル。
そのレース後に脚部不安を発症して7ヶ月休養し、復帰後の2戦はいずれも二桁着順に終わっているが、昨年道悪でこのレースを快勝したシーンを鮮明に覚えている人もたくさんいるだろう。内枠の福永騎手が、いかにも一発ありそうな雰囲気を醸し出す。
そして、4番人気に推されたのがミッキースピリットで、こちらは1勝クラスから3連勝で挑んできた上がり馬である。それまで14戦して1勝だったことがまるで嘘のような近走の充実ぶり。ディープインパクト産駒×ノーザンファーム生産馬にしては珍しい、叩き良化型のスプリンターである。以下、僅差で阪神コース・道悪がともに得意なロケットが人気順で続いた。
レース概況
週中の天気予報では当日は雨だったが、日中は降ることもなく推移し、馬場状態は稍重。稍重発表とはいえ(先週の宝塚記念の時ほど悪化はしていないものの)どちらかといえば重馬場寄りの稍重といっていい馬場状態にみえた。
そんな中スタートが切られ、まずラブカンプーが好スタートから一目散に逃げる。
逆に、人気のクリノガウディーをはじめ、少しダッシュがつかない馬が3頭ほど出てしまい、このスタートの明暗が結果を大きく左右することになった。
2番手につけたのはアンヴァルとロケット。
そして、内からレッドアンシェルも先行集団に一瞬加わりかけるが、外から4頭ほどが先行集団に食らいつこうと内に寄せて来たのを見て少し後ろに下げる。その後、クリノガウディーがちょうど真ん中8番手辺りまで盛り返し、タイセイアベニールがそれをマークするように追走した。
先行集団はある程度激化したものの、逃げたラブカンプーは特に競られることなく、終始2番手との差を1馬身ほど保ちながら最内ぴったりを逃げる。
前半3ハロン通過は33秒5と、馬場状態を考慮すると少し早めのペースだった。
対して、2番手の2頭は馬場の1~2頭分内を空けて追走していたため、4コーナーからラブカンプーとの差が徐々に広がり始める。直線に向くと、その差は2馬身ほどに広がっていた。
逃げるラブカンプーの思いもよらない手応えの良さにいち早く反応したのは、福永騎手とレッドアンシェル。直線に入ると、馬場の真ん中寄りにレッドアンシェルを誘導して必死に前を追う。しかし、道中ラブカンプーが通った最内をなぞるように回って2番手に上がってきていたアンヴァルの手応えも良く、そこもなかなか交わせない。クリノガウディーに至っては、前2頭が壁になりなかなか抜け出すことができず、外へ持ち出さなければならないロスが生じる。
そうこうしている間に、阪神内回りの直線はあっという間に残り200mを迎え、ラブカンプーと2番手アンヴァルの差は一気に4馬身ほど広がってしまっていた。
坂を上って詰まると思われた差も2馬身ほどにしか縮まらず、レッドアンシェルも本調子にはなかったのかここで脚色が同じになり、逆に同じ進路を通ってきたタイセイアベニールに詰め寄られる。
結局ラブカンプーが悠々と逃げ切り、2着がアンヴァル。
3着は際どくなったもののレッドアンシェルが死守し、1番人気のクリノガウディーは12着に敗れる大波乱の結末となった。
各馬短評
1着 ラブカンプー
2年前のGⅠスプリンターズステークスと、今回と同条件のGⅡセントウルステークスで共に2着という実績は、今回のメンバーでも圧倒的に上位ではあった。しかし、その後4戦連続のシンガリ負けを含む15戦で13度の2桁着順という極度の不振に陥っていたため、今回は斤量最重量馬とは実に7kg差のハンデ最軽量馬となっていた。
父ショウナンカンプとその父サクラバクシンオー、さらに母の父マイネルラヴは全てJRAのスプリントGⅠ勝ち馬。道悪になり展開と枠順の利があれば、スプリンターズステークスで再度の激走を見せる可能性はあるだろう。
2着 アンヴァル
1着馬もそうだが、個人的にはこちらの激走の方が驚きだった。
阪神コースは過去5戦して全て4着以下で、今回が6戦目にして初めての連対。
母系の良さを引き出すロードカナロア産駒にあって、この適度に緩くなった馬場が母の父フレンチデピュティ(直仔に道悪や阪神コースでのGⅠ・重賞勝ち馬複数)の長所を引き出したのかもしれない。
また、急遽の騎手変更により乗り替わりとなった北村友一騎手だが、ラブカンプー同様に終始最短距離を回り、直線では内2頭分空けたところを通って伸びてくるなど、先週から引き続きその技術は冴えに冴えている。
3着 レッドアンシェル
「(最後は)失速気味の3着でした。良い頃から比べると物足りなさはありますが最低限の格好はつけてくれました」というレース後のジョッキーの談話通り、昨年優勝時のデキにはまだ戻っていなかったのだろう。しかし、特に芝の重賞で内枠に入った福永騎手の好走はこれまでも枚挙に暇がなく、今回も道中は内1頭分を空けたコースをそつなく追走し、直線では最も伸びそうな内から3頭目あたりに馬を誘導して前を追い、前年覇者の威厳はなんとか示した格好だ。6歳にして今回がまだ18戦目。早期の復調が待たれる。
総評
中京競馬場で行われていたCBC賞では、逃げ切り勝ちは一度もなく、上位馬の脚質という面では前年までとまるで違う結果になった。
また、それと同時に、道悪競馬では前に行く馬に常に注意を払わなければならないということを、改めて痛感させられる一戦でもある。
ラブカンプーの2年半ぶりの復活勝利は、確かに展開に恵まれたところも多いのかもしれない。しかし戦前から枠順や斤量を考慮して積極的な競馬をしようと心がけ、『展開に恵まれにいった』斎藤騎手の作戦の賜物であり、不調に陥っても決して諦めなかった陣営の執念とが合わさって、最高の形で結実した一戦となった。
今週は、奇しくも関西に所属する3名の2年目の騎手の間で明暗が分かれることになってしまった。まずは、落馬骨折となってしまった団野騎手の早期の復帰を願うと共に、多くの若手騎手達が関西リーディングの上位を賑わす日々が近く来ることを楽しみにしたい。