[重賞回顧]天国の偉大な作曲家に捧ぐ、白秋の好レース~2021年・毎日王冠~

1着馬には、天皇賞秋の優先出走権が与えられる伝統の重賞、毎日王冠。

過去には、オグリキャップやサイレンススズカ、グラスワンダー、ダイワメジャーなど、幾多の名馬がこのレースを勝利してきた。

近年は、天皇賞秋よりもマイルチャンピオンシップと関連性が強くなっているが、豪華メンバーが集う点は例年と同じ。2021年も、出走頭数は13頭と落ち着いたものの、GI馬が2頭、GI2着の実績を持つ馬が3頭というメンバー構成となった。さらに、東西のトップジョッキーたちが集結。

人気はやはりGI馬2頭に集中。

僅かな差で1番人気に推されたのは、ドイツ生まれの3歳馬シュネルマイスターだった。この春は、2戦2勝で挑んだ弥生賞で2着となり、続いて出走したNHKマイルカップでGI初制覇。さらに、古馬との対決となる安田記念にも果敢に挑戦し、0秒1差の3着に好走した。まだ4着以下がなく、今回も古馬混合戦とはいえ、GI馬は自身を含め2頭のみ。結果も内容も問われる一戦となった。

2番人気に推されたのはダノンキングリー。2年前の共同通信杯で重賞初制覇を飾ると、皐月賞で3着、ダービーも2着に好走し、秋に毎日王冠を勝利した。その後、中山記念で重賞3勝目を挙げたものの、GIでは勝ちきれないレースが続いたが、7ヶ月ぶりに出走した前走の安田記念を勝利し悲願のGI制覇。今回は3戦3勝と得意の1800mで、一昨年に勝利したレース。GI以外は無敗で、安田記念で負かした相手は、現役トップクラスのグランアレグリア。前哨戦とはいえ、この馬も内容が問われる一戦となった。

少し離れた3番人気がヴァンドギャルド。デビュー戦を勝利した後、2勝目を挙げるのにやや手間取ったものの、一昨年の秋から条件戦を3連勝。オープンに昇級後、再び壁にぶつかりかけるも、昨年の富士ステークスで初めて重賞を制した。続くマイルチャンピオンシップと東京新聞杯は6、4着に破れるも、初の海外遠征となった3月のドバイターフで2着に激走。次走は、米国のブリーダーズCマイルに参戦する予定で、どれだけ勢いをつけられるか、結果に大きな注目が集まった。

そして、4番人気となったのがポタジェ。ディープインパクト産駒で、半姉に16年の当レースを勝ったルージュバックがいる良血。ここまで10戦5勝2着4回3着1回と底を見せておらず、近2走は重賞で3、2着とあと一歩の成績。待望の重賞タイトル獲得と姉弟制覇を同時に成し遂げ、秋のGI戦線に名乗りを上げるか注目が集まっていた。

レース概況

9月30日に亡くなった、すぎやまこういちさん作曲のGIファンファーレが鳴り響いた後、レースはスタート。

ゲートが開くと、カデナが出遅れ、ダノンキングリーもダッシュがつかず後方からの競馬となった。

好ダッシュを見せたダイワキャグニーが逃げるかと思われたが、バックストレッチに出たところで、トーラスジェミニが交わして先頭へ。3番手にカイザーミノルがつけ、ポタジェ、ケイデンスコールの並び。その後ろに、同じ勝負服のヴァンドギャルドとラストドラフトが追走し、ダノンキングリーが後方からポジションを上げて一気に5番手まで進出。シュネルマイスターは、後ろから2番手でレースを進めた。

前半800m通過は46秒7、1000m通過が58秒5とまずまずの流れ。3~4コーナーでも前の並びは変わらず、5番手のダノンキングリーまでが、それぞれ1馬身~1馬身半ほどの間隔。先頭から最後方までは、およそ15馬身のやや縦長な隊列となって、レースは最後の直線勝負へと入った。

直線に向くと、残り400mを過ぎたところでダイワキャグニーが先頭。そのまま粘り込みを図ったものの、残り200mで、今度はダノンキングリーが先頭に立った。ダイワキャグニーが必死に抵抗したものの、差は広がりはじめ、かわってポタジェが2番手に上がるも、それらをはるかに上回る勢いで追い込んできたのがシュネルマイスターだった。

残り50mで2番手に上がると、NHKマイルカップの再現を見るような伸び脚で、先頭をいくダノンキングリーにも一気に迫り、クビの上げ下げとなったところでゴールイン。

結果、アタマ差で勝利していたのはシュネルマイスターで、ダノンキングリーは悔しい2着。1馬身半差の3着にポタジェが入った。

良馬場の勝ちタイムは、1分44秒8。ルメール騎手は、二日連続の重賞勝利で当レース連覇。シュネルマイスターにとっては、安田記念の雪辱を果たす重賞2勝目となった。

各馬短評

1着 シュネルマイスター

騎乗したルメール騎手は、前日のサウジアラビアロイヤルCとは対照的に淀みない流れとなったこのレースのペースも読み切り、極限まで仕掛けを我慢。

最後の最後に末脚を爆発させて図ったように差し切り、トップジョッキーたるところを見せつけた。

インタビューを聞いていると、実際はダノンキングリーが動いたところでシュネルマイスターはあまり進んでいかなかった様子。馬も冷静に走っていて、休み明けだったこともありプレッシャーをかけず馬の意思を尊重・優先したそうだが、それが最後の数センチ差を生みだした。

次走は、予定どおりマイルチャンピオンシップになる模様。追って追って伸びる末脚は、阪神の外回りでも確実に活かせそうだ。

2着 ダノンキングリー

スタートで立ち後れたのが、最後に響いてしまった。ただ、道中で動いたことが裏目に出たわけではなく、あれがなければ2着すらなかったかもしれない。

休み明けでこそ力を発揮するタイプで、次走はどこになるだろうか。天皇賞秋はもちろん、もしかすると、マイルチャンピオンシップも間隔が短いだろうか。

筆者としては、実は香港マイルが面白いと思うのだが、安田記念を勝っているだけに、馬場が合わない可能性もある。2走連続で好走できたのは大きく、次走がどこでどういう結果になるか、多いに注目したい。

3着 ポタジェ

メンバーレベルが上がった今回も、相手なりに走り3着。姉弟制覇はならなかったものの、十分に見せ場を作った。

こちらも間隔を開けながら出走し、好走を繰り返すタイプ。天皇賞秋で、2、3着に激走してもおかしくないと思うが、これだと間隔が短すぎるだろうか。かといって、福島記念もしっくりこない気はするが、とにかくどこに出走してきても、必ず相手以上には入れておきたい安定感が魅力。

4歳秋で、まだキャリア11戦。ディープインパクト産駒の牡馬とはいえ、クラシックを走っていないだけに、伸びしろはまだありそうだ。

レース総評

前半800mが46秒7。11秒8のラップを挟んで、後半800mが46秒3とほぼイーブンペース。ただ、掲示板に載った馬の大半は4コーナーで5番手以内にいたため、先行有利の流れだった。逆を言えば、直線の入口でまだ後ろから2番手の位置にいて、前をまとめて差し切ったシュネルマイスターは、相当に強い可能性もある。

ところで、この時期になると「今年の3歳馬のレベルは~」といったフレーズをよく耳にするが、スプリンターズSに続き、毎日王冠も3歳馬が勝利した。

調教や育成技術の発達によって競走馬のレベルは毎年上がっていくはずで、そこに斤量の恩恵などもあり、若馬が好結果を残す傾向は、毎年とはいわないまでも、この先大きくは変わらないはず。

もちろん、今年の3歳馬も例外ではなく、ここまでオールアットワンス、ソダシ、ヨカヨカ、レイハリアなどの牝馬が古馬混合の重賞を優勝。牡馬も負けじと、ピクシーナイトとシュネルマイスターが2週続けてGI、GⅡを制した。

この先は、秋華賞と菊花賞を除けばすべて古馬混合戦。年末まで、3歳世代がどういった活躍を見せてくれるか、非常に楽しみとなった。

また、このレースで忘れてならないのが、前述したルメール騎手の好判断。土曜日のサウジアラビアロイヤルCでは、遅い流れを見越して道中ポジションを上げ、最後は僅かの差で凌ぎきったが、この日は、馬の意思を尊重してしっかりと我慢し、最後は図ったように差し切った。

トップジョッキーが集結したこのレースでも、そういった冷静な判断を下せるのがトップジョッキーたるところか。

この秋は、いったいGIを何勝するのだろう。「迷ったときは、ルメール騎手と3歳馬」が、ひょっとすると来週以降のキーワードになるかもしれない。

写真:shin 1

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