[インタビュー]160万円もの売り上げ減少も…岩手『馬っこパーク・いわて』山手理事長の語る想い。

岩手県の中心地、盛岡。

競馬ファンにとっては、盛岡競馬場がある場所として有名なスポットであるが、それだけではなく「チャグチャグ馬コ」という、馬に色とりどりの鈴や衣装を身に着け街中を行進する伝統行事も執り行われている、いわば「馬どころ」でもある。

そんな盛岡市から車を20分から30分走らせ、隣の滝沢市に向かうと、ひとつの牧場が見えてくる。

そこが、馬っこパーク・いわて。

過去には岩手競馬の不朽の名馬、トウケイニセイが過ごし、現在でも桐花賞を制したコミュニティや、引退後再度の現役復帰を果たしたナグラーダなどが過ごす地だ。

他でもない岩手の馬スポットのひとつである牧場であるこの場所は、NPO法人(乗馬とアニマルセラピーを考える会)としても活動しており、数多くの活動を行ってきた。

今回は、理事長である山手寛嗣氏にその想いやパークの現状を語っていただいた。

地域の憩いと馬文化 馬っこパーク・いわて

「1番最初にパークができた頃にいた馬達は、もうあんまりいないんじゃないかなあ」

最初にパークの歴史について伺った時、山手理事長はしみじみと呟いた。

当初はポニースクールとして経営されていたこの場所を、パークが引き取ったのが2007年。今から14年前だ。馬の寿命はおよそ20~25年、長くて30年。当時引き取った馬達が若かったとしても、もう20歳は優に超えている。

「少し寂しいけど、それだけ年月が経ったという事だね」

10年を超える月日の中、パークが取り組んできた取り組みは様々で、馬事振興にとどまらず、教育や福祉、観光の方面にまでその活動を広げて行ってきた。

具体的にその事例を挙げれば、やはりホースセラピーが挙げられるだろう。

──とはいえ、パークの取り組みはかなり視野が広い。

観光、それも国際教育を視野に入れ国際交流センターを開設して留学生との交流を図るばかりか、地元の大学である岩手県立大学とのコラボレーション企画で体育の授業に乗馬を取り入れ、実際にパークで乗馬を行うといったプログラムも実施に向けた検討・調整をしているという。

「実際に牧場で授業として馬に乗れる、それってすごく魅力的だと思いませんか?」

机上でセラピーについて学ぶだけでは、本当の馬の有用性、魅力、乗馬の楽しさは伝わらない。

だからこそ積極的にいろいろな方面から視野を広げ、セラピーについての理解を広げて行っているのだという。

そしてそのセラピーの効用も、しっかりとした事例があった。

刑を受けるべき受刑者に対して、岩手県指導の下保護観察プログラムとしての対象として盛り込まれていたり、登校拒否の子供や引きこもりの人に対して社会復帰や外に出る機会を促すプログラムも存在していたりと、多くの人に効果があるのだという。

そんな場所──馬っこパーク・いわては間違いなく、地域の憩いの場として、新たなセラピーの場として、馬文化の貢献に大きく発展しているだろう。

引退競走馬の引き取りも

昨今、いろいろな取り組みが盛んになっている「引退馬支援」。

ホースセラピーや乗馬の取り組みを行っているパークでも引退馬の引き取りは行っている。

では具体的に、パークでの引退馬引き取りはどのように行っているのだろうか。

これに関しては、以下の3つが挙げられる。

  1. 功労馬、活躍した馬の余生を過ごさせてあげてほしい(馬主側から預託料を貰う形)
  2. 乗馬としての才能がありそうな馬を購入し、再調教した後売却
  3. 乗馬としての行き先はなさそうだったが、無償で譲り受けた馬

この分類において、1.2に該当する引退馬達は、大きな目的をもって購入、または預託がされている。

まず1の功労馬は重賞を勝つなど大きな活躍を遂げ、残りの余生をのんびりさせてあげてほしいというオーナーからの要望でパークにいる。さらには中央の重賞、もしくは地方のダートグレード重賞を勝っていれば、助成金システムで月2万円の金額も追加で降りてくる。

次に2に該当する馬であるが、これはパークでその目的のために購入し、その目的を達成した際に再度売却し、先を見据え(国体出場など)させるための繋養である。彼らはたとえパークで到達させたい目的に届かなかったとしても、別の牧場や再調教施設で違う目的を達成させる、といった仮定があるため再度の売却が可能な馬達。

彼らは何かしらの目的、または目標をもってパークにいるため、ある意味「安定」を手にした馬たちだ。

しかし、最後の3に該当する馬たちの面倒をどう見てあげるのか……というのが引退競走馬の引き取りの上で一番大変なところであるという。

彼らはパークで引き取ってあげなければ、次に余生を送る場所が見つからない可能性が高い馬たち。

一方でリトレーニングに成功する保証はない。失敗したとしても2の馬達のようにどこかに向かわせてあげられる確率も低い。

「馬房にも限りがあるし、救える命は救ってあげたいけど……無責任に引き取るわけにもいかないですから。このあたりはしっかり吟味して引き取っています」

そんなパークだが、現在対処し難い問題が発生しているという。

未曾有の大災害、新型コロナウイルスによる打撃と設備の老朽化のダブルパンチ

「施設の老朽化が、物凄く進んでいるのが現状なんですよね」

山手理事長は、重い口調でそう言った。

パークの前身、ポニースクール岩手がこの場所にできたのは平成元年(1989年)。およそ30年間近く前にできた各施設の設備は、時代とともに老朽化が進んでいっているという。

それは乗馬施設や馬達の放牧場、厩舎設備にとどまらず、パークが存在している公園内の設備の数多くにもおよび、所々壊れていたり痛んでいたり、果てはさび付いていたりとかなりの打撃を受けている状態だ。

それならばすべて買い替える、いっそパークごと新しくしてしまえば──と思われる方もいるかもしれないが、そうもいかない。

「パークの施設自体、岩手県から借り受けているものなので、勝手にリフォームしたり品質を変えるという事は難しいんですよね……。あくまで現状あるものだけでやっていかなければ……」

更にこれに追い打ちをかける出来事が昨年あった。

そう、新型コロナウイルスである。

2020年1月に国内初の症例が確認されて以来、未だ収束の気配を見せることないままにその広がりを続けるコロナウイルス。その影響は、当然自粛が奨励されて以降、パークにも打撃を与え続けている。

乗馬に訪れる人は減り、チャグチャグ馬コのパレードも中止となり、パーク自体を訪れる人も激減した結果、2019年度と2020年を比較した際におよそ160万円もの赤字を打ち出してしまっているのだ。

勿論、今までが大きな黒字を打ち出していたわけでもない。施設の維持費にかかる費用に加え、馬達のリトレーニングにかかる費用、セラピーホースとして育てる費用、毎日の飼料代に削蹄代、体調を壊した馬がいれば診察代…と、かかる費用分を今までは収入分でなんとか±0、もしくは多少の赤字で済んでいたのだが、今回のコロナ禍でかなりの大打撃を受けているという。

「新しいものに買い替えたり、何かを改良したりはしたいんですが……なかなか難しい状況です」

それでも、と山手理事長は語った。

「そんな中でも、馬が好きな人、乗馬を楽しんでくれる人はたくさんいますし、セラピーとして必要な場所であるというのは間違いないと思っています。だからこそ、厳しい状態ではありますが、どんな形でもこの場所を残すという事が大切だと僕は思っています」


山手理事長にお話を伺い、自分の中でそれなりにわかっていたかな、という引退馬支援の大切さについてもう一度見つめなおし、理解を深めることができたように思う。

同時に、NPO法人として支援に取り組み、考えるという事の大変さも。

人によっては「偽善」と言う方もいるかもしれないが、こうして馬に、一つの取り組みに真摯に向き合っているという方がいるという事だけは心にとめてほしいと思う。

そして私も支援を行う、考える身として再度、物事の考え方や馬への向き合い方を見つめなおしてみようと思うきっかけになった。

改めて、今後の馬っこパーク・いわての取り組みに期待したいと思う。

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