牡馬、牝馬とも、大混戦といわれた2022年春のクラシック。上位人気馬の多くが掲示板を占めた皐月賞に対し、桜花賞は1、2番人気馬が外枠に泣き、4着以下に敗れてしまった。
そんな中、迎えたオークス。今度は、桜花賞馬が大外枠を引き、乗り替わりも重なって、再び混迷の度合いが深まることに。それでも、不利と思えるような困難を乗り越え、桜花賞馬が二冠を獲得できるか。はたまた、他の桜花賞組や別路線組の逆転はあるのか。それこそがこのレース最大のポイントであり、見所でもあった。
最終的に、単勝オッズ10倍を切ったのは4頭。その中で、やや抜けた1番人気に推されたのが、阪神ジュベナイルフィリーズの勝ち馬サークルオブライフ。内枠の馬が上位を独占した桜花賞で、枠に泣いた本馬。それでも、外枠の馬では唯一掲示板を確保し、勝ち馬から0秒1差の4着は、むしろ大健闘といえる内容だった。今回は、重賞勝ちの実績があり、自慢の末脚を活かせそうな東京競馬場が舞台。再び、大きな期待を集めていた。
2番人気に推されたのは「関西の秘密兵器」アートハウス。桜花賞と同日の忘れな草賞を楽勝した前走の内容は、圧巻だった。母パールコードへの想いを優先した川田騎手は、桜花賞馬へと導いたスターズオンアースではなく、アートハウスとのコンビ継続を選択。それが、オークスの予想をいっそう難しいものにしていた。
同じく単勝オッズ6.5倍ながら、票数の差で3番人気となったのがスターズオンアース。前走の桜花賞は、直線で挟まれても怯まず伸び、牡馬顔負けの勝負根性を発揮。それまで勝ち切れなかったのが嘘のような末脚で、見事に栄冠を獲得した。今回は再びの乗り替わりで、大外18番枠からのスタート。とはいえ、代わって手綱をとるのはトップジョッキーのルメール騎手で、名手を背に二冠達成なるか、注目が集まっていた。
4番人気は、サークルオブライフと同様、桜花賞で枠に泣いたナミュール。その前走は、チューリップ賞の内容から1番人気に推されたものの、大外枠が仇となり10着に敗れてしまった。ただ、出遅れた阪神ジュベナイルフィリーズと同様、敗因は明確。逆転で、樫の女王戴冠なるか、大きな期待が懸かっていた。
レース概況
スタート前、輪乗りの最中に、サウンドビバーチェが他馬に蹴られ放馬。確保から、出走可否の診断が下されるまで、およそ10分の時間を要するというアクシデントが発生してしまった。最終的に、同馬は顔部挫創のため発走除外となり、予定時刻から実に15分遅れでスタートが切られた。
ゲートが開くと、アートハウスがやや斜めに切れ込みながらも好発したのに対し、サークルオブライフは出遅れて、さらに前をカットされる不利。結果、最後方からのレースを余儀なくされた。
先手を切ったのはニシノラブウインク。1~2コーナー中間で、リードは早くも5馬身。パーソナルハイが2番手に続き、アートハウスは3番手を確保した。
以下、ラブパイロー、スタニングローズ、プレサージュリフトと、12頭が1馬身間隔の隊列に。桜花賞で先行、2着に惜敗したウォーターナビレラは後ろから7頭目。サークルオブライフは、依然、最後方に位置していた。
後ろ2頭が離れて追走していたため、先頭から最後方まではおよそ25馬身と、かなりの縦長。そのため、前が飛ばしているように見えたものの、前半1000mは1分0秒6と、実際は平均よりも少し遅い流れだった。
その後、中間点を過ぎ、先行集団に目立った動きはない一方で、最後方のサークルオブライフが徐々に進出を開始。すると、中団以降に構えていた馬も、つられるようにして3~4コーナーからポジションを上げ始める。
しかし、残り800mを過ぎると、前をいく馬たちもスパートして加速。中団以降の馬は、先頭との差をそれほど詰めることができないまま、レースは最後の直線を迎えた。
直線に入ると、ニシノラブウインクが再び後続を引き離し、リードは4馬身。アートハウスが、馬場の中央に進路を変えてこれを追い、坂を上ったところで前を捕らえにかかる。
ところが、先頭に並びかけたのも束の間。外からスタニングローズとスターズオンアースが強襲し、内からはナミュールも末脚を伸ばして一気に形勢逆転。残り100mで、上位争いはこの3頭に絞られた。
しかし、最後は末脚と地力で優ったスターズオンアースが、3頭の競り合いから抜け出して1着でゴールイン。1馬身4分の1差の2着にスタニングローズが入り、同じく1馬身4分の1差でナミュールが続いた。
良馬場の勝ちタイムは2分23秒9。大外枠、乗り替わりをものともしなかったスターズオンアースが文句なしの完勝で、牝馬二冠を達成した。
各馬短評
1着 スターズオンアース
大外枠に乗り替わりと、不安要素が重なって人気を下げたものの、そんな心配を微塵も感じさせない完勝。世代最強牝馬の座を手にした。
この一族からは、母の半妹ソウルスターリングが2017年のオークスを制し、その母スタセリタは、フランスオークスのディアヌ賞などGIを6勝。そして今回、スターズオンアースが勝利したことにより、三世代連続で日仏のオークス馬が誕生したことになる。
しかも、これら3頭がオークス優勝時に騎乗していたのは、いずれもルメール騎手。一族を知り尽くす名手による必然の勝利で、名門・社台ファームから初の三冠馬誕生なるか。期待がかかる。
2着 スタニングローズ
勝ち馬と同様、3走前までは5戦1勝と勝ちきれなかったものの、こぶし賞を勝利すると、フラワーCで重賞初制覇。そこからオークスに直行し、あわやの場面を作った。
前走フラワーC組が、当レースで連対したのは初めて。「バラ一族」悲願のクラシック制覇。そして、二代母ローズバドの雪辱を果たせなかったものの、世代トップクラスの実力を持っていることは間違いなさそう。
秋には、スターズオンアースの三冠を阻止する旗手となるか。さらには、キングカメハメハのラストクロップからGI馬が誕生するのか。今後も動向が注目される。
3着 ナミュール
注目された馬体重は、前走から増減なし。細い、ガレているという見た目ではなかったが、これ以上細くなると厳しいかもしれないというのが、パドックを見たときの感想だった。
道中は、勝ち馬をマークするような位置でレースを進め、心配された折り合いも問題なし。直線、やや内にささった点はもったいなかったが、GIで2戦連続1番人気に推された実力はさすが。長く良い脚を使い、3着を確保した。
出遅れや極端な枠を引かなければ、好走する可能性は高い。同厩のスタニングローズ同様、スターズオンアースの三冠を阻止する存在になれるか。こちらも、今後の動向が注目される。
レース総評
前半1200mは1分13秒1で、同後半が1分10秒8。また、2400mを800m毎に区切ると、47秒9-49秒6-46秒4と、後傾ラップだった。
ただ、4コーナー3番手以内の馬は坂上で失速。いずれも掲示板を確保できず、4番手から中団に位置していた馬が上位を独占した。その一方で、10番手以下に控えていた差し追込み勢も全く届かず、4着のピンハイ以外は厳しい結果に終わってしまった。
桜花賞馬に、乗り替わりと大外18番枠からのスタートという不利な条件が重なったことで予想が難しくなり、さらには、放馬によるアクシデントでスタートが遅れるなど、馬券の購入が締め切られた後にも、勝負の分かれ目があったオークス。特に、スタートが遅延したことによる影響は大きく、とりわけサークルオブライフにとっては痛恨だった。
父同様、気難しい馬が多く、ゲート裏でイレ込む馬も多いエピファネイアの産駒。それに加え、今回はスタンド前発走で、なおかつ入場人員も大幅に増加。サークルオブライフにとって、マイナスの要素が重なってしまった。
一方、これらのアクシデントにもリズムを崩さず、不利な条件を克服する馬がいたのも事実。出走馬の多くは秋華賞を目指すと思われるが、果たして、凡走した馬たちに不利はあったのか。逆に、上位入線した馬たちは、恵まれたからこその好走だったのか。
一頭一頭、十分に精査する必要はあるものの、上位の馬たちに関しては、いずれも素直に評価できる内容だったのではないだろうか。
写真:かぼす