[重賞回顧]戦国牝馬戦線到来を告げる、成長の圧勝劇~2022年・小倉記念~

8月も中盤に入り、いよいよ夏競馬も折り返し地点。各地でこの暑さにも負けない熱戦が繰り広げられる中、小倉ではサマー2000シリーズ第3戦となる小倉記念が開催された。

何かと波乱の多いレースでもあり、昨年は小頭数ながら人気上位が総崩れ、一昨年も10番人気のアールスターが勝って3着にはブービー人気のアウトライアーズが突っ込んできたように、馬券を購入する側としても頭を悩ませる一戦。

過去にはここから飛躍したドリームジャーニーや、「小倉3冠」を達成したメイショウカイドウらもいるように、秋のG1戦線に向けて重要な一戦であることは間違いない。

今年は残念ながらプリマヴィスタが出走を取り消したものの、それでも近年の中では頭数の多い15頭立てで行われた。

その中で1番人気に推されたのは4歳牝馬のジェラルディーナ。昨年の夏、同じ小倉の舞台で頭角を現し、一時は秋華賞でソダシのライバルになるかと話題になった素質馬である。前走の鳴尾記念では、復活を遂げたヴェルトライゼンデに肉薄する2着。オッズは混戦の中でもやや抜けた3.2倍となった。

続く2番人気はこれも同じく4歳牝馬のマリアエレーナ。OP入り後重賞で好走を続け、年が明けてから愛知杯2着、前走のマーメイドSも2着と惜しいレースが続き、今度こそ悲願の重賞初制覇を成し遂げたいところ。フランス遠征中の坂井瑠星騎手から、3冠牝馬デアリングタクトの主戦・松山弘平騎手へと手綱が渡っての参戦となった。

3番人気に名手・横山典弘騎手が51.0キロの軽斤量で臨むムジカ、4番人気に唯一の3歳馬ピースオブエイトと2年目のホープ松本大輝騎手のコンビが推され、ここまでが1ケタ台のオッズでレースを迎えていた。

レース概況

黄色い帽子、これがコンビ2戦目となる今村聖奈騎手とカデナがやや行き脚つかなく最後方からのレースとなった。それ以外は特にばらつくこともなく、横並びで飛び出していく。

前年の覇者・モズナガレボシが真ん中から好スタートを決め各馬の出方を窺う中、間から出鞭を叩いてショウナンバルディと松若風馬騎手が先頭を主張。

それに続くようにシフルマンも先頭争いに加わり、内からマリアエレーナも前へ。芦毛2頭が先行集団に加わったのを見ながらスーパーフェザーとヒュミドールも外目から前を見る格好となった。

1番人気のジェラルディーナと福永祐一騎手は中団につけ、若武者ピースオブエイトも前目につけたダービーとは違い中団から。やや一団の馬群が形成される中、ダブルシャープ、カテドラル、カデナの3頭がやや離された格好で後方に位置していた。

向こう正面へと向かう馬群、結局行き切ったシフルマンと、それを追いかけるショウナンバルディによってレースが形成されて行く。それほど馬群との差は開かずレースペースが作られ、前半1000mは58.9。

小倉の馬場を考慮しても、普通の2000m戦に比べると速いペースと言える。そして3コーナー手前、後方からダブルシャープが一気に捲り、それに追随してカデナも後方から進出開始。後方にいた馬達が動き始め、馬群は一気に団子状態へ。

4コーナー、既にショウナンバルディは後退し、逃げるシフルマンもややいっぱいの様相。捲ってきたダブルシャープも2月に関門橋Sを勝利した時ほど脚色は無いように見えた。先団につけた馬達と、捲ってきた馬達が次々に脱落。

──が、ただ1頭白い帽子の芦毛牝馬だけは、楽な手応えで4コーナーを回って直線へ。

松山騎手のゴーサインに応えると、後はもうその末脚を存分に伸ばすだけ。

後方待機のジェラルディーナ、ヒンドゥタイムズ、カテドラルらが突っ込んでくるが、最早全く関係ない。

5馬身差、最後は流す余裕まで見せて、重賞初制覇を鮮烈に飾って見せたのだった。

上位入線馬と注目馬短評

1着 マリアエレーナ

重賞初制覇を飾った同馬はこのレース、先団につけながら上り3Fは最速の34.6。次点のヒンドゥタイムズが35.0で後方に控えていたことからも、このペースで先行抜け出しの勝ち方はかなりのものだと見てもいいのではないだろうか。

これで松山騎手とのコンビは4戦3勝とかなりの好相性。悲願の重賞制覇を成し遂げた同馬は、この秋、古馬牝馬戦線で必ずや台風の目になってくる。ソダシやデアリングタクトを筆頭に待ち受ける数々のライバルとの戦いに期待したい。

2着 ヒンドゥタイムズ

斤量の関係で直前にホー騎手への乗り替わりが発表された同馬が2着。鉄砲明けの8か月ぶりながらいきなりの好走となった。去勢明け初戦で連対に突っ込んでくる馬の実力も勿論だが、前週のレパードSに続いてここも好走させたホー騎手の手腕も、やはり注目。ヒンドゥタイムズ自体、6歳といえまだ15戦目とキャリアは浅い。ここを叩いて更なる上積みが見込めるだろう。

3着 ジェラルディーナ

名牝ジェンティルドンナの娘で、昨秋以降その素質が高く認められている同馬が3着。最後は上り2位タイの末脚を繰り出してはいるが、勝ち馬があまりにも強すぎた。

ただ、まだ4歳と若い。父モーリスも覚醒には時間がかかった。同馬もまだまだ成長の余地は残していそうで、次走以降も期待がかかる。

総評

開幕週は時計が速くなりがちとはいえ、例年より速い1000m通過となった今年の小倉記念。近10年の中でも過去4位(2013メイショウナルト1.57.1 2012エクスペディション 2011イタリアンレッド1.57.3に次ぐ4位)となる1.57.4という時計の速さからも、先行勢には厳しい流れであることがわかる。

そんな中、完封横綱相撲を見せたマリアエレーナの強さは、ただの完勝劇ではなく、成長を見せた強さだったと言っていいだろう。そしてこのマリアエレーナに前走のマーメイドSでぶっちぎりの圧勝で復活を収めたウインマイティーも同時にかなりの注目株となったのは間違いなく、秋の古馬牝馬戦線が更に楽しみとなる勝利だった。

待ち受ける一戦級の古馬牝馬、そして今年のクラシックで活躍する3歳牝馬たち……秋以降の牝馬戦線は一筋縄ではいかない、かなりの癖者揃いの面白い戦いとなる事だろう。また新たな「強い牝馬」の時代が、すぐそこまで迫ってきていることを予感させるような、そんな今年の小倉記念だった。

写真:よぴ@UMAYOPI

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