[インタビュー]岩手競馬の名馬コミュニティが送る『馬っこパーク・いわて』での暮らし。

急斜面を上り、山の上へと向かうと、大自然に囲まれたような空気に包まれて、オーロパーク・盛岡競馬場がそこにある。そこから40分弱車を走らせ、滝沢市に向かうとひとつの牧場が見えてくる。
「馬っこパーク・いわて」。
かつて岩手競馬の不朽の名馬トウケイニセイがいた地でもあると同時に、現在でも多くの馬たちが余生を過ごす場所でもある。

岩手競馬所属の馬たちの休養の地としても使われ、馬房には現役馬から功労馬をはじめ、乗馬レッスンで多くの生徒に乗馬を教える馬たち、そして岩手県の伝統、チャグチャグ馬コに参加する重種など、数々の馬たちがそれぞれの日々を過ごしている。

そんなパークには、2022年で12歳を迎えた、1頭の牡馬がいる。それが、コミュニティだ。

岩手競馬で一時代を築いた名馬で、2014年に盛岡で開催されたJBCにも参戦(8着)した彼は、引退後に馬っこパークへやってきた。
今回は、そんなコミュニティのお話を中心に、馬っこパーク場長の加藤亮哉先生にお話を伺った。


「彼がパークに来たのは、最後のレースとなった桐花賞を終えてしばらくしてからです。関係者から引き取っていただけないかというお話をいただいたのがきっかけでした」

コミュニティのデビューは遅く、3歳の3月。同期にはキズナ、エピファネイア、コディーノ、ロゴタイプら錚々たる面々が並ぶ。彼らが弥生賞で鎬を削った翌週、同じ中山の地で石神深一騎手を背にデビューを迎えたが、結果は勝ち馬から2.3秒離された8着。その後5戦するも遂に勝利を挙げることは叶わず、岩手の桜田浩三厩舎へと移籍した。

転厩初戦で初勝利を挙げると、そのまま破竹の12連勝。以降、岩手競馬のグランプリ・桐花賞をはじめとする重賞で活躍を続けた。

しかし9歳冬の桐花賞で、勝ったヤマショウブラックから7.2秒差の最下位に敗れたコミュニティは、脚元に故障を発生しまう。長年にわたって活躍してきた頑丈な脚が、遂に悲鳴を上げてしまったのだ。

これだけ活躍してくれた馬を、なんとか次のステップへ進めてあげさせることはできないか……コミュニティの関係者がそんな想いで奔走し、辿り着いたのが、馬っこパークだった。

だが、脚部に不安を抱える同馬。
無理をできる身体ではない。
それどころか、一般的な乗馬でもリスクを伴うような状態だ。
そんな彼は今何をしているのだろうか──。

加藤先生の回答は短かった。
「ニンジン、食ってます」

日常生活で支障をきたさないレベルまでは回復しているものの、乗馬レッスン等での活動は今も難しいというのが、コミュニティの現状。

なかには「出来る限り乗馬としてやれることを目指さないのだろうか?」「競技としては難しくとも、セラピーホースとして人を乗せることは可能ではないだろうか?」という考えが浮かぶ人も少なからずいることだろう。だが、加藤先生はこう語る。

「セラピーホースとは何か? という質問に、僕は明確な答えがあるとは思ってないんですよ」

パークには乗馬レッスンやライセンスが取得できるコースがある。実際、2021年の夏には、筆者も馬っこパークにおいて加藤先生の熱烈な指導を受け、牧場業務まで手伝わさせていただいた経歴がある。その中でもちろん、コミュニティとも関わった。乗馬としては活動できない、彼と。

あの時、彼に抱いた印象は、穏やかで温厚で人懐っこい、確かに我々を癒してくれるものだった。それは2年前(2020年秋)、初めてパークを訪れ、まだ馬に対して恐怖感を抱いていた自分に顔をのぞかせて近寄ってきてくれた頃から何も変わっていない。

「例えば餌を食べて放牧して、厩舎で人が来たら顔を出して……そんな何気ない仕草でも見る人によっては『癒されるなぁ』と思っていただけると思うんですよ。乗馬がすべてのセラピーではないし、引退馬支援の形ではないと思っています」

コミュニティの脚は完治が難しい。乗馬という形で人々とともにセカンドキャリアを歩むのは困難に近いだろう。それでも、彼には彼なりの方法で人々を癒し、元気づけてくれている。それはもう、ひとつの立派な「ホースセラピー」としての活動なのではないだろうか。

「うちには色んな仔が来ます。何でもやってますから(笑) でも……だからこそ、自分のところに来た仔たちには全力を注いで接します。彼らと接するのって、子育てと一緒だと思うんですよ。できない事をできるように教えてあげる、言うことを聞かないで好き勝手やっていた馬が、ダメだよと教えた次の日には少し言うことを聞くようになっている。モチベーションにも繋がるし、これが彼らの面倒を見てきてよかったなって思える瞬間ですかね」

これは、コミュニティに限った話ではない。引退馬支援には様々な形がある。それと同様に、馬の性格も様々だ。コミュニティのように温厚で人懐っこい馬もいれば、人の話を聞かない唯我独尊の馬、馬房に近づくと噛みつこうとする馬、様々な性格を持つ馬たちがいる。

だからこそ、現場で働く人々は愛をもって彼らに接する。ダメな事はダメとしっかり教え、良いことをしてくれれば全力で褒める。そうして我々と信頼関係を築き、パートナーとして分かり合ってゆく……どこか人間関係とも似通っていることを、彼らは確かに教えてくれるのだ。

最後に、昨今話題になった「ウマ娘」。その影響で多くの人たちが競馬を新しく見始め、ハマっていったという事例も多い。そして同時に作品にも登場しているナイスネイチャのバースデードネイションが実施された際には巨額の支援金が集まったりと、引退馬支援に興味を抱いてくれている人々も少なくない。実際に牧場を訪れようと考えている人もいるのではないだろうか。

牧場訪問を検討しているファンに向けて、加藤先生は「牧場のルールにのっとって、楽しく会いに来てくださいね」と語った。

是非、皆さまも岩手を訪れた際には、馬っこパークへ運んでみてはいかがだろうか。そこでは、乗馬や活躍した功労馬、ポニーといった多くの馬たちが待っている。彼らとの触れ合いは、きっと至上の癒し──そして貴重な経験を、彼らそれぞれの形で見せてくれるだろう。

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