[重賞回顧]南の大地からいざ出港!"夢想家"から受け継いだ、夢の舞台へ~2022年・北九州記念~

距離が短縮されてから16回目を迎えた北九州記念。秋の飛躍を見据えた実力馬達が始動する北の大地と同様、こちらも秋のG1開幕となるスプリンターズS、そしてサマースプリントシリーズ王者を見据えたスプリンター達が南の小倉に集結する。

昨年は九州産馬ヨカヨカが制し話題を集めたこのレース他で今年の1番人気に推されたのは、3歳牝馬ナムラクレアだった。前走・函館スプリントSで圧倒的なまでの強さを見せつけた同馬。鞍上も昨年のフェニックス賞からコンビを組み続けている浜中俊騎手が引き続き騎乗し、重賞連勝を狙っていた同馬が2.1倍で抜けた1番人気となった。

続く2番人気も3歳牝馬、テイエムスパーダ。前走は同条件のCBC賞で今村聖奈騎手に重賞初騎乗初制覇をプレゼントした。1番人気のナムラクレアとは昨年夏、同じ小倉で鎬を削って以来の激突。鞍上も主戦の国分恭介騎手に戻り、同世代対決に燃えていた。

その後3、4番人気もCBC賞から転戦してきたタイセイビジョンとアネゴハダが推され、ここまでが一桁オッズ。離れた5番人気キャプテンドレイクも函館スプリントSからの転戦で、上位人気はCBC賞組vs函館スプリントS組といったような様相になっていた。

レース概況

特に大きく出遅れる馬もなく、18頭横一線の揃ったスタートを切る。ただ、その中でもここまで出遅れ癖の多かったジャンダルムが飛びぬけて良いスタートを切っていた。しかし、すぐさま各馬が先団へ殺到。シンシティ、メイショウチタン、ファストフォースらが先団を形成し、前走同様テイエムスパーダもやはり前へ。だが流石にすんなりと前には行けず、シンシティがそのまま先頭にあがり、テイエムスパーダは2番手に控えた。

アネゴハダは前走同様番手に控え、フレッチア、レジェーロ、ジャンダルムまでが一団。そこからやや離れた中団ラチ沿いにボンボヤージがつけ、モントライゼ、ナムラクレアがその外へつく。後方勢はタイセイビジョンが前走同様後方から前を狙い、その外からディヴィナシオンとザイツィンガーが捲るように進出を開始。600mの通過タイムは32.7と、やはり例年通り速い流れでレースは進んでいった。

4コーナー手前、シンシティを交わしてテイエムスパーダが先頭へと変わるが、前半のペースが影響したか前走ほど楽な感じで先頭に立つことができない。先行勢に既に脚はなく、シンシティは馬群にのまれ、外から先頭を窺った各馬は早くも脚色を残していなかった。さらにその後ろ、外目でごちゃつく馬群の中でナムラクレアがボンボヤージ鞍上、川須騎手の鞭に驚いたか外へ逸走。かなり厳しい位置で短い小倉の直線を迎えていた。

一方、内の経済コースを難なく通ってきたボンボヤージがそのままするすると脚を伸ばし、粘るテイエムスパーダとアネゴハダを難なく捉えて先頭へ。同じくインを突いたタイセイビジョンも前走同様一気に伸び、その後ろからモントライゼも突っ込む。

残り100m、先頭に立ったボンボヤージの脚色は鈍ることなく、跨る川須騎手の叱咤激励に応えて先頭。

ここでようやく振りから立ち直ったナムラクレアが鬼神の如く物凄い脚色で突っ込んできたが、2着争いに加わるまでが精一杯。

5歳夏、438キロの小さな乙女が、OP入り後初勝利を重賞の檜舞台で飾って見せた。

上位入線馬と注目馬短評

1着 ボンボヤージ

小倉での成績がこれで【3,1,0,1】と、終わってみれば小倉競馬場との好相性を証明した結果となった。小倉の良馬場では4戦3勝、OP入り後も1秒以上の負けはなかったことから、戦うたびに力をつけていた結果が、経済コースを力強く抜け出すといった走りに繋がったのだろう。

鞍上の川須騎手は2015年の関屋記念をレッドアリオンで制して以来、約7年ぶりの重賞制覇を地元・九州で飾って見せた。

兄のファンタジストがレース中の事故でこの世を去って、はや3年。本格化した妹が、秋の短距離戦線で夢を引き継げるか──。

2着 タイセイビジョン

前走同様、トップハンデをものともしない力強い走りだったが、3連続2着となる惜敗。

ただ、空いた最内から上り最速で詰め寄るその末脚はやはり目を見張るものがあるのは間違いない。秋のG1戦線でも要注意の実力を秘めているのは間違いないだろう。

3着 ナムラクレア

函館スプリントSの圧勝から転戦してきた同馬。今回は3着に終わった。

ただ、今回に限っては4コーナーの不利が全てか。直線だけで2回は進路切り替えながらも、最後は怒涛の末脚で前に迫っていて、のこり数mゴールが遠ければ2着まであったのではないかというような脚色だった。既に短距離戦線では間違いなくトップクラスの実力を秘めているように思える。むしろ逆に、今回の敗戦で評価は高まったのではないだろうか。

4着 アネゴハダ

前走・CBC賞ではテイエムスパーダに大きく引き離されていたが、今回は先着。スタートから先団につけていた馬達の中では唯一掲示板内を確保し、一瞬内のボンボヤージと共に伸びてくるかのようにも思えた。

ただ、1200mは若干距離が足りないようで、ベストな適距離は1400mであろうか。この粘りが1ハロン伸びてさらに通用してくるかどうかも注視したい。

5着 モントライゼ

2年前の京王杯2歳S馬が、昨年の葵S以来となる掲示板に食い込む好走を果たした。

ここのところは勝ち馬から大きく水を空けられる結果も続いていただけに、この走りは非常に価値のあるものだろう。最後は進路を締められ苦しくなっていたが、控える競馬を陣営が教え込んだことが功を奏したように思える。復調の兆しは見えた。

総評

1着川須騎手、2着川田騎手、3着浜中騎手と「九州男児1.2.3フィニッシュ」で締めくくられた今年の北九州記念。過去10年でも3位タイの早いタイムを叩き出したように、前の馬達にはいささか厳しい流れだった。とはいえ、ほぼ一団の中外を回した馬達に出番はなく、インの経済コースを突いた馬達の好走も目立ち、いつもの北九州記念のなだれ込むようなゴール前ではなかったように思う。それだけに、荒れたインの経済コースからしっかりと抜け出したボンボヤージの走りには成長が感じられた。

勝利したボンボヤージの馬名の由来は「よき航海を」。4年前、この地で重賞初制覇を飾った兄の夢を、再び蘇らせるかのような出港の日になった。ブービー人気からの重賞制覇、そして兄の果たせなかったG1の大舞台で勝利の宴をあげる日へ──そんなシンデレラストーリーの始まりを予見させるような、力強い走りにも見えた。今後のローテーションにも非常に期待がかかる。

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