[重賞回顧]今年も函館から夏女誕生の予感。大外一気を決めたキミワクイーンが、念願の重賞初制覇!~2023年・函館スプリントS~

夏の風物詩ともいえる北海道シリーズ。その開幕を告げる函館スプリントSは、サマースプリントシリーズ、およびサマージョッキーズシリーズの第1戦。2022年のシリーズチャンピオンとなったナムラクレアは、このレースを勝利した後に北九州記念でも3着と好走し、史上初めて3歳馬のチャンピオンに輝いた。

一方、同馬の鞍上、浜中俊騎手も、当レースと函館記念を制するなど活躍。自身初のチャンピオンに輝いている。

また、ナムラクレアがそうであったように、近年は阪神ジュベナイルフィリーズ、フィリーズレビュー、桜花賞、函館スプリントSのローテーションで臨んでくる3歳牝馬が増えており、2023年も2頭がこの臨戦過程で参戦。右前の蹄を傷め、桜花賞を回避せざるを得なかったリバーラを含めると、計3頭が出走した。

ただ、GⅠ馬の参戦はなく、例年どおり混戦模様。4頭が単勝10倍を切り、その中で1番人気に推されたのは、4歳牡馬トウシンマカオだった。

1年前、夏シーズンを越えてから上昇カーブを描き始めた本馬。10月のオパールSを快勝すると京阪杯も連勝し、重賞初制覇を成し遂げた。その後、シルクロードSは重い斤量と枠順に。高松宮記念は、超のつく不良馬場に泣かされ結果は出ていないが、別定GⅢであれば力上位の存在。2つ目のタイトル獲得が期待されていた。

これに続いたのが、トウシンマカオと同じビッグアーサー産駒のブトンドール。函館2歳Sを制し、現3歳世代で最初に重賞を勝利したのがこの馬で、近3走は結果が出ていないものの、桜花賞は勝ったリバティアイランドから0秒8差と大きくは負けていない。重賞勝ち実績のあるコースで、トウシンマカオとは実に6キロの斤量差。なおかつ、久々の1200m戦ということもあり、注目を集めていた。

3番人気となったのが、4歳牝馬キミワクイーン。2、3歳時は重賞で結果が出なかったものの、9月に札幌の2勝クラスを勝ち上がると、そこからわずか2戦で3勝クラスも突破。非凡な実力を示した。久々の重賞挑戦となったオーシャンSは大敗するも、リステッドの春雷Sは巻き返して2着と好走。4度目の正直で重賞制覇なるか、期待を集めていた。

そして、4番人気に推されたのがヴァトレニ。この馬の強調材料と言えば、なんといっても北海道シリーズの強さで、函館と札幌の成績を合算すると[4-0-1-0/5]。そのうち、函館は1戦1勝ではあるものの、オープンの青函Sを勝利した実績がある。前走の鞍馬Sは9着と敗れるも、59キロの酷量と不良馬場が堪えた印象。得意の北海道シリーズで、初重賞制覇が懸かっていた。

レース概況

ゲートが開くと、カルネアサーダが好スタート。一方、サトノアイはダッシュがつかず、後方からの競馬を余儀なくされた。

前は、二の脚がついたテイエムトッキュウがハナを奪い、カルネアサーダ、ジャスパークローネ、リバーラが続いて、ここまでが先団。その後ろの中団には、トウシンマカオ、ヴァトレニ、レイハリア、ジュビリーヘッド、ムーンプローブ、ブトンドール、ヴィズサクセスなど、7頭ほどがごった返し、3番人気のキミワクイーンは、後ろから4頭目に位置していた。

前半600m通過は33秒0のハイペース。先頭から最後方までは、およそ12馬身差とやや縦長で、レースは後半戦へと突入。ここで、逃げていたテイエムトッキュウがポジションを下げ、入れ替わるようにリバーラが先頭。カルネアサーダと、2頭の間からジュビリーヘッドも追撃を開始する中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、すぐにジュビリーヘッドがリバーラに並びかけ、200の標識を過ぎたところで単独先頭。そこからジワジワと差を広げ始める。これを、トウシンマカオとヴァトレニが追うも差は縮まらず、ジュビリーヘッドの勝利は確定したかに思われた。

ところが、残り100mで一気に末脚を伸ばしたキミワクイーンが2番手以下をまとめて捕らえると、ゴール寸前でジュビリーヘッドも差し切り1着でゴールイン。3/4馬身差2着にジュビリーヘッドが続き、1番人気のトウシンマカオは、そこから1馬身1/4差の3着だった。

良馬場の勝ちタイムは1分8秒2。素晴らしい決め手を発揮したキミワクイーンが、4度目の挑戦で重賞初勝利。また、鞍上の横山武史騎手は、この後エプソムCを勝利した横山和生騎手と兄弟同日重賞制覇を達成し、これは97年3月2日の武豊騎手(弥生賞ランニングゲイル)、武幸四郎騎手(現調教師、マイラーズCオースミタイクーン)以来、史上2組目の快挙となった。

各馬短評

1着 キミワクイーン

ここまでの10戦、4コーナーを6番手以内でしか回ったことがなかった同馬が、ハイペースに乗じたとはいえ一気の追込み。やや大げさな表現かもしれないが、同じく横山武史騎手が騎乗した、皐月賞のソールオリエンスを彷彿とさせる勝利だった。

父ロードカナロアに、母父サクラバクシンオーの組み合わせは、高松宮記念を制したファストフォースや、22年の同レースで大波乱を演出したキルロード。さらに、今回逃げたテイエムトッキュウやダートで活躍しているサイクロトロンなど、数少ない中からオープン馬が続出。同日、同じコースでおこなわれた2歳新馬を勝利したロータスワンドも、この組み合わせだった。

キミワクイーンは、母母父がサクラバクシンオーで、前述した馬たちとは少し異なるものの、似た血統構成といえる。

2着 ジュビリーヘッド

ハイペースを前目で追走し、なおかつ早目に仕掛けて2年連続の2着。展開面を考えれば、この馬が最も強い競馬をしたともいえる。

6歳でこれが26戦目とはいえ、まだまだ元気。父ロードカナロアは、自身がやや晩成だったこともあってか産駒も高齢になって強く、前述したファストフォースやキルロードは、7歳時の高松宮記念で1、3着と好走した。

一方、こちらは母父がディープインパクトで、この組み合わせは他に、ファンタジスト、レッドモンレーヴ、ボンボヤージなど、重賞勝ち馬が多数いる成功パターン。地方・園田の重賞を勝ちまくっているジンギも、この組み合わせである。

3着 トウシンマカオ

こちらも、ハイペースを前目で追走し複勝圏を確保。人気を下回る着順だったとはいえ、十分に好走したといえる内容だった。

惜しかったのは中間点付近。下がってきたテイエムトッキュウをパスしなければならず(騎乗した鮫島克駿騎手は、外側に斜行して戒告)、仕掛けがやや遅れる不利。これがなければ勝っていた、とまではいえないが、2着はあったかもしれない。

レース総評

前半600m通過は33秒0で、同後半が35秒2と、スプリント戦らしい前傾ラップ。先行勢が健闘して2、3着を確保したものの、ハイペースに乗じたキミワクイーンが一気の追込み勝ちを決めた。

そのキミワクイーン。今回は、やや展開面で有利だったこともあり、次走、もし人気しすぎるようであれば多少は疑った方が良いかもしれないが、抜けた1番人気に推されることはおそらくないだろう。

平坦コースが合うということで、次走はキーンランドCを予定しているそうだが、同レースは牝馬が強く、札幌は函館以上に差し馬が台頭するコース。なおかつ、同コースで有利な外枠を引けば当然注目で、再び好勝負すれば、サマースプリントシリーズチャンピオンの座も大きく近付くだろう。

また、上述したとおりロードカナロア産駒は晩成傾向。自身も、4歳秋のスプリンターズSでGⅠ初制覇を達成したように、夏を越えて一気に上昇カーブを描く可能性がある。これは、2着ジュビリーヘッドもいえることで、高松宮記念を制したファストフォースが引退し、混沌としているスプリント路線で、これら2頭は注目の存在。

対して、今回3、5着馬の父ビッグアーサー。同馬のGⅠおよび重賞初制覇は、ロードカナロアよりもさらに遅い、5歳春の高松宮記念だった。

ビッグアーサー産駒は、現2歳が3世代目。同7世代目のロードカナロアと違ってまだまだサンプルは少なく、晩成傾向と決めつけるのは良くない。ただ、トウシンマカオはもちろんのこと、先日の葵Sで3着となり、連勝が4でストップしたビッグシーザーも、さらに活躍する可能性は十分。こちらは、次走セントウルSを予定しているとのことで、仮にそこで古馬の壁に跳ね返されたとしても、本格化を迎えるのが来シーズンや、さらにその先ということも十分に考えられる。

一方、キミワクイーンに騎乗した横山武史騎手。この土日で6勝し、両日のメインを勝利しているように、勢いに乗ったときは本当に手がつけられない。2ヶ月でGⅠを4勝した2021年の秋シーズンは、その典型ともいえるだろう。

サマージョッキーズシリーズのチャンピオン。そして、その先に見据える秋のGⅠ戦線へ……。これ以上はないというほど、勢いがつきそうな勝利だった。

写真:@gomashiophoto

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