[重賞回顧]輝きを取り戻したドウデュースと、帰ってきた千両役者・武豊騎手が復活のグランプリ制覇 ~2023年・有馬記念~

一年の総決算、有馬記念はファン投票によって出走馬が決まるドリームレース。開催をあと1日残しているものの、実質、中央競馬の一年を締めくくるレースで、普段は馬券を買わない人でもついつい買ってしまう「国民的行事」といっても過言ではない。

2023年の有馬記念は、前年覇者で世界最強となったイクイノックスが引退。さらに、三冠牝馬リバティアイランドが回避したものの、GⅠ馬8頭を中心とした豪華メンバーが集結し、数多くの見所があった。

例えば、有馬記念でダービー馬が激突するのは5年ぶり。3世代のダービー馬が揃い踏みとなるのは、レース史上初めてのことだった。

他にも、同世代のライバル、ソールオリエンスvsタスティエーラ4度目の対決や、40年ぶりに牝馬が6頭も出走。さらに、「空前絶後の阪神三冠」を達成したタイトルホルダーのラストランなど、1年を締めくくる大一番らしく、複数のテーマや物語があった。

そして、レース3日前におこなわれた公開枠順抽選会で、上位人気が予想されていた複数の実力馬が不利とされる外枠を引き、レースの面白みはいっそう増した。言い換えれば、かつてないほどの大混戦で7頭が単勝10倍を切り、その中で1番人気に推されたのはジャスティンパレスだった。

2022年の春二冠で9着と敗れながら神戸新聞杯を圧勝。再び頭角を現わしたジャスティンパレスは、続く菊花賞も3着と好走。有馬記念7着を挟んだあと、年が明けて阪神大賞典と天皇賞(春)を連勝し、GⅠ初制覇を成し遂げた。

その後、宝塚記念3着。天皇賞(秋)も2着と好走するなど、以前とは見違えるように安定した成績を残しており、なおかつ近2走で先着を許したイクイノックスは今回不在。古馬中・長距離王の座と、2つ目のビッグタイトル獲得が懸かっていた。

2番人気となったのがドウデュースで、この馬の最も輝かしい実績といえば、なんといっても2022年のダービーだろう。そのとき負かしたイクイノックスは、以後、他馬に先着を許すことなくGⅠを6連勝して引退。それだけに、ダービー制覇はいっそう価値あるものとなっている。

この秋は勝利こそないものの、前走のジャパンCでメンバー中2位の上がりをマークして4着と好走。それ以来、中3週の間隔で出走する今回は休み明け3戦目で、これはダービー制覇時と同じ。3戦ぶりにコンビを組む武豊騎手とともに3つ目のビッグタイトル獲得なるか。大きな期待を背負っていた。

3番人気に推されたのが5歳牝馬スルーセブンシーズ。1年前はまだ3勝クラスにいたこの馬が急浮上したのは、3月の中山牝馬S。前走からの連勝で重賞初制覇を成し遂げると、そこから一気の相手強化となった宝塚記念でも、あのイクイノックスとタイム差なしの2着に激走。さらに、初の海外遠征となった凱旋門賞でも4着と好走した。

中山コースは[4-1-2-0/7]と、最も得意とする舞台。念願のGⅠ制覇と2009年の覇者ドリームジャーニーとの父娘制覇を同時に成し遂げるか、注目を集めていた。

以下、2023年の皐月賞馬ソールオリエンス。同ダービー馬タスティエーラ。今回が引退レースとなるGⅠ3勝タイトルホルダー。2022年の二冠牝馬スターズオンアースの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、大外枠のスターズオンアースが好スタート。対して、ソールオリエンス、ホウオウエミーズ、ドウデュースの内枠3頭が僅かに出遅れ。後方からの競馬となった。

先行争いは、押して押してタイトルホルダーがハナを切り、スターズオンアースがついていく展開。3番手は、プラダリア、シャフリヤール、ハーパーが横並びとなって1周目のホームストレッチを迎え、いきたがるのをなだめられながらスルーセブンシーズがその直後まで上昇。タスティエーラとソールオリエンスは仲良く中団やや後ろにつけ、後ろから4頭目にドウデュース。そして、1番人気のジャスティンパレスは最後方に控えていた。

1000m通過は1分0秒4と、平均的な流れ。それでもタイトルホルダーのリードは6馬身ほどに広がり、前から後ろまではおよそ20馬身の隊列となって、レースは向正面へ突入。

その後3コーナーに入る直前、タイトルホルダーのリードが拡大した一方で、2番手以下はほぼ一団。その中で、スパートを開始したドウデュースが一気にポジションを上げると場内から大歓声があがり、ジャスティンパレスも中団まで上昇する中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入るとタイトルホルダーのリードは縮まり、およそ3馬身。追ってきたのはスターズオンアースとドウデュースで、あっという間に前を交わすかと思いきや、タイトルホルダーが二枚腰を発揮。懸命に粘り、意地でも前に出ることを許さない。

それでも、残り50mでドウデュースとスターズオンアースがこれを交わすと、最後はドウデュースが体半分前に出て1着ゴールイン。1/2馬身差2着にスターズオンアースが続き、1馬身差3着にタイトルホルダーが入った。

良馬場の勝ちタイムは2分30秒9。この秋3戦目で輝きを取り戻したドウデュースが、武豊騎手とのコンビで劇的に復活。3つ目のビッグタイトルを手中に収めた。

各馬短評

1着 ドウデュース

スタートで僅かに出遅れるも、馬のリズムを大切にして後方待機。その後、勝負所でひとまくりを敢行して3番手まで進出すると、坂上でタイトルホルダーを捕らえ、スターズオンアースにも競り勝った。

デビュー戦も休み明けとするなら、ここまでのGⅠ3勝はすべて休み明け3戦目。近年、特にノーザンファーム生産馬では珍しい叩き良化型といえる。

レース後の友道康夫調教師のコメントからも、2024年は再び凱旋門賞に挑戦しそうな雰囲気。2、3歳時は瞬発力タイプのイメージだったが、京都記念や今回のレースを見ると、長くいい脚を使う持久力タイプに変わりつつあるのだろうか。そこへ、父ハーツクライのさらなる成長力が加われば、日本競馬にとっての悲願が達成されるかもしれない。

2着 スターズオンアース

ジャパンCの回顧で「陰のMVP」と評したが、今回はそれをはるかに上回るパフォーマンス。「真のMVP」ともいってもいいような素晴らしい走りだった。

有馬記念史上、馬番16からスタートして3着内に好走した馬はただの一頭もおらず、どう考えても不利な条件。しかし、ここ一番でクリストフ・ルメール騎手が繰り出すロケットスタートで難なく2番手を確保し、致命的ともいえる不利を無効化。3コーナーに入る直前には内ラチに接触し、直線で右にもたれたことが響いてドウデュースに競り負けたものの、勝ちに等しい内容だった。

言い換えれば、これらが課題となるものの、この馬もまた条件を問わず好走できるのが強み。来季も、第一線での活躍が見込めるだろう。

3着 タイトルホルダー

3度目の有馬記念で、ついに内枠をゲット。先頭に立つまでやや手間取るも、絶妙なペース配分で逃げ、最後まで見せ場を作った。

3度目の正直はならなかったものの、早世したドゥラメンテの貴重な後継種牡馬だけに、無事にレースと引退式を終えたことが何より。2024年からレックススタッドで繋養されることが決定しており、大物を輩出することはもちろん、ドゥラメンテの貴重なサイアーラインを繋いでいくことも期待される。

レース総評

4コーナーで3番手以内に位置していた3頭がそのまま上位を占めた有馬記念。一見すると、逃げ先行馬有利のレースだったようにも思えるが、1000m通過は1分0秒4。馬場を考えれば遅くなく、その間の500m30秒4をはさんで、後半1000mは1分0秒1=2分30秒9。さらに、スタートからゴールまで著しくペースが大きく落ちたところはなく、最も遅いラップでも12秒5だった。

また、結果的に4コーナー3番手以内に位置していたとはいえ、上位3頭はそれぞれ別の競馬をしていた。

まず、逃げて3着のタイトルホルダーは、ご存知のとおり、自らよどみない流れを作り出し、スタミナ勝負に持ち込みたい馬。今回、パンサラッサが出走しなかったことは非常に大きいが、横山和生騎手が絶妙なペースで逃げ、最後まで見せ場を作った。

レース後におこなわれた引退式で、普段は寡黙な和生騎手が「勝ちたかったなぁていうのが本音です。すみません。でも、すごくかっこよかったと思います。寂しいですけど、乗れて幸せでした」のコメントに、涙を流したファンは少なくなかったはずだ。

一方、2着スターズオンアースは、1周目のスタンド前を通過するまでタイトルホルダーを追いかけるような展開。しかし、そこからは自分のペースに徹し、4コーナーまで2番手を単独走。直線の追い比べでは僅かに劣ったものの、レース史上初めて16番枠を克服し、勝ちに等しい内容の2着だった。

そして1着ドウデュース。こちらは僅かな出遅れを挽回することなく馬のリズムを重視し、序盤は後ろから4頭目に位置。その後、3コーナー過ぎからスパートしてひとまくりをきめると、4コーナーで一気に3番手まで上昇。続く直線での追い比べも制し、3つ目のビッグタイトルを獲得した。

右回りかつ小回りでおこなわれる有馬記念。片や、左回りの大箱コースでおこなわれる日本ダービーは、求められる能力の方向性が大きく異なるレース。

そのため、これら2レースを勝利することは容易でなく、ダービー馬の有馬記念制覇は、2011年と13年の覇者オルフェーヴル以来10年ぶり。その前は05年の覇者ディープインパクトで、さらにその前は1994年のナリタブライアンと、これらはいずれも三冠馬であり、近年は10年に一度しか達成されていない快挙といえる。

また、過去に朝日杯フューチュリティSを勝利しているドウデュース。マイルGⅠと有馬記念の両方を制したのも、2014年の覇者ジェンティルドンナ以来だった。

他にも、ドウデュースは、いわゆる「秋古馬三冠」を走破した上で有馬記念を勝利したが、これは2017年の覇者キタサンブラック以来の快挙。かつて王道といわれたこの路線も、近年は、天皇賞(秋)出走後ジャパンCをパスして有馬記念に臨むローテーションが王道となっている。

実際、過去5年(今回を含まない)の有馬記念における前走天皇賞(秋)組の成績は[3-2-1-8/14]に対し、前走ジャパンC組は[0-0-1-20/22]と、厳しい結果。ところが、今回の上位3頭は、いずれも前走ジャパンCで上位入着を果たした馬たち。言い換えれば、今年のジャパンCはいかにレベルが高かったかを、如実に示す結果となった。

そのジャパンCの回顧で記したとおり、2023年のベストレースはジャパンCで決まりだと思っていた筆者。ところが、それに匹敵する名勝負が、僅か1ヶ月後に再び繰り広げられた。その主役となったのは、紛れもなくドウデュースと武豊騎手だろう。

2ヶ月前。天皇賞(秋)当日におこなわれた新馬戦のレース後、騎乗馬に右足を蹴られて負傷し、ドウデュースの乗り替わりと1ヶ月超の休養を余儀なくされた武豊騎手。実戦に復帰したのは、有馬記念のわずか1週間前だった。

そこから有馬記念の前日まで地方交流重賞を含め8鞍に騎乗し、勝利こそなかったものの、朝日杯フューチュリティSでエコロヴァルツを2着に導くなど活躍。そして、復帰後の初勝利を有馬記念で飾るというのは、まさに千両役者の面目躍如たるところ。

レース後のインタビューで、2013年のダービーをキズナで制したときと同じく「帰ってきました!」と宣言し、武豊騎手=競馬界の象徴であることを、改めて証明する勝利でもあった。

一方のドウデュースは、前述したように珍しいタイプのグランプリホースでありダービー馬である。2022年の凱旋門賞挑戦は結果こそ出なかったものの、それ以前と以後で、明らかにレース内容や走りが変わっている。

レース後、武豊騎手と友道調教師の口から「フランス」という言葉が出ており、来シーズンの最終目標がそこに置かれる可能性は十分にあるだろう。

また、同馬を所有するキーファーズ代表の松島正昭氏が予てから公言していた「武豊騎手が凱旋門賞を勝利するところを見てみたい」という夢。それは、いつしか「武豊騎手と凱旋門賞を勝つ」に変わった。

松島オーナー自身はレース後、来シーズンについて「春はドバイへリベンジに行きたい」と、今春、出走が叶わなかったことで中東に残してきた忘れ物を取りにいくと宣言している。

成長を手にした上で輝きを取り戻したドウデュース。一度止まりかけた壮大な夢は、今回の復活勝利で再び大きく動き始めた。

写真:shin 1

あなたにおすすめの記事