10週にわたる東京開催の開幕を告げるフローラS。最初におこなわれる2000mの牝馬限定重賞で、2着までにオークスの出走権が与えられるとはいえ、乙女にとってはまだ過酷な舞台といえる。
ただ、オークスへの距離延長幅は桜花賞よりも小さく、東京の長い直線を経験できることは大きい。実際、過去10年のフローラSで2位以内の上がりをマークした馬は、本番でも好走している。
また、桜花賞は阪神ジュベナイルフィリーズの結果をほぼ反映するような結果となったが、2着アスコリピチェーノはNHKマイルCに出走することが発表されており、このレースで新星が誕生するかにも注目が集まっていた。
その新たなヒロイン候補となるべくエントリーしたのは14頭で、うち12頭が1勝馬。かなりの混戦模様で5頭が単勝オッズ10倍を切り、最終的にバロネッサが1番人気に推された。
デビューから2戦は勝ちあぐねるも、前走の未勝利戦を快勝したバロネッサは、半兄にホープフルSを制したドゥラエレーデがいる良血馬。前走、2着につけた着差は1馬身3/4とはいえ、3着はさらにそこから5馬身離れ、勝ち時計は同日におこなわれた共同通信杯を1秒8も上回る好タイムだった。
それ以来、2ヶ月半ぶりの実戦となる今回は1枠1番の好枠をゲット。未勝利戦から一気の重賞制覇と、オークスの優先出走権獲得が懸かっていた。
僅かの差で2番人気となったのがアドマイヤベル。初年度から大ブレイクを果たしたスワーヴリチャードを父に持つアドマイヤベルは、半姉にGⅠ馬アドマイヤリードがいる良血。1勝クラスで惜敗が続いているものの、前々走敗れたアーバンシックは先日の皐月賞で4着。前走タイム差なしの接戦を演じたマーシャルポイントも、出走予定の青葉賞で上位人気が予想されている。
東京芝2000mの特別戦で連対実績があるのはこの馬だけで、コース実績は十分。出走権獲得はもちろん、スワーヴリチャード産駒4頭目の重賞ウイナーになれるか、注目を集めていた。
3番人気に推されたのが、キタサンブラック産駒のクリスマスパレード。中山芝2000mの新馬戦でデビューし、2番手追走から4コーナーで先頭に立つ積極的な競馬で快勝したクリスマスパレードは、前走の水仙賞もリプレイを見るかのような内容で勝利。デビューからの成績を2戦2勝とした。
出走馬中、唯一無敗で、2000m超の距離で勝ち星をあげているのもこの馬だけ。無傷3連勝での重賞制覇が期待されていた。
以下、2000mの持ち時計はナンバーワンのカニキュル。皐月賞を制した戸崎圭太騎手と再びコンビを組むトロピカルティーの順に、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、バロネッサがややあおり気味のスタート。エルフストラックもダッシュがつかず、後方からの競馬となった。
一方、前は僅かに好スタートを切ったユキワリザクラが逃げようとするところ、メアヴィアが競り掛け、枠の差でメアヴィアが先頭に立った。その後ろの3番手にクリスマスパレードがつけ、以下、ラヴァンダ、アドマイヤベル、バロネッサと、上位人気馬がそれぞれ1馬身間隔で追走。一気にポジションを上げたエルフストラックがラヴァンダの外、4番手に落ち着き、カニキュルは後ろから2頭目に位置していた。
1000m通過は59秒7の平均ペースで、前から最後方のマルコタージュまでは12、3馬身の差。そこまで縦長の隊列にはならなかった。
その後、勝負所の3、4コーナー中間に差し掛かっても隊列に大きな変化はなく、続く4コーナーで2頭を交わしたカニキュルがさらに前との差を詰めようとする中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、すぐにユキワリザクラがメアヴィアに並びかけ、坂の途中で単独先頭。押し切りを図るも、内からラヴァンダ、外からクリスマスパレードが差を詰め、残り200m地点で2頭が先頭に立った。
ところが、それも束の間。馬場の中央から末脚を伸ばしたアドマイヤベルが、エルフストラックを含めた4頭をまとめて差し切ると、最後は1馬身差をつけ1着でゴールイン。ラヴァンダが2着を確保し、後方から追い込んだカニキュルが、激戦の3着争いを制した。
良馬場の勝ちタイムは1分59秒0。惜敗続きにピリオドを打ったアドマイヤベルが、半姉アドマイヤリードと同じく東京競馬場で重賞初制覇。2着ラヴァンダとともに、オークスの
優先出走権を獲得した。
各馬短評
1着 アドマイヤベル
五分のスタートから、中団前の位置を確保。直線、坂を上りきったところから勢いがつくと鋭く伸び、先行4頭をまとめて交わし先頭でゴールを駆け抜けた。
直線に向いてすぐエルフストラックに接触しかけたものの、難なくパス。馬名のとおり美しくスムーズなレース運びで、折り合いも問題なかった。
桜花賞組の牙城は高いものの、スタンド前発走、かつ2400mは3歳牝馬にとってまだまだ過酷でなにが起きてもおかしくない舞台。冒頭にも書いたとおり、当レースで2位以内の上がりをマークした馬は、過去10年オークスで[1-3-1-7/12]。複勝回収率は100%超で、ダークホースになる可能性は十分にある。
2着 ラヴァンダ
最内枠のバロネッサが、やや出遅れ。そのため、内ラチ沿いの好位を確保するチャンスが生まれ、挽回してきた同馬とのポジション争いを制したことが好走の大きな要因となった。
また、直線でも内の狭いスペースに突っ込むなど、アドマイヤベルとは対照的にスムーズなレースとはいかなかったが、一瞬ひるんだとはいえ、そこを根性で抜け出し2着を確保。勝ち馬と同じくらい見所があった。
シルバーステート産駒は芝2000mが得意で、中山と函館以外は好成績。そのせいか、今回は400mの距離延長を克服したものの、オークスはさらに400mの距離延長となる。
それを克服した上で再びの遠征もクリアできるかが、本番で好走するための必須条件といえる。
3着 カニキュル
開幕週で外枠を引き、なおかつ道中は後方に位置と厳しい展開。さらに、やや力みながらの追走となったが、それでも上がり最速をマーク。4番人気とはいえ大健闘といえる内容で、最も強い競馬をしたのはこの馬かもしれない。
権利獲りはかなわなかったものの、やはり中山よりも東京向き。ただ、枠のせいかもしれないが、騎乗した北村宏司騎手によると坂上で脚色が一緒になったとのことで、次走が東京の芝1600mか1800mであれば、好勝負する可能性は非常に高い。
レース総評
前半1000mが59秒7で同後半は59秒3と、前後半ほぼフラット=勝ちタイムは1分59秒0。レース史上3番目のタイムとはいえ特筆すべきものではないが、平凡なタイムでもなかった。
勝ったアドマイヤベルはスワーヴリチャードの産駒で、この世代4頭目の重賞ウイナー。牝馬ながらGⅠのホープフルSを制し、オークスで激突する可能性もあるレガレイラ(ダービーと両睨み)を送り出すなど、2023年に産駒がデビューした新種牡馬の中では、頭ふたつ以上抜けた存在といえる。
ちなみに、横山武史騎手が重賞でスワーヴリチャード産駒に騎乗すると、今回を含め[2-2-1-2/7]。産駒がデビューしたばかりで数が少なく断言はできないものの、相性が良いのかもしれない。
一方、上位人気で4着以下に敗れた馬の中では、まず3番人気4着のクリスマスパレードを取り上げたい。
こちらは大外枠を引いてしまい、さらにスタートで外に膨れる不利があった。それでも好位3番手を確保したが、頭を上げながらの追走。これが最後に影響したか、ゴール前で一伸びを欠き惜しくも4着だった。
中山では2戦2勝のキタサンブラック産駒。血統をみるとおそらく晩成で、瞬発力でやや劣る部分がある。そのため、秋にパワーアップして紫苑Sに出走してきた際は、積極的に狙ってみたい。
そして、1番人気で7着に敗れたバロネッサは、騎乗した津村明秀騎手のコメントどおり、ゲートがすべてだろう。
スタートで出遅れたバロネッサは、ラヴァンダとの位置取り争いを演じることになり、残念ながらこの争いに敗れてしまった。しかも、その争いの中で同馬とラチに接触。そこからエキサイトして折り合いを欠き、好枠を引いたことが結果的に仇となった。
とはいえ、ポテンシャルの高さは疑いようがなく、カニキュルと同じく東京向き。距離は、1600mから1800mがベストだろうか。
また、血統面でも半兄がドゥラエレーデというだけでなく、母の半兄にGⅠを2勝し種牡馬となったサトノダイヤモンドがいる良血。母父オルフェーヴルは気性面で諸刃の剣となる可能性があるものの、そこまで数が多くない中から、ドゥラエレーデやコラソンビート、オープン2勝のナナオなど活躍馬を出しており、そういった点でも大物になる可能性は十分。
おそらく1勝クラスからの再出発となるが、今回の敗戦を糧に出世し、大舞台に駒を進めて欲しい。