[重賞回顧]夏を越して走りが洗練されたアーバンシックが菊の大輪を戴冠!~2024年・菊花賞~

三冠レースの中で「最も強い馬が勝つ」といわれる菊花賞。「最も速い馬が勝つ」といわれる皐月賞や「最も運のある馬が勝つ」といわれるダービーと比べて距離が長く、スタミナはもちろん、最後の平坦な直線では瞬発力も必要とされ、総合的に高い能力を求められるレースである。

ただ、2024年はダービーの5着内馬が菊花賞の前哨戦に一頭も出走しなかった。これは、グレード制が導入された1984年以降初めてのことで、本番に駒を進めてきたのもダービーを制したダノンデサイルだけ。また、過去に8頭が皐月賞と菊花賞の二冠制覇を達成しているのに対し、ダービーと菊花賞の二冠制覇は三冠馬を除けば2頭だけで、これがファン心理に影響したのか、最終的に単勝オッズ10倍を切ったのは5頭と混戦模様。それでも、1番人気に推されたのはダノンデサイルだった。

今季初戦の京成杯で重賞初制覇を飾り皐月賞に駒を進めたダノンデサイルは、その発走直前、右前肢に跛行を発症。無念の競走除外となってしまった。そのため、ダービーは実質4ヶ月ぶりの実戦となったものの、好位追走から直線抜け出し皐月賞馬ジャスティンミラノに2馬身差をつける完勝。世代の頂点に立った。

5ヶ月ぶりの実戦となる今回は、エピファネイアとの父仔制覇が懸かる一戦。三冠馬を除けば戦後2頭目となるダービー、菊花賞の二冠制覇が期待されていた。

これに続いたのがアーバンシック。デビューから2連勝後、京成杯でダノンデサイルの2着に好走したアーバンシックは、皐月賞でも4着に健闘。続くダービーは展開に泣き11着に敗れるも、秋初戦のセントライト記念で重賞初制覇を成し遂げた。二代母ランズエッジは三冠馬ディープインパクトの半妹という良血。2週連続GⅠ制覇が懸かるクリストフ・ルメール騎手とともに、菊の大輪獲得とスワーヴリチャード産駒初のGⅠ制覇なるか注目を集めていた。

3番人気となったのがコスモキュランダ。初勝利に4戦を要したものの、弥生賞ディープインパクト記念をレースレコードで制したコスモキュランダは、続く皐月賞も2着と好走。その後ダービーは6着、秋初戦のセントライト記念は再び2着と好走した。近年、弥生賞勝ち馬やセントライト記念1番人気馬は菊花賞と非常に相性が良く、4年連続好走中。自身はもちろん、アルアイン産駒初のGⅠ制覇も懸かっていた。

以下、2023年の覇者ドゥレッツァと同じく日本海Sからの連勝で頂点を狙うヘデントール。神戸新聞杯を制し前走に続いてゴールドシップとの父仔制覇が懸かるメイショウタバルの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、バラバラとしたスタートで5頭が出遅れ。コスモキュランダとヘデントールら上位人気馬もこの中に含まれていた。

一方、前は好スタートを切ったノーブルスカイをはじめ内枠勢がいこうとするところ、これらを外からまとめて交わしたエコロヴァルツが先頭。ノーブルスカイ、ミスタージーティー、ウエストナウを挟んだ5番手にダノンデサイルがつけ、メイショウタバルがその外に位置していた。

さらに、そこから1馬身差の中団にハヤテノフクノスケ、シュバルツクーゲル、出遅れを挽回したコスモキュランダの3頭が併走し、アーバンシックは後ろから5頭目。そして、出遅れを挽回しなかったヘデントールはアドマイヤテラと並んで最後方に控えていた。

1周目のホームストレッチに入ったところで今度はノーブルスカイが先頭に立ち、最初の1000m通過は1分2秒0と、やや遅いペース。前から後ろまでは12、3馬身と、さほど縦長の隊列にはならなかった。

その後、1度目のゴール板を通過したところでメイショウタバル、2コーナーに差しかかるところでピースワンデュックと先頭が目まぐるしく入れ替わり、向正面に入ったところで、ノーブルスカイ、シュバルツクーゲル、ミスタージーティーを加えた5頭が先団を形成。これらを射程に捕える6番手へといつの間にかポジションを上げていたのがアーバンシックで、アドマイヤテラもその2馬身後方に位置し、序盤、5番手を追走していたダノンデサイルは、坂の頂上で後ろから5頭目まで位置を下げていた。

さらに、続く下りで今度はシュバルツクーゲルが先頭に立ち、アドマイヤテラがこれを追うように2番手まで上昇。メイショウタバルとピースワンデュックは後退し、替わってアーバンシックとショウナンラプンタ、ヘデントールが前2頭を追う中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、シュバルツクーゲルが内ラチ沿いに進路を取って粘り込みを図るも、馬場の中央を伸びたアドマイヤテラが先頭。しかし、追ってきたアーバンシックがこれら2頭を交わし残り200mで先頭に躍り出ると、後続との差をジワジワ広げはじめた。

焦点は2着争いとなり、アドマイヤテラとショウナンラプンタが激しい競り合いを繰り広げているところにヘデントールも加わり、最終的にヘデントールがこの争いを制するも、その2馬身1/2前にいたアーバンシックが先頭でゴールイン。ヘデントールが2着で、ハナ差3着にアドマイヤテラが入った。

良馬場の勝ち時計は3分4秒1。直線半ばで抜け出したアーバンシックが、セントライト記念からの連勝で管理する武井亮調教師とともにGⅠ初制覇。この世代が初年度産駒の父スワーヴリチャードにも初のビッグタイトルをもたらした。

各馬短評

1着 アーバンシック

序盤は後方を追走していたものの、向正面ではいつの間にか6番手に。その後、一旦、息を入れたあと坂の下りでスパートし、直線半ばで勝負を決めた。

スタートが良くない点はデビュー当初から変わらないものの、秋になって明確に変わったのは、道中、馬なりでポジションを上げられるようになった点。ルメール騎手との出会いや、中山、京都の外回りコースに高い適性があるのかもしれないが、春までの後方一気とは明らかに異なり、夏を越えて走りが洗練された。おそらく、小回りよりもコーナーの緩いコースが合うため、春の天皇賞で再び力を発揮するのではないだろうか。

2着 ヘデントール

出遅れが悔やまれるとはいえ、今回に関してはそれがなくても勝っていたとまでは言い切れない差。また、父ルーラーシップや母父ステイゴールドの影響か、瞬発力にやや欠ける部分が勝ち馬との差となったが、基本的に持久力勝負や消耗戦に強いタイプ。長距離戦で極端な瞬発力勝負にならなければ安定して力を発揮し、ステイヤーとしての資質はおそらくアーバンシックよりも高い。

1つ気になるのがゲート入りを嫌がった点。父ルーラーシップも競走生活晩年は出遅れを繰り返し、年を重ねて気難しい部分を出しはじめる産駒も少なくなく、これが課題になるかもしれない。

ちなみに、前走3勝クラスの日本海S1着から菊花賞で連対するパターンは、2023年の覇者ドゥレッツァと同じ。両馬はともに関東馬で、ノーザンファーム天栄で調整された馬。関東馬の必勝ローテになるかもしれない。

3着 アドマイヤテラ

レース中盤から徐々にポジションを上げ、直線入口で先頭に立つ見せ場たっぷりの内容も、あと一歩のところで届かなかった。

血統表を見ると、母系を4代遡ればウインドインハーヘア(三冠馬ディープインパクトの母)がおり、父レイデオロの3代母もウインドインハーヘア。一方、アーバンシックも3代母がウインドインハーヘアで、同じ一族の出身ということになる。

種付け頭数が前年から100頭以上減少したことが話題になってしまった種牡馬レイデオロ。しかし、古馬最高峰のレースといわれる秋の天皇賞を制したダービー馬は近年同馬だけで、アドマイヤテラをはじめ産駒が本領を発揮するのはこれからかもしれない。

レース総評

3000mの菊花賞を1000mずつ三分割したとき最も多いラップ構成は、前半と後半の1000mが速く、真ん中の1000mでペースが緩む「速→遅→速」のパターン。ところが、今回は過去の長距離戦でも例をみないほど出入りが激しく、直線アーバンシックが抜け出すまで先頭が6度も変わるなど、息つく暇もない展開となった。

1000m毎のタイムを見ると、前半が1分2秒0、中盤が1分1秒7、そして後半が1分0秒4。特別遅い区間も速い区間もないとはいえ徐々にペースが上がっていき、先行馬にとっては厳しい展開だった。

また、序盤は先団にいた1番人気ダノンデサイルも度重なる先頭交代にリズムを崩されたか、一時は後ろから5頭目まで位置を下げるなど自分の走りができず、最後は追い込むも6着に敗戦。対照的に、序盤は後方に控えていた5頭中3頭が1から3着を独占した。

勝ったアーバンシックはスワーヴリチャードの初年度産駒。前走のセントライト記念で世代5頭目の重賞ウイナーとなった本馬が、連勝で産駒初のGⅠ馬となった。

一方、母父ハービンジャーは先日の秋華賞を制したチェルヴィニアの父で、3代母はディープインパクトの母ウインドインハーヘア。この世代の桜花賞馬ステレンボッシュとホープフルS勝ちのレガレイラ、そしてアーバンシックは3代母がすべてウインドインハーヘア(3頭はそれぞれいとこの関係)で、前述のとおり3着アドマイヤテラもこの一族の出身である。

また、今回も含め2015年以降におこなわれた3000m以上のGⅠ計20レースを見ると、ディープインパクト産駒が9勝をあげ、同馬の全兄ブラックタイド産駒のキタサンブラックが3勝。さらに、母父ディープインパクトのキセキが菊花賞を勝利するなど、ウインドインハーヘアを持つ馬が長距離GⅠで多数活躍している。

一方、好走馬の前走距離を見ると、上位3頭はいずれも前走2200mのレースを勝利していた。近年この傾向は強まっており、2020年~22年は1から3着を独占し2023年も1、3着馬が該当。来秋の重賞レース以外の番組表はまだ発表されておらず、2024年と同じ番組が組まれるとは限らないものの、やや外枠有利になってきたことと合わせて覚えておきたい傾向である。

さらに、1着から3着馬の騎手を見ると、ルメール騎手、戸崎圭太騎手、武豊騎手で、順番が微妙に異なるとはいえ、1週間前におこなわれた秋華賞の1から3着馬と同じ。いずれも過去に複数回リーディングを獲得しており「長距離は騎手で買え」の格言どおりの結果だった。

その中でもひときわ光るのが、やはりルメール騎手だろう。今回の出走18頭中4頭は前走ルメール騎手が騎乗して勝利した馬で、終わってみればそのうちの3頭が3着までを独占。しかも、当の本人はアーバンシックの能力を信頼してしっかりと引き出し、見事に勝ちきってみせた。「日本でキャリアを終えることを考えています」と語るなど、騎手人生のゴールについてコメントすることも増えたルメール騎手。しかし、その騎乗技術は衰えるどころか、アーバンシックの走りと同じく年を重ねる毎に洗練されている。

写真:@gomashiophoto、Lou

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