[重賞回顧]早目先頭から押し切ったピコチャンブラックが、父仔3代制覇の快挙達成!~2025年・スプリングS~

例年より開催が1週前倒しされた皐月賞トライアルのスプリングS。本番までの間隔は中4週となった。

関東でおこなわれる皐月賞トライアルは、弥生賞ディープインパクト記念とスプリングSの2レース。そのうち、前者は前走GⅠ組を中心とする重賞・オープン出走馬が好走しているのに対し、スプリングSは前走1勝クラス1着馬の活躍が目立っている。中でも、2018年の2着馬エポカドーロは本番の皐月賞を制し、続くダービーでも2着に好走。また、2015年の覇者キタサンブラックは皐月賞で3着と惜敗するも後にGⅠを7勝し、顕彰馬に選定された。

ただ、1勝クラス組が中心ということは主役不在になりがちで、今回もオッズ4倍前後に4頭がひしめき合う大混戦。その中でキングスコールが1番人気に推された。

7月札幌の新馬戦をレコードで完勝するも骨折が判明したキングスコールは、今回が8ヶ月ぶりの実戦。ただ、当時2着のテリオスララは、GⅠ阪神ジュベナイルフィリーズでも3着に好走するなど、タイム面だけでなくメンバーレベルも高い一戦だった。

父ドゥラメンテは2023年のリーディングサイアーで、母父は「競馬史上最強馬」の呼び声高いフランケルという良血。長休明けの一戦を潜在能力でカバーするか。大きな注目を集めていた。

僅かの差で、これに続いたのがピコチャンブラック。

7月福島の新馬戦を7馬身差で圧勝したピコチャンブラックは、アイビーSで2着に好走したものの、GⅠホープフルSは13着と大敗してしまった。

ただ、父キタサンブラックとその父ブラックタイドは当レースの覇者で、今回は父仔3代制覇が懸かる一戦。さらに、母の全兄アンライバルドとその父ネオユニヴァースも当レースを勝つなど、現役屈指ともいえるスプリングS向きの血統で、なんとしても本番への出走権を獲得したい一戦だった。

そして、3番人気となったのがダノンセンチュリーだった。

2022年のセレクトセール当歳市場において税込2億3,100万円で落札されたダノンセンチュリーは、2月東京の新馬戦に出走。見事な逃げ切り勝ちで初陣を飾った。

この世代が初年度のフィエールマン産駒で、おばイルーシヴウェーヴは仏1000ギニーの覇者という良血。キングスコールと同じく、キャリア1戦の馬が勝てばグレード制導入以降初めてで、快挙達成が期待されていた。

以下、新馬戦とこぶし賞を連勝し、3戦全勝で重賞初制覇を狙うマテンロウバローズ。1勝クラスを制した前週から連闘で臨むレーヴブリリアントの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、キングスコールがタイミング合わず出遅れ。スワローシチーも後方からの競馬となった。一方、前はクモヒトツナイをはじめ、ピコチャンブラックやスナークピカソなど5頭がいく構えを見せ、最終的にダノンセンチュリーが1番枠を活かしたコーナリングで先頭に立った。

2番手以下は、クモヒトツナイ、ニホンピロデヴィン、ピコチャンブラック、マテンロウバローズ、スナークピカソがほぼ1馬身間隔で続き、中団はジェットマグナム、フクノブルーレイク、出遅れを挽回したキングスコールが一団になりかけるも、それも束の間。キングスコールが早くもスパートし、先団に並びかけた。

すると、この動きにつられたか。今度はピコチャンブラックが動いて先頭に立ち、一旦は交わされたダノンセンチュリーも負けじとこれに並びかけた。

1000m通過は1分1秒7のミドルペースで、先頭から最後方のレーヴブリリアントまではおよそ13馬身。その後、3、4コーナー中間でフクノブルーレイクが仕掛け、キングスコールも再びスパートする中、ピコチャンブラックが単独先頭に立ったところでレースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、ピコチャンブラックが後続を突き放しリードは1馬身。フクノブルーレイクが必死に食らいつき、キングスコールとマテンロウバローズも前2頭を追って、勝負圏内はこれら4頭に絞られた。

しかし、ピコチャンブラックは非常に粘り強く、坂上でもう一度リードを広げると、そこからフクノブルーレイクに迫られたものの、この追撃を封じ1着でゴールイン。クビ差2着にフクノブルーレイクが入り、3着争いを制したキングスコールまでの3頭が皐月賞の優先出走権を獲得した。

重馬場の勝ち時計は1分51秒5。前走の大敗から巻き返したピコチャンブラックが、管理する上原佑紀調教師とともに重賞初制覇。同時に、スプリングS父仔3代制覇の偉業も達成した。

各馬短評

1着 ピコチャンブラック

序盤は4番手に落ち着くも、キングスコールの動きにつられるように先頭へ。その後、ダノンセンチュリーと併走する場面こそあったものの、先頭を譲ることなく押し切った。

東京で2着の実績があるとはいえ、得意とするのは今回のような持久力が要求されるレース。弥生賞ディープインパクト記念を制したファウストラーゼン同様、スタミナと底力は豊富で、課題の集中力が続き消耗戦になれば本番でも好走が期待できる。

また、その先のセントライト記念やアメリカジョッキークラブC、中山記念、日経賞、さらにローカル小回りの重賞や海外のレースなどでも狙ってみたい。

2着 フクノブルーレイク

序盤は後ろから4頭目に位置し、そこから徐々に上昇。レースを見返すと、キングスコールの早目スパートはこの馬の動きにつられたようにもみえるが、直線でもジリジリと伸び2着を確保した。

2017年のスプリングS覇者ウインブライト産駒の本馬もまた、父仔制覇が懸かっていた一頭。小回り、非根幹距離(4で割り切れない距離)、道悪での持久力勝負という、ステイゴールド系がいかにも得意としそうな条件での好走だった。その点は勝ち馬と似ており、前述した中山の重賞や福島のラジオNIKKEI賞で好走を期待したいが、今回に関しては権利獲得が何よりの成果。賞金加算できた点も非常に大きかった。

3着 キングスコール

出遅れをすぐ挽回して中団につけ、向正面で早目スパート。ただ、マクりきることはせずそこで脚を溜めると、直線はジリジリとしか伸びなかったものの3着を死守した。

ややチグハグな内容だったとはいえ、長休明けや出遅れを考慮すれば最も強い競馬をしたのはこの馬か。ただ、2着馬とは対照的に、賞金加算できなかった点は痛かった。

スターズオンアースやリバティアイランドに代表されるように、ドゥラメンテ産駒の牝馬は瞬発力タイプに出ることが多い一方、牡馬はタイトルホルダーのような持久力タイプが大半。おそらくキングスコールもこのタイプだが、鞍上の藤岡佑介騎手によると、跳びが凄くキレイで、決して重馬場がいいタイプではないとのこと。

レース総評

レース当日は雨が降り続き、午前9時過ぎに稍重から重へと1ランクダウン。不良馬場にこそならなかったものの、かなり時計を要する馬場となった。

そんな中おこなわれたスプリングSは前半800mが50秒0で、11秒7をはさみ、同後半が49秒8=1分51秒5。レースが動いた5ハロン目と6ハロン目が最速(11秒7)という特殊な流れで、先日の弥生賞ディープインパクト記念と似たラップ構成だった(同レースは6ハロン目の11秒5が実質最速で、7ハロン目も11秒7)。

そんな特殊な流れを作り出し好走した2頭、1着ピコチャンブラックと3着キングスコールは評価できる内容。ただ、若駒にとっては厳しい消耗戦となったため、間隔が1週延びたとはいえ、今回の疲れをいかに早く取るかが本番好走のカギとなるだろう。

上位入着馬の血統に注目すると、勝ったピコチャンブラックは、血統表に3頭のスプリングS勝ち馬と、それ以外にスプリングS勝ち馬の全妹がいるという、このレースを勝つために生まれてきたような馬。そのうち、母父ネオユニヴァースと、母の全兄アンライバルドは、ともにスプリングSと皐月賞を連勝している。

また、サンデーサイレンス3×3のクロスを持つ点も本馬の特徴で、同様のクロスを持つキタサンブラック産駒のJRA重賞勝ち馬は、今のところラヴェルとピコチャンブラックだけ。他、ガイアフォースとスキルヴィングは、サンデーサイレンス3×4のクロスを持つ。

一方、2着フクノブルーレイクもウインブライトとの父仔制覇が懸かっていた一戦で、母父ロードカナロアも、直仔は過去4頭がスプリングSに出走し[2-1-0-1/4]と好成績。結果論といわれればそれまでだが、ピコチャンブラック同様、この馬もまたスプリングS向きの血統といえる。

ここまで、皐月賞トライアルは3レース中2レースが終了。3月22日におこなわれる若葉Sを残すのみとなった。ここまでを振り返ると、トライアルを制した2頭と、きさらぎ賞勝ち馬サトノシャインニング、共同通信杯を制したマスカレードボールの4頭は、いずれも2歳王者クロワデュノールに敗れた馬たち。同馬は皐月賞直行が決定しているものの、負かした馬が次々と重賞を勝利しているため、自身の評価は週を追うごとに上がり続け、一強の座を確固たるものとしている。

ただ、牝馬クラシックが「消耗との戦い」になるのに対し、牡馬は「成長との戦い」になるともいわれる。さらに、スプリングSに関しては開催が1週前倒しされたことで、短期間とはいえ、スプリングS組はこれまで以上に成長するチャンスが生まれた。

その成長力を武器に大混戦の第2グループから抜け出し、王者クロワデュノールに真っ向勝負を挑むのはどの馬か。そもそも、本当にクロワデュノールの一強なのか──。

皐月賞まであと1ヶ月。今年もいよいよクラシックの足音が近づいてきた。

写真:だいゆい

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