その名のとおり、ダートの日本一を決めるチャンピオンズカップ。
名称と舞台が中京競馬場に変わってから今年で7回目を迎え、すっかり定着した感がある。
例年、好メンバーが集まる一戦ではあるが、今年は、GⅠや統一GⅠ勝ち馬が8頭出走と、いつにも増して大変豪華なメンバーに。現在ダート中距離路線で活躍している馬は、ほとんどが集まったといっても過言ではない。
そんな豪華メンバーの中でも、1番人気に推されたクリソベリルの単勝オッズは最終的に1.4倍となり、ジャパンカップダートの時代も含め、チャンピオンズカップ史上最も低いオッズを示していた。前年のこのレースの覇者で、国内は向かうところ敵なしの8戦全勝という圧倒的な成績ゆえ、このオッズも納得できるものだった。
2番人気に続いたのは3歳馬のカフェファラオ。
圧倒的な支持を集めた7月のジャパンダートダービーでは、よもやの7着に敗れてしまったが、この馬も中央の舞台ではいまだ無敗。仕切り直しとなった前走のシリウスステークスでは、今回と同じ中京競馬場で古馬相手に快勝し、鞍上には引き続き絶好調のルメール騎手を据え、単勝オッズ6.0倍とこちらも高い支持を集めていた。
3番人気となったのは、クリソベリルが出現するまでは日本一の座に就いていた『前王者』のゴールドドリーム。GⅠと統一GⅠ合わせて5勝2着5回は、このメンバーでも圧倒的な数字で、まもなく8歳を迎えるにもかかわらず、依然として多くの支持を集めていた。
レース概況
好天の下ゲートが開くと、全馬16頭きれいなスタートを切った。
内からエアアルマスが先手を奪い、それを外からインティが追いかけて1コーナーに入る。
クリソベリルは、中団より少し前につけて1コーナーを回ったが、外からヨシオに来られたことでスイッチが入ってしまったか、2コーナーで少しかかり気味になり、結局4番手で向正面に入った。
他の人気馬では、4番人気のチュウワウィザードが、クリソベリルを前に見る形で中団8番手につけ、カフェファラオとゴールドドリームはその直後を並走。1000mの通過は1分0秒3と平均ペースで流れ、先頭から最後方まではおよそ12馬身ほどと少し縦長の隊列となり、レースは勝負どころの3コーナーから4コーナーに入った。
残り600mを切って、エアアルマスの外からインティが並びかけていく。
クリソベリルと内を通ったアナザートゥルースが3番手に上がり、その後ろからチュウワウィザード、アルクトス、ゴールドドリームの順で最後の直線に入った。
前2頭のリードはおよそ2馬身ほどあり、残り300mを過ぎてもその差は変わらなかったが、200m標識の手前でインティが単独先頭に躍り出る。
3番手のクリソベリルは、じりじりと伸びてはいるものの末脚にさほど勢いがなく、チュウワウィザードが外からあっさりそれを交わして、さらに差し脚を伸ばす。
一方、中団にいた馬の中ではゴールドドリームの伸び脚が目立ち、こちらもクリソベリルを交わして前の二頭を追った。
そして、残り100mを切ったところで、今度はチュウワウィザードが先頭に立って徐々にリードを広げる。
ゴールドドリームがそれを追うが差は詰まらず、インティを捕えるのが精一杯。結局、チュウワウィザードがゴールドドリームに2馬身半差をつける完勝で、中央GⅠ初制覇を達成。
一方のゴールドドリームは、GⅠと統一GⅠ合わせて6度目の2着とまたも悔しい結果となり、3着インティとの2頭での2、3着は、昨年と同じ結果となった。また、断然人気に推されたクリソベリルは、さらにそこから4分の3馬身差の4着に終わった。
勝ちタイムは1分49秒3で、中京競馬場に舞台が移ってから、昨年に次ぐ2番目のタイムとなった。
各馬短評
1着 チュウワウィザード
2019年のJBCクラシックや今年の川崎記念を制するなど十分な実績があったが、クリソベリルとはここまで三度対戦して全て先着を許していた。しかし、この大一番で見事にリベンジを果たし、中央GⅠ初制覇を成し遂げた。
騎乗した戸崎騎手とは、3歳夏以来およそ2年半ぶりのコンビ再結成となったが、今回はその戸崎騎手が、道中はクリソベリルを前に見てマークし、ものの見事に直線差しきった好騎乗は見逃せない。特に、今年は昨年11月の落馬事故の影響で前半戦を棒に振り、5月下旬からの実戦復帰となっていただけに、喜びもひとしおだったのではないだろうか。
また、戸崎騎手といえば、もともとは地方競馬の大井競馬場所属で、2013年に中央競馬に移籍してきたが、意外にも中央競馬のダートGⅠはこれが初勝利となった。
2着 ゴールドドリーム
昨年に続く2着は、陣営としては大変に悔しい結果だとは思うが、この馬もまもなく8歳を迎える大ベテラン。それを考えれば、3番人気とはいえ大健闘の2着といえるのではないだろうか。思えば、GⅠ初制覇は4歳2月のフェブラリーステークスで、実に4年近くもダートの一線級で活躍し続けていることになり本当に頭の下がる思いだ。
3着 インティ
昨年に続き3着と健闘したこの馬も、まもなく7歳を迎える。
スタートでダッシュがつかなかったものの、積極的に出して2番手につけ、直線もギリギリのところまで粘ってあわやの場面を作るなど、武騎手の好騎乗が光った。
その武騎手からはレース後「3コーナーから4コーナーでかかってしまったのが悔やまれる」とのコメントが出ていたように、折り合いがうまくいけば、この馬もまだまだ一線級で活躍できるところを示す好内容だった。
4着 クリソベリル
中間の調教内容、枠順、大幅な体重増、1コーナーの入りなど、国内初の敗戦を喫した要因は複数あると思われる。川田騎手のレース後のコメントによると、デキが本調子になかったようで、中間の調整がかなり難しかったようだ。
この馬も、ノーザンファーム生産馬では近年トレンドになっている、前哨戦を使わず本番直行のローテーションで度々出走していて、これまでは少なくとも前走から2ヶ月の間隔を取っていた。しかし、今回は初めて前走から1ヶ月の間隔でのレースとなり、おそらくその部分が少なからず影響したものと思われる。
レース総評
チュウワウィザードの勝利により、中京競馬場に舞台を移して以降の7年全てで、過去にGⅠか統一GⅠ勝ちのある馬が優勝したこととなった。また、2、3着が昨年と同じ結果になったように、過去にGⅠか統一GⅠ勝ちのある6歳以上のベテランが穴を開けるレースでもある。
2017年、7歳で3着となったコパノリッキーは9番人気、2016年に優勝したサウンドトゥルーは当時6歳で6番人気、そして2015年6歳で優勝したサンビスタに至っては12番人気の大穴だった。
このように、ダート路線は高齢になっても中央・地方関わらず一線級で活躍できることが多く、ダート界ではまだまだ若手のチュウワウィザードやクリソベリルは、いうまでもなくこの先も活躍が見込めるだろう。
最後に、今回四度目の正直でクリソベリルに勝利したチュウワウィザード陣営にとっては、ここまで三度の対戦で大変に悔しい思いをし続けたであろうことは容易に想像ができる。特に前走は、三度目の対戦にして初めてクリソベリルの前にポジションをとってレースを進め、勝つための意図が感じられるレースをしていた。
しかし、それでも結果が出なかったことによって、本来なら諦めてしまいそうなほど気持ちが落ち込んでしまいそうなものだが、この大一番に向けて再度馬を作り上げ、それがパドックでも分かるくらい明らかに状態が良さそうに見えた。そんな陣営の諦めない執念が、勝利という最高の形で結実したことは、大きな大きな賞賛に値するものだったといえる。