[重賞回顧]今年も牝馬が春秋グランプリ制覇の快挙達成 〜2020年・有馬記念〜

ファン投票で出走馬が決まる、グランプリ有馬記念。
英国のグランドナショナルと並び世界一馬券が売れるレースとされ、1996年の売上額875億円はギネス世界記録にもなっている通り、日本競馬を代表する最も大きなレースの一つといえる。

今年もフルゲートの16頭が参戦。
先日のジャパンカップで死闘を演じた3頭の三冠馬は出走しないものの、出走馬の半数がGⅠ馬という豪華なメンバーが集結した。

その中で1番人気に推されたのは、春のグランプリ・宝塚記念を制したクロノジェネシスだった。
宝塚記念は、道悪だったとはいえ、2着馬に6馬身差をつけた内容は圧巻の一言。前走の天皇賞秋は3着に敗れたものの、宝塚記念と親和性が高いこのレースでも、同様に高いパフォーマンスが発揮されることを期待され、堂々の1番人気に推された。

2番人気に続いたのは、5歳牡馬のフィエールマン。
今シーズン、天皇賞春で連覇を達成した後は、およそ半年間休養。
前走の天皇賞秋ではアーモンドアイの2着に好走し、クロノジェネシスに先着した。現役屈指のステイヤーが、主戦のルメール騎手と再びコンビを組むこともあり、大きな期待が集まった。

3番人気には、重賞未勝利ながらGⅠで2着が3度あるカレンブーケドールが推された。どんな相手でも確実に上位入線を果たし、世紀の一戦といわれた11月のジャパンカップでも、このメンバーでは最先着となる4着に健闘。その4着も、無敗で3歳三冠を達成した2頭とタイム差なしという大接戦で、今回もその走りに注目が集まった。

4番人気となったのは、今回が引退レースとなる5歳牝馬のラッキーライラック。前走のエリザベス女王杯では連覇を達成し、4つ目のGⅠタイトルを獲得した。5歳牝馬のラストランといえば、前年の有馬記念を圧勝したリスグラシューと重なり、さらには父オルフェーヴルが現役時に2度制したレースということもあって、上位人気に推されることとなった。

レース概況

スタートが切られると、まずモズベッロが出遅れ、近走安定してスタートを切っていたキセキも、久々に出遅れ気味のスタートとなってしまった。一方で逃げ宣言をしていたバビットが、好スタートから先手を奪って2馬身のリードを取り、オーソリティ、ブラストワンピースの同じ勝負服の2頭が2番手につけ、1周目のスタンド前に入った。

上位人気馬では、こちらもスタートでダッシュがつかなかったフィエールマンが、早くも挽回して6番手の外にポジションを上げ、その内にカレンブーケドールが追走。ラッキーライラックは中団9番手、そして1番人気のクロノジェネシスは、その1馬身後方、先頭からはおよそ8馬身差の12番手に構え、馬群は1コーナーを回った。

今週から、さらに時計がかかるようになっていたものの、1000m通過の1分2秒2はスローペース。
しかし、さすがに中・長距離の一流馬ばかりが集まったレースで、目立って折り合いを欠くような馬はいなかった。

向正面に入ると、フィエールマンがさらにポジションを上げて4番手まで進出し、ワールドプレミアとカレンブーケドールも、内と外から進出して5番手につける。

そして、残り1000mを通過したところでレースが動き始めた。
まず、クロノジェネシスが徐々に前との差を詰め始め、キセキも後方からまくりをかけて、宝塚記念と同様のシーンが見られた。ここまでのラップタイムは、ほとんどが12秒5~12秒8で落ち着いていたが、この動きに合わせて、レース全体のペースが一気に上がる。

3コーナーでは、早くもフィエールマンが2番手に上がり、カレンブーケドールが3番手。そして、あっという間に、絶好の手応えでクロノジェネシスがその外に並びかけてきた。逆に、その後ろまでポジションを上げて来ていたキセキは、ここで早くも手応えが怪しくなり、変わってラッキーライラックが進出。
4コーナーでは上位人気馬4頭が先団につけて最後の直線勝負となった。

迎えた直線。
逃げるバビットを早々に交わしたのは、内のフィエールマンと外のクロノジェネシスの人気馬2頭で、4頭の中からカレンブーケドールが少しずつ遅れ始める。ラッキーライラックにも伸び脚がなく、それら2頭に変わって追い込んできたのは、ここまで後方に構えていたサラキアだった。

残り100mを切ったところで、今度はクロノジェネシスが先頭に立ち、半馬身ほどのリードを取って我慢比べとなった。
そこへ大外から末脚を伸ばしてきたサラキアが一気に前2頭に襲いかかる。
それでも、最後はクロノジェネシスが粘りきって1着でゴールイン。

クビ差の2着にサラキア、3着もさらにクビ差でフィエールマンが入った。

各馬短評

1着 クロノジェネシス

昨年のリスグラシューに続き、2年連続で牝馬が春秋グランプリ制覇を達成した。

道中は後方に構え、残り1000mからロングスパートを開始。現役最強ステイヤーのフィエールマンとの力勝負を制してみせた。2020年は牝馬がGⅠを勝ちまくったが、有馬記念は、古馬のGⅠでは天皇賞春に次ぐ長距離レース。そこで、牝馬が牡馬との底力勝負を制してワンツー決着となったことは、とてつもない快挙といえる。

2着 サラキア

道中は離れた後方4番手に控え、前走のエリザベス女王杯と同様に、上位入線馬では最も仕掛けを我慢して最後の直線勝負に賭け、ゴール前であわやの場面を作った。

6月のエプソムカップで10番人気13着に敗れていた馬が、夏を越えてまるで別馬のように変身。常識では考えられない成長力、そして中・長距離適性を見せつけた。母系に流れるヨーロッパの重厚な血が後押ししたのだろうか。

これがラストランというのがあまりに惜しまれるが、競走馬としての全盛で引退して繁殖入りすることで、間違いなく良駒をたくさん産んでくれるだろう。

3着 フィエールマン

近年の有馬記念とは違い、事前に予想されていたほど、今年は外枠が不利にならなかった。しかし、スタートでダッシュがつかなかったことが誤算で、道中も常に先団を意識してポジションを上げ続けた。それが響いたか、勝ち馬とは馬場適性の差があったことは間違いないが、現役最強のステイヤーでも最後の最後で息切れしてしまった。

逆に言うと、それでも僅差の3着に粘ったことは、この馬の実力の高さを証明した結果で、次走がどこになるかはわからないが、前人未踏の天皇賞春3連覇を達成しても、全くおかしくない。

レース総評

良馬場発表とはいえ、かなり時計がかかる馬場で行われた今年の有馬記念。勝ちタイムの2分35秒0は、過去20年で3番目に遅いタイムだった。それよりも遅かった2014年と2011年は、超スローペースからの瞬発力勝負だったが、今年は上がり3ハロンが36秒を超える底力勝負、そしてバテ比べとなった。こういった時計のかかる馬場では、少なくとも父系か母系のどちらかに、ヨーロッパの重厚な血を持っていることが不可欠だといえる。

宝塚記念ほどではなかったものの、そういう馬場になったことが勝ち馬に味方したことは間違いない。しかし、底力勝負となった末に、長距離GⅠで1、2着を牝馬が独占したという事実(有馬記念での牝馬のワンツーは史上初)には、ただただ驚くしかなく、牝馬の年を象徴するような締めくくりとなった。

おそらく、コロナ渦は来年もそう簡単には収束せず、競走馬の海外遠征、とりわけ欧州遠征は相当に難しいように思う。しかし、もし実現するのであれば、2度にわたってタフな馬場をこなした、クロノジェネシスの欧州遠征を見たいと思っているファンは、きっと少なくないはずだ。

写真:s.taka

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