離陸の準備、完了。ルージュボヤージュが届けたコントレイル産駒の初勝利と、これから

2025年7月13日、福島5レースにてルージュボヤージュが1着でゴール坂を駆け抜けた。同馬の父、コントレイルにとって、これが産駒のJRA初勝利。通算10戦目にしての勝ち上がりであった。

コントレイル産駒はこれで10戦1勝2着1回3着3回(2025年7月13日現在)。初出走から1か月で1勝目を挙げた事に加え、産駒の複勝率が4割という事を考えれば、好走していると言って良いはずだ。しかしルージュボヤージュが勝利するまで、ファンからは「期待ほど走れていないのでは」と不安視する声も聞こえた。そのせいか、この日の初勝利には「やっと勝った」と喜んだファンやホッとしたファンが多かったように思う。

これは恐らく、初年度産駒への期待がかなりのものであったからだろう。

現役時代は父ディープインパクト以来となる無敗での牡馬三冠を達成。その後は3戦して勝ち切れないながらも、ラストランとなるジャパンカップで華々しく復活劇を飾ったコントレイルは、種牡馬入り初年度から相当な注目を集めていた。

産駒が初の上場となった2023年の当歳セレクトセールでは、いきなりコンヴィクションⅡの2023が歴代3位となる5億2000万円という競り値をつけられた。それ以外の産駒も多くが高額で競り落とされ、種牡馬として初の参戦にも関わらず産駒の落札合計は29億2380万円を記録。この時点で先輩種牡馬のサクラバクシンオーやブラックタイドがここまで積み重ねた累計の落札額を上回るほどの人気ぶりであった。

それに加え、コントレイルの仔がデビューするまでの間、彼の産駒に関する情報はかなりの数が回ってきていた。だからこそ、期待値はどんどん膨らんだのかもしれない。

しかし、のちの大種牡馬が最初からなかなか期待通りの成績を残すのは難しい。2025年7月現在、エフフォーリアやダノンデサイルといった名馬を数多く送り出しているエピファネイアも、産駒の初勝利は6月の最終週。おまけに初年度は重賞、OP特別共に未勝利で、産駒の勝ち上がり率は1割以下と決して芳しいものではなかった。

加えてこの時期、同期のキズナは新馬戦のスタートから2週目で勝利し、世代最初の重賞である函館2歳Sを制したビアンフェを輩出。いきなり差をつけられた感もあり、現役時代のライバルと比較して「エピファネイアは種牡馬としては厳しい」と言う人もいた。

だが、彼の産駒が本領を発揮したのはこの年の秋から。9月以降に勝ち上がった馬はのちに牝馬三冠を制するデアリングタクトを筆頭に、府中牝馬Sでソダシを破るイズジョーノキセキ、クラシック路線に名乗りを挙げたロールオブサンダーやスカイグルーヴ、シーズンズギフトと多くの素質馬がデビュー。最終的には同年の2歳リーディング5位となり、新種牡馬の中ではキズナに次ぐ2位の成績となっている。

また、初年度からスプリンターズSなどを制したピクシーナイトなどが出ているモーリスも、産駒の初勝利は7月の2週目であった。2勝目を挙げたのは8月の2週目と時間がかかっており、やはりこの時も「走らないのではないか」という不安説が囁かれていたことを記憶している。だが、結果的には9月から12月の2歳戦でこの年の全体勝利数である31勝のうち24勝を挙げている。この中にピクシーナイトの名前もあった。

つまり、期待をかけられ種牡馬入りした馬達は、おおむね秋から冬にかけてまとまった勝利を挙げることも多い。今回のコントレイルも、前2頭と非常に良く似ているパターンのため、これからの躍進に期待がかかる。

勝利したルージュボヤージュの新馬戦は65.3-61.3秒という時計で推移しており、かなりの後傾ラップ。スローペースとはいえ、ここまで流れが落ち着くと地の瞬発力がないと好走は難しい。そんなレースを、ルージュボヤージュは上り3F・35.7秒という末脚で勝利した。

出走馬の中でもここまで速い上りを使った馬は彼女だけのため、追われてからのスピードの乗りは水準以上のものを持っていると考えて良いのではないだろうか。このあたり、やはり瞬発力に勝っていた父の系譜を感じるところがある。

直線で抜け出してからは大きく外にヨレる気の悪さも見せたように、まだまだ走りには幼い面がある。とはいえ、父も2歳時は遊びながら走っており、重賞初制覇となった東京スポーツ杯2歳Sの輪乗りではそれが悪い方向に出て騎乗したムーア騎手を振り落としたりもした。良い面、悪い面共に父親譲りなのだろうか。

コントレイルはここからしっかりクラシック路線へ駒を進め、翌年には無敗三冠という歴史的快挙を達成している。その道程であるダービーでただ1頭、馬群から抜け出しても最後まで気を抜かなかったのは、間違いなく彼自身が成長したからだ。ならば、その血を受け継いでいるルージュボヤージュも、レース中の気性が改善すればクラシック戦線での活躍も夢ではないはずだ。

福島芝1800mでデビューした馬には、国内外でG1・2勝を挙げたノームコアがいる。偉大な先輩に続くことはできるか、今後に注目したい。

そして、コントレイル産駒には先述した5億2000万円ホースのサガルマータを筆頭に、半姉に牝馬三冠馬リバティアイランドを持つコニーアイランド、半兄にキタサンブラックのいるラルクアンレーヴなど、話題性も抜群な良血馬達が多数スタンバイ。恐らく彼らは秋から冬にかけ、翌年のクラシック路線を見据えてデビューしてくるだろう。その時こそ、コントレイル産駒が本当の真価を見せ始める時なのかもしれない。

写真:Sarcoma

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