
直線1200m、息詰まる深夜の一騎打ち!
6月21日、土曜日の深夜。イギリスのアスコット競馬場で開催された、クイーンエリザベス2世ジュビリーステークス(G1)にサトノレーヴが出走した。結果だけを見れば1/2馬身差の2着、サトノレーヴはイギリスへ遠征してよく健闘した…で終わってしまうところだ。
しかし、出走したクイーンエリザベス2世ジュビリーステークス(G1)は、毎年6月第3週にイギリス王室主催で5日間にわたって開かれるイギリス競馬の夏のイベント「ロイヤルアスコット開催」の重要なポジションを担うレース。毎年恒例で施行されるロイヤルアスコット開催は、ヨーロッパの競馬シーズン前半で最大の盛り上がりを見せるイベントとなっている。
この「ロイヤルアスコット開催」に、今まで日本調教馬が何頭か挑戦しているものの、なかなか結果が出せていない。過去を紐解いて行けば、2000年のキングススタンドステークス・GⅡ(現・キングチャールズ3世ステークス・GⅠ)に日本からアグネスワールド(武豊)とドージマムテキ(武幸四郎)が出走し、アグネスワールドが2着に入った。以降、グランプリボスやエイシンヒカリ、ディアドラなどがロイヤルアスコット開催の様々なレースにチャレンジしたが、いずれも着外に終わる。アグネスワールドに次いで入着したのは22年後の2022年、シャフリヤール(プリンスオブウェールズステークス・GⅠ)が4着に入ったのみ。
今回のサトノレーヴの2着は、日本調教馬として「約300年の歴史があるロイヤルアスコット開催のGⅠで初の2着」という快挙である。
最終日の第3レースとして施行されるクイーンエリザベス2世ジュビリーステークスはスプリント競走に分類されている。過去に、キーンランドスワン(2005年・10着)、グレナディアガース(2022年・19着)が出走していて、直線1200mのタフなコースの厚い壁に跳ね返されてきた。3頭目のチャレンジとなったサトノレーヴが、ようやくその壁を破ったことになる。
大外枠から好スタートを切ったサトノレーヴ、2つに分かれた馬群で進む展開のスタンド側の馬群で前目のポジションを取る。鞍上のモレイラ騎手が満を持して追い出すと、同じく内側の馬群から抜け出たラザットとの完全なマッチレース。一旦はモレイラ騎手の追い上げで並んだかと思われたものの、ラザットが最後まで先頭を譲ることなくゴールを駆け抜けた。サトノレーヴは1/2馬身差で惜しくも2着に終わる。3着のフローラオブバミューダとは3馬身の差をつけていた。
大金星まで、本当にあと一歩だった。ヨーロッパ最高峰のスプリント王者の座を、一瞬手に触れるところまで迫った。モレイラ騎手のインタビュー、「素晴らしいレースをしてくれたけど、ツイてなかったのは、本当に強い馬が1頭いたこと」が、その走りを称えている。
優勝したラザットは、欧州で今期最強のスプリンター。直線コース1200mで、互角にラザットと渡り合えたのは、サトノレーヴの力が世界レベルに達しているということだろう。
父を超えろ!「シン・世界のサトノレーヴ」

サトノレーヴの父は香港スプリントを連覇し、国内のスプリントGⅠ(スプリンターステークス、高松宮記念)3勝の史上最強スプリンター、ロードカナロア。更に母の父は90年代の快速王サクラバクシンオーとなれば、正真正銘のスプリンターだ。14戦中12戦が1200mという蹄跡も、海外の1200mを制圧するのに充分なキャリアである。
3歳の4月にデビューして未勝利戦を勝ち、4歳の春にオープンクラスに昇格したサトノレーヴ。堀調教師の元で、じっくり丁寧に育てられたサトノレーヴが本格化したのは、5歳夏のこと。北海道シリーズのスプリント重賞、函館スプリント、キーンランドカップを連勝後、スプリンターズステークス(7着)を挟んで、暮れの香港スプリントに駒を進める。ここで香港の絶対王者カーインライジングに完敗の3着。6歳になり、モレイラ騎手で高松宮記念制覇後、再びカーインライジングに挑む(チェアマンズSP・GⅠ)も返り討ちに遭ってしまう。
2025年下半期の目標は、もちろん香港スプリントで、カーインライジングに雪辱を果たすこと。そこへラザットも参戦してまとめて負かせば、サトノレーヴが真の世界王者になるはずだ。「世界のロードカナロア」と言われた父を超えるためにも、まずは無事に、そして順調に香港スプリントを迎えて欲しい。

サトノレーヴは、強い相手と戦うことで着実にレベルアップ、パワーアップしていると思う。マイル、中距離、ダートの各部門で続々と世界レベルの日本馬が登場する中、スプリント部門においても、世界に名を轟かせる日本のスプリンターの登場が待たれる。まだまだ完成期に向けて階段を上り続けているサトノレーヴこそ、そのポジションに最も近い馬である。
「シン・世界のサトノレーヴ!」
スポーツ紙にそんな見出しが出ることを期待しつつ、サトノレーヴを応援していきたい。
Photo by I.Natsume