北の大地から未来へ響く蹄音。ソルジャーフィルド、道営三冠の先に待つ高み

2025年7月24日。北の大地・門別競馬場で一つの蹄音が道営競馬の歴史を刻んだ。

その主役はソルジャーフィルド。デビュー6年目の若手有望株、小野楓馬騎手を背に史上8頭目となる道営三冠を成し遂げ、北の3歳ダート王の座を確固たるものとした。

門別競馬場には、独特の魅力がある。

馬産地に直結した立地ゆえ、スタンドでは生産者の姿を目にすることも珍しくない。すぐ近くで、つい先ほど行われたレースを振り返る関係者の熱い声が聞こえることもある。遠くからはジンギスカンの香りが漂い、まるで地域の運動会を見守るような温もりが漂う。そこには牧場と競馬が地続きな門別ならではの光景が広がっている。

しかし、その穏やかさを帯びた空気は、夜が更けるにつれて一変する。日が落ちたコースで繰り広げられるのは息をのむような死闘。砂を蹴り上げ、筋肉がぶつかり合い、激しい呼吸音が聞こえる。この対照的なコントラストが、門別が多くの競馬ファンを魅了してやまない理由だ。

ここ門別から全国区のヒーローが誕生することは、馬産地を勇気づけ、未来への希望を灯すようにも思える。

ソルジャーフィルドは、その非凡な才能を早くから見せていた。地方馬の枠を超えて注目を集めたのはJBC2歳優駿。中団追走から徐々に進出すると、直線では中央勢を3馬身突き放す圧巻の走りを見せ、全国の競馬ファンに「門別にソルジャーフィルドあり」と印象付けた。

その後は南関東に遠征し、全日本2歳優駿3着、京浜盃4着と、他地区の実力馬とも渡り合った。しかし、全国のライバルたちの壁は、想像以上に高く、強力だった。特に京浜盃ではナチュラルライズに大きく水をあけられ、力の差を見せつけられた。

だが、この若き戦士は挫けなかった。負けた悔しさを飲み込み、故郷で牙を研ぎ、雪辱を胸に己を磨き上げてきた。

ソルジャーフィルドの三冠への道は、決して平坦ではなかった。それは自身の能力だけでなく、気力と精神力、そして芯の強さを問われる、苛烈な戦いの連続だった。

初戦の北斗盃では、交流重賞・ブルーバードカップ3着の実績を持つウィルオレオールが立ちはだかった。照準をただ一頭に絞り、早めに仕掛け、相手を磨り潰すような競馬を展開。だが相手も易々とは譲らない、二度、三度と前に出る相手に食らいつき、激しい競り合いの末、執念でライバルをねじ伏せた。

続く北海優駿では、逸る気持ちを宥めるうちにポジションを落とし、馬群に包まれる厳しい展開に追い込まれる。

二冠達成を阻むべく、ライバルたち徹底した包囲網も敷いた。それでも小野騎手が僅かな活路を最内に求めると、ソルジャーフィルドは瞬時に反応。砂煙を巻き上げて鮮やかに突き抜けた。

そして三冠最終戦、王冠賞。4角でステッキが入ると一気に加速し、まくるように先頭に並びかける。粘るバリウィールを競り落とし、大外から追い込むジェーケーボンバーを振り切り、北の王者の座を確かなものにする歓喜のゴールを駆け抜けた。

これら3戦に共通していたのは、ここ一番での研ぎ澄まされた集中力と、決して折れない精神の強さだった。「地元では負けられない」という静かな闘志が、彼を突き動かしているようにさえ思えた。

道営の頂点を極めたソルジャーフィルドにとって、ここからは更なる高みを目指す新たな戦いが始まる。北の大地で強さと成長を証明した馬が次のステップへと踏み出すことに、温かい眼差しを向けずにはいられない。

道営では現在、2つ年上の道営三冠馬ベルピットが絶対的な強さを見せ続けている。もしこの2頭が激突することがあれば、それはきっと、門別に新たな伝説を刻む一戦になるだろう。

同世代のライバルも多士済々だ。他地区では、各地の世代トップが力をつけ、3歳ダート戦線に殴り込みをかける日を虎視眈々と狙っている。JRAにはかつて彼を打ち破ったナチュラルライズが君臨し、春は世界に挑んだルクソールカフェやアドマイヤデイトナといった強豪も待ち構えている。

彼の成長を間近で見守ってきた川島調教師は、ソルジャーフィルドの三冠挑戦の中で、「自分自身との戦い」と語った。それは誰よりも馬の能力を信じる者としての、揺るぎない覚悟に思えた。そして、「もっとこの馬と高みを目指したい」と語る小野騎手の言葉からは、相棒への深い信頼と、共に歩む未来への熱い決意が滲み出る。

ソルジャーフィルドの次の歩みがどこに向かうのか、その道筋はまだ見えない。しかしファンとしては、ぜひともより高いフィールドで、己の力を試して欲しいと願ってやまない。地方から中央の強豪に挑む、ひとつの可能性。そんな地方競馬の夢とロマンを、ソルジャーフィルドに託したい。

彼の蹄音は北の大地から、未来への期待を乗せて響き渡る。その挑戦の先に、どんな景色が待っているのだろうか。故郷で力を磨き、一戦ごとに強さと厚みを増した道営の戦士が次なる戦いに赴く瞬間、その勇気ある一歩を心から応援したい。

写真:@gomashiophoto

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