新書『トウカイテイオー伝説 日本競馬の常識を覆した不屈の帝王』を読んで。

 1993年に起こった出来事を、ネットで調べてみました。

 30年後の現代にもつながる最も大きなこの年の出来事として、海外では、EUの発足。国内では、皇太子殿下(今上天皇)のご成婚があげられるでしょうか。

 私事ですが、筆者は、ちょうど社会人になった年でした。

 おそらく、この書を手に取る多くの方々は、1993年の有馬記念の時点では小学生以下で、競馬など観たこともなかった方々ではないでしょうか。

 以前、竹園和馬君をゲストにお迎えした動画において、テイエムオペラオーの書籍(同じ星海社新書より刊行)をご紹介させていただきました、その時、私はアシスタント神愛莉さんに対して「あなたが将来大女優になって、引退後20年して写真集が発売されるようなものですよ」という例えをしました。テイエムオペラオーは引退後約20年ですから、ウマ娘に端を発した令和の「名馬ブーム」において、その現役時代をうっすらとでも記憶している方は多いと思うのです。だから、まだ需要があるのもわかります。しかし、テイオーとなるとさらにその10年前です。昨今の「名馬ブーム」を支えている多くの若い競馬ファンの皆様にとって、ドライな言い方をすれば「アーカイブの中の存在の一つ」でしかない(はずな)のです。

 月日は流れ、我が国も世界も幾度も激動を乗り越えていくなかで、人の記憶も確実に塗り替えられていきます。そんな2023年に、現役最後のレースから30年も経過した馬、さらに言えば没後10年も経過した馬についての書籍が出るのです。

本日(2023年6月20日)、星海社新書より「トウカイテイオー伝説 日本競馬の常識を覆した不屈の帝王」が出版されました。

 競馬パーソナリティーとして長きにわたりご活躍中の鈴木淑子さんのインタビューや、Rounders編集長の治郎丸さん、競馬ブックの和田記者など高名なライターさんが名を連ねるこの書籍において、クワイトファイン号、そして不肖わたくしめも、取り上げていただいております。しかも、文章の流れでサラっと触れられているのではなく、目次に「がんばれ!クワイトファイン」と見出しまで立てていただいたうえに、4Pも割いていただきました。

 そして、まあある意味仕方ないことなのですが、ほとんどのライターさんが、「当時のトウカイテイオー」について書いていらっしゃいます。もちろん、リアルタイムで観ていない多くの若い競馬ファンの皆様にとって、貴重なエピソードばかりだと思います。ぜひ熟読し、トウカイテイオーという馬の戦歴を、彼を支え続けた人々のエピソードを心に刻みつけていただければと思います。

 一方で「トウカイテイオーがなぜ種牡馬として大成功を収めることが出来なかったのか」について、治郎丸さんが興味深いことを書いていらっしゃいます。以下、一部抜粋します。

それにしても、トウカイテイオーの血がここまでつながらなかったのは不思議である。(中略)繋をはじめとした関節部分の柔らかさと強さは産駒たちに伝わり難いものなのだろう。馬体のサイズや骨格、筋肉の質や量は遺伝しやすいのに対し、部品と部品をつなぎ合わせて動かす動的な部分は繊細なのである。

本書 123ページより引用

 興味深い考察であることは確かです。

 そして、おそらくはそういった特性を何パーセントかでも受け継いだ馬はいたのかもしれませんが、気性だったり、健康面だったり、何らかの理由で中央競馬の厳しい選別のシステムで生き残ることが出来なかった馬たちも多かったと推測します。一方で、スターダムに乗りかけた馬たちもことごとく不運に襲われるのもテイオー産駒の特徴のひとつ。初年度産駒で皐月賞3着チタニックオー、道営から中央に殴り込み3歳時にアルゼンチン共和国杯2着と健闘し将来が期待されたナチュラルナイン、そしてナチュラルナインと同期で、3戦3勝で日本ダービーに駒を進めたマイネルソロモン・・・このうち1頭でも順調に競走生活を送り、G1戦線で活躍していれば、テイオーにとってまた違った運命が待っていたと思います。そして、私のような小物が世に出ることもなかったでしょう。自虐ではなく、それが正しい姿なのです。そして、シンボリルドルフの和田共弘オーナーが引退式で「ルドルフの血を100年残したい」とおっしゃられたように、私のような小物ではなく、本来もっとしかるべき人がテイオーの血の「将来」を語って欲しかった。それは、トウカイテイオーファンの総意ではないかと思うのです。

 クワイトファインの箇所は、P196~199、見開き計4Pです。読みやすく簡潔にまとめていただいています。もちろん、これが言いたいことのすべてではありませんが、それは今後も当コラムとYouTubeで補うことが出来ますので、「クワイトファイン」の存在をより多くの人に知っていただき、この活動を大きなうねりにしていく一つの契機として、本書を多くの競馬ファンの皆様に手に取っていただけたらと思います。

 最後に、治郎丸さんの執筆箇所、先ほど引用した本書P123は、以下のコメントで締めくくられています。

いつかトウカイテイオーに恩返しをしたいと思ってやってきたが、私にできるのはこうして語ることであり、トウカイテイオーらしさが伝わった馬体の馬が登場することを最後まであきらめずに待つことぐらいか。

 治郎丸さんの期待に応えられるよう、頑張ります。父系でなければ受け継がれないものがきっとあるはずです。

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