川田将雅騎手は今年JRAリーディング成績141勝で2位。重賞勝利数はチャンピオンズカップの前では首位クリストフ・ルメール騎手と同数の14勝。ところが、GⅠでは1番人気は6回、2番人気は4回とリーディング上位騎手らしく主役級に多く乗りながら、結果は2着5回、3着4回でGⅠ勝利はゼロ。いかにも歯がゆい。それは昨年秋のキセキなど絶えず勝ちに行く競馬を仕掛け、誰よりも勝利に貪欲な姿勢を見せる本人がもっとも感じているはずだ。

共同会見で笑ったか笑わないかで騒ぎになるほどGⅠの顔となった川田将雅騎手。このレースでコンビを組むのは、5戦無敗の3歳馬クリソベリルだ。川田将雅騎手はクリソベリルを導き、クリソベリルが川田将雅騎手にGⅠをプレゼントした。第20回チャンピオンズカップでのこのコンビの走りはまさに乾坤一擲、美しいまでに勝つべくして勝ったレースだった。

ダート界の猛者16頭、GⅠタイトルホルダー7頭が揃うなか、1番人気は2年前の勝ち馬ゴールドドリーム。6歳ながら今年もここまでGⅠのみに出走して②①③着という砂の王者だ。以下、フェブラリーS勝ち馬インティ、帝王賞馬のオメガパフューム、JBCクラシック馬チュウワウィザードと大一番らしいチャンピオンクラスが並ぶ。

一斉のスタートから注文どおりインティがハナをうかがう。みやこSではハナに立てず、強引にハナを奪った組の超ハイペースに巻き込まれた同馬だが、今回は周囲に競りかけるような馬はおらず、すんなりと先手を奪った。

その背後のインにチュウワウィザードが入らんとしたところに、隣にいたクリソベリルが仕掛けながら並びかけ、前に出てそのポジションを奪った。これまでは外の3番手が多かった同馬を川田将雅騎手は意図的に最内に入れていった点は見逃せない。

インティのマイペースを読んだゴールドドリームは前年までとは打って変わって先行策。こちらは外から4番手を奪ってみせる。これらの流れからもインティを目標にする意図をどの騎手も多く持っていたようで、先行集団は大きな塊となった。テーオーエナジー、ロンドンタウン、サトノティターン、ワイドファラオ、オメガパフュームら、前に意識を持ってレースを進める。

インティは12秒0もしくは12秒1とマイペースであれば武豊騎手らしい精密なラップを刻みながら進み、1000m通過は60秒8という絶妙な流れ。これならばインティはみやこSのような大バテはしない。それを察知、反応したのがクリソベリルとゴールドドリームだった。勝負どころで離される前に早めに外からインティに並んだのがゴールドドリーム。一方、インティは下がらないから進路が必ずできると最内にこだわったのがクリソベリルだった。

最後の直線、突き放しにかかるインティとそれに呼応して並びかけるゴールドドリームの叩き合いが坂下から激しくなる。その背後でじわじわとギアをあげてトップギアに入れるのを待っていたのがクリソベリルだ。この3頭に進路を消されたチュウワウィザードは最内から外に進路を切り替えながら追撃態勢を整える。

坂をあがった残り200m。インティをゴールドドリームがやっと競り落としたそのときだった。最後にトップギアに入ったクリソベリルが2頭の間を猛然と追いあげ、一気にゴールドドリームを捕らえ先頭に立ち、ゴール板を駆け抜けた。残り200mの大逆転。あっという間に現チャンピオンを2頭を飲み込んだクリソベリルの末脚は新たな時代の到来を告げるものだった。勝ち時計1分48秒5(良)。

各馬短評

1着クリソベリル(2番人気)

スタート直後、内にチュウワウィザードがいる状況でその並びのまま外目に出していくのか思いきや、あえて前に出して、チュウワウィザードが取りたかったインの3番手を奪った。そして、最後の直線では外には出さず、インティの真後ろから追撃を図った。このふたつには共通した川田将雅騎手の確信があった。それはマイペースのインティは簡単には止まらないというもの。下がる心配がない強い逃げ馬の直後ほど安心できるポジションはない。インティの力を利用して十分に末脚を溜め、最後までギアを徐々にあげ、残り200mでエンジン全開、末脚を削りだした。ただ1頭、ゴールまで加速し続けられたからこそ、ゴール前でゴールドドリームを脚色で圧倒できた。

2着ゴールドドリーム(1番人気)

インティのマイペースに呼応した先行策は大正解。ただし、こちらは1番人気の王者であり、インティを逃すまい、進路を他馬に消されまいと早めに外から追撃した分、最後の最後で脚色が鈍ってしまった。クリソベリルには屈したが、目標に定めたインティはきっちり競り落とし、後続に影をも踏ませなかった。王者としての力は十分に示した。

3着インティ(3番人気)

リズムを崩したみやこSから見事に巻き返した。武豊騎手らしい精緻なラップを構成、差し馬をすべて不発に追い込んだのはさすがのひとこと。競りかければつぶれることをみやこSで印象づけたことが好走の要因でもあり、逃げ馬、自力でレースを作る馬の強みを活かしたレースだった。

総評

ゴール後、スタンド前に凱旋したクリソベリルの背にいた川田将雅騎手は派手なガッツボーズはなく、軽くヘルメットのつばに手を沿え、おじぎのような仕草で声援に応え、引き上げていった。笑わない共同記者会見もそうだが、パフォーマンスをしない、つねに等身大で臨む姿勢はちょっと古めかしい日本人のようだ。ダート中距離戦で先行させれば必ず最後まで脚を使いきり、粘らせる信頼性が高い騎手でもある。いつも騎乗馬の脚をすべて使いきるような騎乗姿勢があるからこそ、今回のクリソベリルの強さがあった。クリソベリルとゴールドドリームの最後の600mは同じ35秒4。同じ速さの脚を使ったわけだが、ゴールドドリームが残り400~200mで最速だったのに対し、クリソベリルはゴール前200mが速かった。川田将雅騎手のレースプランがより完璧だったということだ。

この日も馬体重+10キロとまだ成長途上にあるクリソベリル。ダート界は息が長く、成長曲線もまだまだこれから。未完成の新王者、今後の上昇が世界レベルに達する日はそう遠くはないはずだ。

写真:Horse Memorys

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