京王杯SCとは不思議なレースだ。安田記念の最有力ステップレースでありながら2000年以降このレースを経由して安田記念を勝ったのはたった4頭(01年ブラックホーク、05年アサクサデンエン、12年ストロングリターン、17年サトノアラジン)。
そして、その馬たちの京王杯における着順は3、1、4、9着。
京王杯SC→安田記念を連勝したのは、05年アサクサデンエンのみ。

同じ東京コースが舞台なら、なぜなのか?
答えは春秋京王杯に共通する距離1400mにある。
スピードと緩急、総合力が問われるマイルに比べ、1400mはどこか展開に左右されるところがあるから不思議だ。
たった、200mの違いだというのに。

芝1400mが設定されている競馬場は東京、新潟、中京、京都、阪神といずれもコーナー2回のシンプルなレイアウトという共通点がある。それゆえにペースが定まらない。

スローペース、ゆったりとした流れであれば力があるスプリンターのスピード能力が勝り、ハイペースとなるとスタミナが問われ、スプリンターは苦しくなり、マイル寄りの適性をもつ馬が強い。ざっくりといえばそんなところだ。スピードに勝るスプリンターが1400mをこなすにはいかにそのスピードを前半でセーブできるかがカギとなる。でないと結果的ハイペースを誘発することになり、マイラーの台頭を許す。それが1400mの特徴だ。

このレースを制したのはスプリント重賞常連のダノンスマッシュ、2着はマイルGⅠタイトルホルダーのステルヴィオ。まさに展開がマイラーよりスプリンターに向いた結果といえよう。

ダノンスマッシュに乗るダミアン・レーン騎手は豪州のジョッキー。
昨年はメールドグラースで母国GⅠコーフィールドC、リスグラシューでコックスプレートを制した。豪州競馬はメールドグラースが参戦したメルボルンCが24頭立てだったことに象徴されるように多頭数競馬が特徴の国。行くか下げるか、中途半端は命取りとなる。日本のように一旦は好位の馬群に収まるという作戦はすなわち密集、渋滞を意味する国だ。

だからこそ外枠から内側の様子を伺いながら、行きたい馬がいないと見るや迷わずハナへダノンスマッシュを導いた。ただし、相手は前半600m32秒台のスプリントGⅠを走っていた快速馬。
前に馬を置かなければオーバーペースになる可能性がある。

スタート直後からハナに行きながらも鐙と手綱によるコントロールを試みるレーン騎手。
歴戦のスプリンターは鞍上の指示に対し冷静だった。前半600mは35秒2。その後3、4角通過の800m通過までの1ハロンは11秒5とペースダウンまで。となるとダノンスマッシュは1400mでも簡単には止まらない。
それを察知したのが2着ステルヴィオと3着グルーヴィットに乗る川田将雅騎手、ミルコ・デムーロ両騎手である。外から4角でダノンスマッシュをターゲットに進出したステルヴィオ、終始インコースを追走、ダノンスマッシュの背後を脅かしていた2頭のみが直線で逃げるダノンスマッシュに迫ることができた。

最後の600mは10秒9-10秒9-11秒3では、それより後ろにいた組は抵抗しようがなかった。勝ち時計1分19秒8(稍重)

各馬短評

1着ダノンスマッシュ(2番人気)

道悪の高松宮記念大敗後の一戦。
雨が降り続く稍重馬場に不安があったものの、結果的にはスピードが適度に削がれるような馬場だったことでかえって1400mをこなすことができた。とにかくハナに行き、ペースを落としたところで勝負あった。スローで距離適性が求められないレースに持ち込むこと、スプリンターが1400mをこなす条件すべてがそろった。それだけに更なる距離延長は疑問だが、このあとは安田記念に向かわずに秋に備えるとのこと。
リズムを乱した春をここで清算したことは大きかった。

2着ステルヴィオ(4番人気)

3歳秋にマイルチャンピオンシップを勝った天才マイラーも4歳春に勝てず、秋は順調さを欠き、休養、5歳春はスプリント路線に挑戦、結果が出なかった。そんな昨年の安田記念はインディチャンプとは0秒4差。毎日王冠2着など東京1800m以下では大きく崩れない。やはり東京コースは合う馬であることを1400m戦で再確認。こちらは安田記念で大きく前進する可能性を感じさせた。

3着グルーヴィット(3番人気)

稍重の中京記念勝ちがあり、同じ稍重に馬場が悪化したことでチャンスがあった印象。枠を利用しつつ終始イン、ダノンスマッシュの背後という最高の位置取りだった。レーン騎手が内側を開けたことも進路取りで利があっただけに勝ちかった。上位2頭とは地力で劣るものの夏のサマーシリーズならば可能性は十分あるだろう。

総評

結果的に1~3着はロードカナロア産駒が独占した。キングカメハメハ系らしく時計が出るスピード色に特化したコースには滅法強い。
自身はスプリント王だが、個人的にもっとも強かったと感じたのは安田記念であり、その距離適性には幅があるにちがいない。代表産駒アーモンドアイのように2400mもこなす馬は多くはないかもしれないが、もはやマイルから2000mは守備範囲。
京王杯SC経由は距離延長になる安田記念では不振だが、ロードカナロア産駒であればその不利を跳ねのける馬が出てくるだろう。

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