2021年も中京競馬場での開催となった神戸新聞杯は、3着までに菊花賞への優先出走権が与えられる。
最大の見所は、ダービー馬が秋初戦をどのようにクリアするのかという点ではあるものの、ダービー馬がここから菊花賞への「王道」を歩むことは、近年それほど多くない。昨年のコントレイルの前は、2014年のワンアンドオンリーまで遡り、その前は11年のオルフェーヴルで、10年間で3頭のみ。ダービー後は、欧州に遠征したり、神戸新聞杯から天皇賞秋やジャパンカップに向かったりと、その馬の適性に合うレースに出走することが増えてきた。
2021年の出走頭数は10頭。4頭が単勝オッズ10倍を切る中、やや抜けた1番人気に推されたのが、ダービー馬のシャフリヤール。昨年10月の新馬戦を快勝後、共同通信杯3着から出走した毎日杯を、JRAレコードタイで優勝する衝撃の内容。さらにそこからダービーに直行すると、皐月賞馬のエフフォーリアを内から際どく差し切り、レースレコードで見事世代の頂点に立った。次走未定ではあるものの、ここはダービー馬として負けられない一戦。大きな期待を集めていた。
2番人気はステラヴェローチェ。2戦目のサウジアラビアロイヤルCで初重賞制覇を飾ると、続く朝日杯フューチュリティステークスも2着に好走した。今年初戦の共同通信杯は5着に敗れたものの、皐月賞とダービーは連続3着。実力は、間違いなく世代トップクラスで、成長力でシャフリヤールを上回れるか、こちらも注目を集めた。
3番人気に続いたのは、皐月賞馬のエポカドーロを半兄に持つキングストンボーイ。青葉賞で2着に入りダービーの出走権を確保したものの、その後、無理をさせず休養に入り、今回はそれ以来の実戦。管理する藤澤調教師は、来年2月で定年。ここで好結果を残し、なおかつ体調も整えば、最後のクラシックに臨めるかという点で注目を集めた。
そして、4番人気となったのがワンダフルタウン。新馬戦で、後にGIを勝つダノンキッドに敗れたものの、続く未勝利戦をレコードで勝利。さらに、萩ステークス3着を挟んで、京都2歳ステークスと休み明けの青葉賞を連勝した。ダービーは10着に敗れたものの、父ルーラーシップに母の父ディープインパクトという血統は、17年の菊花賞馬キセキと同じ。最後の一冠を目指し、ここはなんとしても好走したいところだった。
レース概況
当日は朝から雨が降り続き、早朝の良馬場からメインレースの頃には不良馬場へと悪化。
これが、結果を大きく左右した。
10頭きれいに揃ったスタートからモンテディオが飛び出すも、外から押してテイエムタツマキが先頭へ。3番手は、イクスプロージョンとシゲルソウサイが併走。中団以降は、シャフリヤール、ワンダフルタウン、キングストンボーイ、レッドジェネシス、ステラヴェローチェの順で、それぞれが半馬身から1馬身差で続き、2馬身離れた最後方をセファーラジエルが追走した。
最初の1000mは1分3秒8と、馬場を考慮してもスローな流れ。先頭から最後方までは、10馬身ちょっとの差で、やや縦長の隊列。1000mを通過してから少しペースは上がったものの、12秒台中盤から後半のさほど早くないラップが連続。本当の意味でペースが上がったのは、残り600mの標識を通過する直前からだった。
後続が差を詰めたことで馬群はやや固まり、4コーナーで、モンテディオが先頭に立とうとする一方で、ワンダフルタウンは早くも鞭が飛び、あまり手応えが良くない。その他では、レッドジェネシスが内に進路を取り、シャフリヤールは依然中団。そして、ステラヴェローチェも後方2番手のまま、レースは最後の直線を迎えた。
直線に入ると、モンテディオが半馬身のリードを取って坂を駆け上がる。2番手は、セファーラジエル以外の8頭がずらっと横に広がり、その中で、内から2頭目を伸びたレッドジェネシスがモンテディオに並びかける。さらに、馬群を捌いてきたステラヴェローチェが2頭の間を割り、一気に先頭争いへ。一方、外に進路を取ったシャフリヤールとキングストンボーイは伸び脚が鈍く、先団争いに加われそうにない。
その後、残り100mを切ったところでモンテディオが脱落。前はレッドジェネシスとステラヴェローチェに絞られ、最後グイッと前に出たステラヴェローチェが1着でゴールイン。半馬身差の2着にレッドジェネシスが入り、3馬身差の3着がモンテディオで、これら3頭が菊花賞への優先出走権を獲得した。
不良馬場の勝ちタイムは2分18秒0。ほぼ1年ぶりに勝利を手にしたステラヴェローチェが、最後の一冠へ向けて好発進を決めた。
各馬短評
1着 ステラヴェローチェ
今回は馬場が向いたとレース後にコメントしたのは、騎乗した吉田隼人騎手。もちろんそれもあったが、渋った馬場やその真逆の高速馬場、そして、小回りでも外回りでも、どんな競馬でも安定して力を発揮するところが、この馬の最大の武器。さらに今回は、バテても根性で伸びて差し切るという、ヨーロッパ血統らしい強さも見せた。
バゴ産駒でノーザンファームの生産馬といえば、今週凱旋門賞に出走するクロノジェネシス。彼女も、夏を越えぶっつけで挑んだ秋華賞で優勝し、その後グランプリを3連覇した。
バゴ産駒にとって、3000mという距離がベストとは思わないものの、2010年にビッグウィークが菊花賞を制した実績がある。菊花賞の有力候補になったことは間違いなく、クロノジェネシスと同じ成長曲線を描ければ、本番も十分に期待できる。
2着 レッドジェネシス
2走前の京都新聞杯と同じ舞台で再び好走を果たした。父ディープインパクトに母の父ストームキャットという泣く子も黙る黄金配合で、周知のとおり、この配合からはGI馬が続々誕生している。
ただ、レッドジェネシス自身は、おそらく上がりのかかるレースや、非根幹距離で強さを発揮するタイプ。これまで4着以下に敗れたレースは3レース。そのうち2レースは33秒台の脚を使って敗れ、3着以内に好走した6レース中5レースは、自身は35秒台の脚を使っていた。
黄金配合を持つノーザンファームの生産馬で、切れ味勝負よりも持久力勝負に強い馬が、少数ながら存在するという点が、血統の奥深さというか、面白い点ではないだろうか。
3着 モンテディオ
スローペースを2番手から抜け出し、ダービー馬の追撃も抑え、しぶとく菊花賞の優先出走権を獲得した。
過去20年、神戸新聞杯と菊花賞を連勝した馬は6頭。それに対し、神戸新聞杯3着から本番を制した馬も5頭いることは見逃せない。今回の好走は、展開や馬場に恵まれた点もあるが、今年の菊花賞は大混戦になりそうで、完全にノーマークというわけにはいかないだろう。
レース総評
タイトルホルダーなど、複数の有力馬が直線で大きな不利を受けたセントライト記念。そして、馬場の悪化が結果を大きく左右し、ダービー馬がよもやの4着に敗れた神戸新聞杯。2つの前哨戦ともに不測の事態が起きたとはいえ、菊花賞戦線は、より混迷の度を深めてきた。
過去5年で、ディープインパクト産駒は菊花賞を4勝。その中ではシャフリヤールが有力かもしれないが、今回敗れたダメージが心配なことと、中3週のローテーションがどうも気になる。次走はジャパンカップが良さそうだが、果たしてどうなるだろうか。
ところで、「最も速い馬が勝つ」のが皐月賞、「最も運のいい馬が勝つ」のがダービー。そして、「最も強い馬が勝つ」のが菊花賞という格言がある。
皐月賞とダービーで連続して3着に好走したステラヴェローチェは、シャフリヤール、エフフォーリアに続き、春の時点では3番手の存在。しかし、今回の勝利で、菊の大輪に最も近い存在となった。
同じ父を持つクロノジェネシスのように、3歳の夏を越えて進化と成長力を手にしていれば、「最も強い馬」として、最後の一冠を手にする可能性は十分。そうなれば、その後の有馬記念でも十分に本命候補となり得るのではないだろうか。
写真:俺ん家゛