[連載・馬主は語る]馬主が頭を下げる時代!?(シーズン1-16)

水沢競馬場に着くと雨はすっかりやんでいました。1日ずらして今日にして良かったと思いつつも、さすがに風が強く、肌寒いを通り越して寒いです。地元の人たちにとって、これぐらいは寒いに入らないそうですが、薄手のジャケットを羽織ってきて良かったです。

競馬場の門から、永田調教師に電話をすると、入口横にある管理所に入ってきてくださいとのこと。そこで初めて永田調教師にお会いしました。第5レースに出走馬がいるため、志村さんは来られませんでしたが、応接室のような場所で永田調教師とお話することができました。地方競馬の馬主資格の申請中であること、僕もオーストラリアの競馬学校に行こうと考えていたことなど、初対面にもかかわらず、同世代の永田調教師とは話が尽きそうもありません。昨日の最終レースでアナト号が優勝し、3月に開業して1か月ほどは勝ち星に恵まれなかったけれど、ひとつ勝てるとポンポンと続いて、昨日で3勝目になりますと嬉しそう。

今はどこの競馬場も馬房が足りない状況があり、開業したての厩舎であるにもかかわらず、ありがたいことに預託の打診が数多くあるとも話してくれました。今年は初年度なので10馬房からスタートし、来年は15馬房と増えますが、その先は23馬房が上限だということです。40馬房まで預かることのできた時代もありましたが、今は制限があるそうです。

僕がいずれは永田厩舎に預かってもらいたい旨を伝えると、もちろんそうさせてもらいたい気持ちはあるし、志村さんはぜひそうしましょうと言うだろうけど、全ては馬房の空き状況のタイミング次第ですと丁重に返されました。

それはそうですよね。他の馬主さんの馬を押しのけて僕の馬を入れるわけにもいかないし、少しでも馬房を効率良く回すためには、僕の馬が入ってくるのを待っているわけにもいかないのは、経営者としては当然の判断です。「いくつか預託厩舎の候補を抱えた上で馬を買われた方が良いですよ」と永田調教師はアドバイスしてくれました。

これらの話を聞いて、新米馬主にとって、馬選びだけではなく、厩舎もタイミングだと思うようになりました。どこの厩舎に預かってもらうと決め打ちするのは難しいため、いくつか候補を抱えつつ、入れてもらえそうな厩舎にお願いするということです。ぜひお願いしますと頭を下げられるのではなく、むしろ馬主が預かってくださいと頭を下げる時代なのです。永田調教師と話す前は、どこの競馬場のどこの厩舎に預託しようかと迷っていましたが、その時、たまたま馬房が空いていた厩舎にお願いすることができればラッキーというのが現状なのですね。見通しは決して明るくありませんが、現実が知れただけでも良かったとしましょう。

第5レースが近づいてきたので、ここで永田調教師とは別れました。パドックで待っていると、7番ルドヴィコを引いた志村さんが入場してきました。正面に立っていた僕に気づいて、目で挨拶をしてくれました。マスクをしてヘルメットを被っているにもかかわらず、人間の目ってすごいですね。テレパシーのように伝わってくるものがありました。僕たちはパドック越しに初対面を果たしたのです。「夢色グラスチャンネル」でへべれけになって話していた酔っ払いの姿を想像していましたが(笑)、初めて生で観た志村さんはやはりホースマンでした。

永田厩舎のルドヴィコは父トーセンラーでノーザンファームの生産馬という芝でこその馬だそうです。馬体も筋骨隆々のダート馬のそれではなく、あまり大きく見せないタイプ。パドックではあまり感情を表に出さず歩いていました。この日は前日から雨が降った影響で馬場が不良になっていましたので、脚抜きが良く、もしかすると芝向きのルドヴィコにとって一発あるかもしれないと期待して単勝を買いました。結果は3着でしたが、最終コーナーでは手応え良く上がってきて、勝ったと思わせる瞬間がありました。盛岡競馬場に舞台を移し、芝のレースで走ることができたら楽しみです。岩手競馬の2つの競馬場(水沢と盛岡)は、右回りと左回りがあり、ダートと芝のレースがあるように、それぞれに合った条件のレースを選択できるところも良いですね。ある条件では強かった馬が、舞台が変わると弱くなるというように、馬券的にも面白いですし、関係者にとっては自分の馬に合った水を探すこともできるはずです。

今回の現地調査における収穫は知り合いと会えたことです。知り合いと言っても、ツイッター上で何度かやり取りをさせてもらった程度でしたが、たまたま僕がこの日、水沢競馬場に来ることを知って、自転車で会いに来てくれました。地元の競馬ファンだけあって、岩手競馬についてはかなり詳しく、手取り足取り教えてもらい、まるでガイドさんに付いてもらっている気分でした。村上忍騎手や阿部英俊騎手といったベテランジョッキーのこと、山本政聡騎手と聡哉騎手が兄弟ジョッキーであること、岩本怜騎手は若手の売り出し中のジョッキーであること、女性騎手である関本玲花騎手とは怜と玲で字が違うこと。岩手の雄メイセイオペラのこと、特に馬場が湿ると内から5頭分のコースを通った馬が伸びること、最近、売り上げが増えていることに伴い賞金も少しずつ上がっていること、それでも主催者は認知度を高めるためにもっと何かできることがあるのではないか、などなど。

おかげで岩手競馬の歴史やジョッキーたちについての輪郭が少しずつ見えてきた気がします。おすすめしてもらった水沢食堂のもつ煮定食を素直に食べてみたところ、お腹が空いていたのもあるかもしれませんが、本当に美味しかったです。友人がいて、美味しい食べ物があることは、またその場所に行ってみたいと思う強い動機になりますね。

帰りの新幹線の中で、ふと馬主席を実際に見てみ忘れたことを思い出しました。まあ大した問題ではないから忘れたのでしょうし、永田調教師や志村さん、そして地元の競馬ファンの友人に会えて、それだけで満足でした。水沢競馬場は昭和の香りが十分に残っていて、僕が地方競馬に足しげく通っていた頃にタイムスリップしたような懐かしい感覚に陥りました。タイミングが合えば岩手に預かってもらうのも悪くないなと素直に思いつつ、僕は浅い眠りに落ちたのでした。

(次回に続く→)

あなたにおすすめの記事