72回目を迎えた、伝統の重賞チャレンジカップ。このレースを勝利した後、チャレンジャーからチャンピオン=GIウイナーに上り詰めた馬は多数いる。昭和の時代には、ナスノコトブキ、タニノチカラ、ヒカリデュール、ニホンピロウイナーなどが、後に旧八大競走やGIを制覇。平成に入っても、マーベラスサンデー、タップダンスシチー、スズカマンボなどが、GI馬となった。
元号が令和に変わってもその流れは続き、2020年の勝ち馬レイパパレは、その後、5ヶ月の休養を挟んで大阪杯を無敗で勝利。しかも、破った相手は、現役牡・牝馬の最強クラスともいえる、コントレイルとグランアレグリア。そのため、2021年の勝ち馬にも、近い将来、大舞台で活躍することが期待された。
上位人気に推されたのは3歳馬2頭で、中でもソーヴァリアントが単勝2倍を切る1番人気となった。弥生賞4着の後、3ヶ月の休養を挟み、北海道の条件戦を2戦していずれも楽勝。前走のセントライト記念でも、勝ったアサマノイタズラからクビ差の2着と好走した。その後、筋肉疲労が抜けきらず菊花賞を回避し、今回は2ヶ月半の休み明け。古馬混合の重賞は初出走となるものの、大きな期待がかかっていた。
2番人気は、牝馬のジェラルディーナ。父モーリスに母ジェンティルドンナという現役屈指の良血馬は、ここまで条件戦を3連勝中。レイパパレと同様、2年連続で3歳牝馬の大物が誕生するか、注目を集めていた。
3番人気は、5歳牡馬のマイネルウィルトス。今春、オープン昇級初戦の福島民報杯で大差勝ちを収め、注目を集めることとなった。その後、函館記念と札幌記念は8、4着と敗れたものの、前走のアルゼンチン共和国杯は2着に好走。念願の重賞制覇を目指しての出走だった。
4番人気は、4歳牡馬のヒートオンビート。こちらも、父はキングカメハメハで、母が桜花賞馬のマルセリーナという良血。2走前の目黒記念2着まで、4戦連続連対と安定していたものの、前走の京都大賞典は大外枠に泣き8着。今回は、それ以来2ヶ月ぶりの実戦で、この馬もまた重賞初制覇が懸かっていた。
レース概況
全馬ほぼ揃ったスタートから、ダッシュが速かったのはマイネルフラップ。外から、8枠の2頭、モズナガレボシとソーヴァリアントが続いた。
その後、ソーヴァリアントがマイネルフラップに体半分のところまで迫り、1~2コーナーに進入。3番手は、カツジとモズナガレボシが並走し、以下、ヒートオンビート、ジェラルディーナ、ペルシアンナイト、スカーフェイス、マイネルウィルトスが1馬身間隔で追走。そこから2馬身差でアルジャンナ。さらに、3馬身離れた最後方にメイショウオーパスが控えていた。
前半1000m通過は1分2秒9で、超のつくスローペース。先頭から最後方までは、およそ12~3馬身の隊列だった。
前2頭がペースを上げたのは、3コーナー。後ろ9頭も離されないように差を詰め、4コーナーで全馬がほぼ一団。10馬身以内の差となって、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ると、すぐにソーヴァリアントが単独先頭に立ち、徐々に後続との差を開きにかかる。マイネルフラップに変わって2番手に上がったモズナガレボシに迫るのは、ヒートオンビート、マイネルウィルトス、ペルシアンナイトの3頭。しかし、そんな2番手争いを尻目に、坂下でさらに加速したソーヴァリアントが後続を突き放し、一気に勝負を決めてしまう。
最終的には、3馬身半の差をつけ1着でゴールイン。2着に同じ勝負服のヒートオンビートが続き、アタマ差の3着にペルシアンナイトが入った。
良馬場の勝ちタイムは、2分1秒0。ソーヴァリアントが完全勝利といえる内容で、重賞初制覇を達成した。
各馬短評
1着 ソーヴァリアント
超スローペースを2番手から追走し完勝。展開に恵まれたとはいえ、後続に差をつける楽な勝利だった。
多頭数や、古馬混合戦特有の厳しい流れとなったときに実力が発揮できるか。次走が、試金石となりそう。ただ、父オルフェーヴルに母の父シンボリクリスエスという血統構成は、ジャパンカップで2着したオーソリティ(同じくルメール騎手が騎乗)と同じ。むしろ、淀みない流れとなったほうが、さらなる強さを発揮する可能性もある。
前走のセントライト記念で先着したタイトルホルダーとオーソクレースは、続く菊花賞で1、2着。タイトルホルダーは、セントライト記念の直線で前が詰まって大敗したため、単純比較はできないが、同じくらいの実力を持っていても不思議ではない。タイトルホルダーが次走(有馬記念を予定)好走すれば、ソーヴァリアントにも、いっそうの注目が集まることとなる。
2着 ヒートオンビート
2着に押し上げるのが精一杯だったものの、GI馬で、2走前には札幌記念で好走しているペルシアンナイトには先着した。
前走は外枠に泣き、8着と少し崩れたものの、それ以外で掲示板を外したのは1度のみ。安定感がある反面、勝ち味に遅いところもあり、まずは重賞初制覇を決めたいところ。一度勝つと、連勝するポテンシャルは十分に秘めている。
3着 ペルシアンナイト
間もなく8歳を迎える古豪。3歳のマイルチャンピオンシップ以降、4年以上勝利がないものの、2000mのGⅡ以下では、今なお安定した走りを見せている。もう一花、咲かせることができるだろうか。
レース総評
前半の1000m通過が1分2秒9で、後半が58秒1。前後半で、実に5秒近い差があった。こうなると、逃げ馬の直後につけていたソーヴァリアントには持って来いの展開。直線難なく抜け出し、後続を突き放しての完勝だった。
ただ、瞬発力勝負よりは、おそらく持久力勝負が向くタイプ。それでも勝利したのは、持っている実力の高さからか。オルフェーヴル産駒でもともと注目度が高く、前走は勝ち馬に上手く乗られた部分もあったが、今回はその実力を十分に知らしめた。前述したとおり、次走どのレースに出走するか注目で、そこが試金石となりそう。
また、今年は母の父キングヘイローが話題となっているが、母の父シンボリクリスエスも重賞で大活躍。2021年に重賞を制した馬を挙げると、マジックキャッスル(愛知杯)、ランブリングアレー(中山牝馬S)、アルクトス(南部杯)、ソングライン(富士S。NHKマイルカップは2着)、オーソリティ(アルゼンチン共和国杯。ジャパンカップは2着)、アカイイト(エリザベス女王杯)、そしてソーヴァリアントと、特に10月以降の躍進が目立つ。
12月5日現在、ブルードメアサイヤーランキングでは、キングカメハメハ、ディープインパクトといった2大種牡馬に次ぐ、堂々の3位。アルクトスの他に、3歳馬のゴッドセレクションも、ジャパンダートダービーで2着に健闘するなど、ダートでも活躍馬を輩出している。
一方、ソーヴァリアントと同じ3歳馬で、2番人気に推されたジェラルディーナは4着。小倉で連勝しているものの、小回りで機動力を求められるレースよりは、外回りの長い直線で瞬発力を活かす競馬が向いているのだろうか。
父モーリスが本格化したのは4歳春。ジェラルディーナが本当の実力を発揮するのはこれからのはずで、今回の結果に悲観することは全くないといえる。
写真:俺ん家゛