未完の大器シャイニングレイ~多くの困難を乗り越えた復活劇~

ノーザンダンサーの血の一滴は1カラットのダイヤモンドより価値があると賞賛され、サンデーサイレンスの血は日本の競馬界を変えたと言われた。

サンデーサイレンスの血を引くディープインパクトはクラシック三冠を制覇し、ディープインパクトの子供は何度もダービーを制している。

競馬は血を繋ぐスポーツ。
ドゥラメンテ、リアルスティール、サトノクラウン……。
のちのGⅠ馬達たちを尻目に、2014年の秋、ディープインパクト産駒のシャイニングレイは京都のターフでデビューした。

オッズの上では、ルメール騎手が騎乗するクロイツェルと人気を分け合う形での2番人気。
しかし結果は、シャイニングレイの鞍上・川田騎手がムチを使うことなく、2着のクロイツェルを3馬身半突き放しての圧勝となった。
レースの内容も素晴らしく、最後2Fを10.8-10.8という新馬らしからぬラップでの勝利。
既存会員で満口にならなかった馬への期待が、否応なしにも高まるデビュー戦であった。

次走はエリカ賞かホープフルステークスのいずれかが有力であったが、弥生賞・皐月賞を意識させる一戦、中山GⅡ・ホープフルステークスへの参戦が決まった。

今でこそGⅠに格上げされているが、2013年までのホープフルSはオープン競走。
2014年にGⅡへと格上げされたものの、まだまだメンバーが揃いきらない中で、新馬戦を勝ったばかりのシャイニングレイは2番人気に支持されていた。

──重賞で好走した馬もいる中、シャイニングレイはどこまで通用するのか。

まだ有馬記念当日にホープフルSが開催されていた時代のことだ。有馬記念まで1時間と迫った中、ホープフルステークスがスタート。
そしてここでもシャイニングレイは好位でレースを進め、直線で抜け出しての完勝を収める。
有馬記念を今か今かと待つ観客の前で、堂々とクラシックへ名乗りを上げたのだ。

年明け初戦は、予定通り弥生賞への参戦。
重賞ウイナー7頭が名を連ねる中、シャイニングレイは単勝1.9倍の1番人気に支持された。
クラシック戦線を頭一つリードしているシャイニングレイの鞍上は、騎乗停止明けの川田騎手。ここを勝って騎乗停止の鬱憤(うっぷん)を晴らしたいところだったろう。

しかし、シャイニングレイの様子がいつもと違う。本馬場入場の際に鞍上を振り落とすなど、終始落ち着きを欠いた。
一抹の不安が過る中、弥生賞のゲートが開いた。
それでもレースが始まると前走までと同じく好位に付ける。いつもと変わらない競馬を展開するシャイニングレイに、ファンは直線で弾ける姿を期待した。

しかしいざ直線を向いてから……弾けない。
レース前の不安が的中する。

いつもの強気で押し切る競馬は身を潜め、最後まで伸びることなく7着大敗。
レース前には想像出来なかったような結果が待っていた。

──皐月の舞台で、汚名返上を。
関係者やファンは、強くそう願ったはずだ。

しかし、その祈りも届かずも叶わず、脚部不安で春のクラシックを見送ることとなった。

秋初戦は10月に行われるポートアイランドステークスから始動することとなったが、9月の半ば屈腱炎が判明し。
北島三郎さんの愛馬、キタサンブラックが菊花賞を勝ち世間を賑わしたその頃、シャイニングレイは長期休養を余儀なくされていた。

4歳は1戦も走ることなく休養し、復帰戦は1年半後の2017年3月11日。芝ではなく、ダートの仁川ステークスへの出走となった。
ダートでの復帰は、できるだけ脚部に負担をかけないようにとの陣営の配慮だろう。

シャイニングレイはこのレースで果敢にハナを切る。
ペースを落とすことができれば良かったのだが、道中折り合いを欠き6着に敗れた。

続く復帰2戦目は芝2000mの福島民報杯。
脚部の不安はほぼなくなったものの気性難は改善されず、ハイペースで逃げての大敗。
ホープフルステークスで他馬を寄せ付けなかった強さは、もうそこにはないように思えた。

「引退」の2文字が脳裏を過り始めるような戦績を前にしても、陣営は諦めなかった。
気性難を矯正するのではなく、距離を短縮して押し切らんとする競馬にシフト。600m距離を短縮し、芝1400mの安土城ステークスへの参戦を決めた。

折り合いを欠きハイペースで飛ばしても、1400mなら持つのではないか?
そんな不安と期待が入り混じる中、レースは始まった。

1枠1番のシャイニングレイはハナを切らず、道中3番手で折り合った。
──これは、もしかすると好走できるのではないか。
不安より期待が勝っていく。

最終コーナーを回り、直線で抜け出すシャイニングレイ。そのまま追い込み馬の追撃を危なげなく退け、2年5か月ぶりの勝利を飾った。

このレースは道中2番手を追走した14番人気のトウショウピストが2着に入り、4万円を超える大万馬券を演出した。
3着のティーハーフとシャイニングレイの馬券(馬連)を握りしめた筆者の思い出に残る一戦となった。

続く短距離2戦目は、GⅢCBC賞への参戦が決まった。前走が評価されたシャイニングレイは2番人気に支持される。

この日も中京競馬場は、内枠有利の前有利な馬場傾向にあった。短距離ならば、尚更である。
いつも果敢に前に行くシャイニングレイは、そのあたりも考慮されての2番人気だったのだろう。

良馬場発表ではあったがレース前から雨が降り始め、蒸し暑さが増すなか、CBC賞のゲートが開いた。
アクティブミノルがハナを切り、セカンドテーブルが2番手を確保する。
各馬が絶好のスタートを切る中、シャイニングレイはゲート内で伸びあがって出遅れてしまい16番手からの競馬を強いられた。

誰にも競りかけられず、マイペースの逃げを打つアクティブミノル。
そのすぐ後ろをセカンドテーブルが追走し、この2頭がレースを引っ張っていく。

最終コーナーを回り、内で逃げ切りを図るアクティブミノル。追うセカンドテーブル。
その2頭の一騎打ちを映し出すターフビジョンの左隅に、突如褐色の馬体が現れた。

北村騎手の振りかざすステッキに呼応し、一完歩、一完歩と差を詰める。
あっと言う間に他馬を飲み込み、次元の異なる脚色で上がってくる馬……シャイニングレイだ。

残り200mから猛烈に追い込み、アクティブミノルを交わす。先頭のセカンドテーブルと並んだところにゴールがあった。
脚色は完全にシャイニングレイが優勢だが、セカンドテーブルも粘り強く最後まで伸びていた。

ターフビジョンにゴール前のスロー再生が流し出される。

──わずかハナ差、シャイニングレイが先にゴールに飛び込んでいた。

ホープフルステークス以来となる重賞制覇を達成した瞬間であった。

クラシック候補に名を連ねた素質馬が短距離路線で完全復活……かと思われたが、またも脚部不安でスプリンターズステークスを回避。

なんとか立て直し年の暮れに行われた阪神カップに出走したが、大外枠が響いたのか殿(しんがり)負けを喫した。

年明けの初戦はGⅠ高松宮記念へ参戦。中京芝1200mは一度勝ったことのある舞台でもある。
内枠を引ければ……というファンの願いも空しく、ピンク帽の16番。
CBC賞で見せた末脚はこの日も見られず、「未完の大器」と呼ばれたシャイニングレイの競走馬生活は幕を閉じた。

2歳での重賞制覇。
脚部不安。
そして屈腱炎での長期休養。

GⅠのタイトルには縁がなかったが、そこからの復活劇は多くのファンを魅了した。

引退後はとある高校で、ミヤビランベリ・エイシンブルズアイらと共に、繋養馬として余生を過ごしているという。
今後さらに引退馬を受け入れてくれる施設が増えていくことを切に願いつつ、彼の余生が良いものである事を祈ろうと思う。

あなたにおすすめの記事