JRAでは宝塚記念が、NRAでは帝王賞が終わり、競馬の季節も春から夏へ移り替わりました。
夏競馬は大一番こそないものの、秋の飛躍を目指す馬たちが暑さに負けずレースを繰り広げます。
川崎競馬場1周の1600m戦で争われる牝馬限定の交流JpnIII戦、スパーキングレディーカップ。
Jpn1かしわ記念を勝利し、今回トップハンデの58キロを背負ったショウナンナデシコと「南関の女傑」サルサディオーネが3度目の対決となりました。
さらに交流重賞の常連レーヌブランシュやオープンクラスに上がって飛躍を目指すレディバグ、キムケンドリーム、大井競馬に移籍して新天地での活躍を目指すグランパラディーゾらが参戦し、10頭立てのレースに。
過酷な暑さは抜けましたが、夏らしい熱気の中でゲートが開きました。
レース概況
お決まりの好スタートを決めたサルサディオーネが森泰斗騎手の出鞭に応えて飛び出すと、大外枠からショウナンナデシコと吉田隼人騎手が最初のゴール番前で早くも2番手のポジションを確保。
1コーナー入り口でショウナンナデシコの外にキムケンドリーム、内には2番枠を活かしてグランパラディーゾ、真ん中にレーヌブランシュが続きます。
レディバグは前の5頭を無理に追わずに6番手、2馬身後方にアールロッソ、更に4馬身ほど後方にハピネスマインド、グレートコマンダー、クレールアドレの順で隊列が決まり、向こう正面へ。
サルサディオーネのリードは半馬身、その外にはショウナンナデシコがピッタリマークしてペースを引き締めます。
キムケンドリームがスピードについていけずに先行集団から脱落し、レーヌブランシュとグランパラディーゾの2頭はショウナンナデシコの1馬身後方から2頭を追いかけます。
キムケンドリームに代わって向こう正面入り口で仕掛けたアールロッソがインコースから勢いよく進出を始め、アールロッソの進出に併せてレディバグも前を追いかける構図に。
3コーナーで森泰斗騎手がサルサディオーネと共に逃げ切らんと鞭を入れますが、これを待ってショウナンナデシコにゴーサインが入ると、外から併せ馬で直線に入ります。
4コーナーで先行集団に追いついたレディバグとアールロッソが前にいるレーヌブランシュとグランパラディーゾを交わそうとします。
ここで先に外を回った戸崎騎手が前に抜け出しつつ、外に出そうとしたアールロッソと町田騎手を外に出させない絶妙なコントロールを見せ、前の2頭めがけてレディバグの末脚を繰り出します。
残り100m迄サルサディオーネとショウナンナデシコの一騎打ちが続きましたが、最後はショウナンナデシコが振り切り、レディバグの末脚もクビ差凌いで交流重賞4連勝を達成。
レディバグが2着に入った後方ではサルサディオーネが最後まで粘り通し、猛追してきたアールロッソに差されずに3着を確保。続いてアールロッソが4着、直線で差し切られたグランパラディーゾが5着と、ここまでが掲示板内でした。レーヌブランシュは距離が短かったか6着、序盤先行していたキムケンドリームは後続の3頭にも交わされ10着に敗れています。
各馬短評
1着 ショウナンナデシコ
前走かしわ記念でJpn1ウィナーになったショウナンナデシコ。この春シーズンの大躍進は、目を見張るものがあります。
父であるオルフェーヴルの産駒に、成長すると勢いに乗って勝ち続けるといった印象を持つファンは多いのではないでしょうか。ダート短距離で活躍するジャスティンから、芝3600mのステイヤーズステークスを制したオセアグレイトまで、距離・馬場関係なく活躍馬を輩出。2021年にBCディスタフを制したマルシュロレーヌもオルフェーヴル産駒でした。
ショウナンナデシコは昨年秋からこのレースまで、交流重賞を含めて8戦してパーフェクト連対。夏はこの一戦で終了し、秋に向けて英気を養うそうです。
1600~2100mまで距離はこなせる馬なので、秋はマイルチャンピオンシップ南部杯での始動となるでしょうか。
その後、JBCレディスクラシック制覇かあるいは更に大きな舞台か──。主戦・吉田隼人騎手との活躍に期待です。
2着 レディバグ
新馬戦を勝利して以降、2歳~3歳時はオープン戦で勝ち切れないながらも着を重ね、その後は条件戦を連勝してオープンクラス入りしたレディバグ。
交流重賞初挑戦のマリーンカップでは5着でしたが、年明けはJRAのオープン競走・栗東ステークスを勝利。今回は南関での経験豊富な戸崎騎手と2度目のコンビで、"2強"に挑戦しました。
レディバグの持ち味といえば、時に36秒台も出る鋭い決め脚でしょう。差し馬ゆえに展開に左右されることもありますが、無理に先行位置につけず、戸崎騎手は末脚勝負を選択。
脚をフルに使ったレディバグはレース最速の上り3ハロン38.7秒を繰り出してサルサディオーネをとらえきりました。
サルサディオーネのように淡々とタイムを刻む逃げ馬がレース引っ張り、ペースが上がれば、再び鋭い脚を繰り出すでしょう。
3着 サルサディオーネ
南関競馬の女傑、サルサディオーネ。8歳になった今シーズンも元気いっぱいに重賞を走り続けます。
前走はJRAの牡馬も混じったさきたま杯に出走。実は初の参戦だった浦和競馬場でも逃げ切り、左回りであれば牡馬にも負けない実力を示しました。
ショウナンナデシコとはエンプレス杯、マリーンカップに続く3度目の対戦。これまではサルサディオーネのほうが斤量を背負っていましたが、今回は双方が58キロでした。
しかし、主戦の矢野貴之騎手が禁止されている通信機器を騎手控室に持ち込んだことが発覚、急遽森泰斗騎手との初コンビでの挑戦となりました。
スタートからハイペースを刻み、息を入れられたのは1~2コーナーでの13.4秒のみ。
コーナーから尾を振り上げ、森泰斗騎手のゲキに応えて、脚が上がりながらも残り100mまでショウナンナデシコに食らいつき、後方から突っ込んできたアールロッソを凌いでの3着でした。
牝馬限定戦ではどうしても斤量を背負ってしまうこと、右回りは苦手なことから、この秋は南部杯からJBCレディスクラシックという路線を歩むのではないでしょうか。さきたま杯や日本テレビ杯等、牡馬の一線級相手とも勝負になる馬ですから、G1級のタイトルが欲しいですね。
4着 アールロッソ
アールロッソ、4着に健闘! 各馬短評を3着までにしなかったのは、この馬の激走について書きたかったからです。
向こう正面でレディバグと併せて馬なりで上がっていき、直線で外に持ち出そうとしたタイミングで前にはレーヌブランシュとグランパラディーゾが、外からは一緒に上がっていたレディバグにブロックされてしまい、仕掛けが遅れたのが惜しまれます。
結果論ですが、最内に突っ込んでいたら仕掛けのタイミングも相まってレディバグと最後までいい勝負だったのかもしれません。
地方移籍後は常に上り上位の脚で走り続けているので、南関の馬場がこの馬には合うのでしょう。交流重賞に再度エントリーしたら、ノーマークには出来ない馬になりました。
レース総評
自らの逃げに徹するサルサディオーネを終始マークして後続を引き離し、ハイラップを互いに刻みつつもしっかり抜け出して勝利するショウナンナデシコは、本当に強い馬になりました。牝馬限定戦で58キロの酷量を背負っても動じず、3キロ差があったレディバグの差しをきっちりクビ差凌いだ勝利は着差以上の完勝でした。
逃げたサルサディーネも58キロを背負いながら3着に粘り、当日乗り替わりのアクシデントにも対応してみせました。マリーンカップで1.7秒つけられた着差も同斤量で0.6差に詰めていますから、秋のレースでも切磋琢磨する関係になるでしょう。
マリーンカップ5着から今回のスパーキングレディカップ2着に好走したレディバグはまだ4歳ですし、レディバグと並んで上がってきたアールロッソも進路次第では3着以上が狙える好走でした。
強い馬が強い内容の競馬をするのを見届けただけでなく、その後ろでも秋への期待が持てるレースが繰り広げられました。
写真:かぼす