サマーマイルシリーズの第2弾・中京記念。2012年に施行時期と距離が変わった当初は、波乱が続いた。その後、一転して2017年からは平穏な決着が続くも、2020年は18番人気のメイケイダイハードが勝利。3連単は、330万円を超える大波乱となった。
ローカルのハンデ戦という、ただでさえ難しい条件で行なわれるこのレース。最終的に4頭が単勝10倍を切ったものの、予想の難しさを表わすように、1番人気馬のオッズは3.8倍と高め。その1番人気に推されたのがファルコニアだった。
ここまでの全17戦で掲示板を外したのはわずか2度と、安定感が持ち味の本馬。重賞は未勝利ながら、前走のマイラーズCでも3着に好走するなど、重賞で3着3回の実績は上位。初のタイトル獲得に向け、機は熟したと見られていた。
これに続いたのが、牝馬のミスニューヨーク。前走のヴィクトリアマイルは10着に敗れたものの、コーナーを4回まわる芝1800mは、8戦4勝2着1回3着2回と得意の舞台。巻き返しは必至とみられ、重賞2勝目を狙っていた。
やや離れた3番人気にカイザーミノル。この馬もまた重賞で3着3回の実績があり、いつタイトルを手にしてもおかしくない存在。それ以外にも、豪華メンバーが揃った2021年の毎日王冠で、勝ち馬から0秒3差の5着に好走しており、7戦連続コンビを組む横山典弘騎手とともに、初の重賞制覇なるか注目されていた。
そして、4番人気となったのがシャーレイポピー。2代母にGI2勝のトールポピーがいる良血で、3歳時に出走したチューリップ賞は5着。紫苑Sも4着と、三冠レース出走にあと僅かのところまでこぎつけている。その後、3戦で条件クラスを突破し、オープン昇級後は10着、7着と敗れているものの、いずれも勝ち馬からは1秒未満の小差。この馬もまた、初の重賞制覇が期待されていた。
レース概況
ゲートが開くと、6枠の2頭とカデナが立ち後れ。一方、前は4頭による先行争いが繰り広げられた。
これを強引に制したのはベレヌスで、リードは1馬身半。2番手にコルテジアがつけ、ベステンダンクとアーデントリーが3番手を並走。以下、カイザーミノル、シャーレイポピー、ミスニューヨーク、ファルコニアの順で続き、奇しくも、上位人気4頭が中団前に固まる格好となった。
1000m通過は、59秒9のスローペース。先頭から最後方までは10馬身以内と、ほぼ一団のままレースは進み、その後、勝負所の3~4コーナー中間へ。
ここで、コルテジアとアーデントリーが先頭との差を少し詰め、呼応するように、ファルコニアとシャーレイポピーも早目に進出。続く4コーナーでは、逃げるベレヌスを1馬身差の射程に捉え、レースは最後の直線を迎えた。
直線に入り、ベレヌスがコーナリングで再び差を広げるも、ファルコニアがあっという間に並びかけて先頭へ。一方、シャーレイポピーはここから伸びを欠き、替わってミスニューヨークとカテドラルが懸命に前を追った。
しかし、残り100mを切ったところでベレヌスが二枚腰を発揮。今度は、2番手以下を2馬身引き離すと、最後は三度追撃を許したものの、ギリギリ凌ぎ切って見事1着でゴールイン。カテドラルが接戦の2着争いを制し、ハナ差の3着にファルコニアが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分45秒9。自らの競馬に徹したベレヌスが逃げ切り、初の重賞タイトルを獲得した。
各馬短評
1着 ベレヌス
全21戦中、3着内に入ったのはこれが10回目。そのうち9回はローカル場であげた実績で、まさに「ローカルの鬼」ともいうべき存在。ただ、前走の谷川岳Sは、今回とは真逆の条件ともいえる新潟の芝1600m。それでも、2着を確保していた。
次走どこに出走してくるかだが、サマーマイルチャンピオンを獲りにいくとすれば、関屋記念か京成杯オータムハンデということになる。ちなみに、新潟芝1600mは意外と逃げ馬が強く、なおかつ前走逃げた馬も強いコース。中2週と間隔は短くなるものの、もし関屋記念に出走してくることがあれば注目したい。
2着 カテドラル
最後の結果だけ見ると、やはり出遅れは痛かった。それでも、水曜日に急遽騎乗が決まった団野騎手が、慌てず騒がず後方からの競馬。残り800mから馬なりで上昇し、最後はファルコニアを捕らえ、2年連続の2着を確保した。
東京新聞杯で2着の実績はあるものの、良績は4月から9月に集中。特に、7月から9月は、今回を含めて7戦4勝2着2回と非常に強い。
3着 ファルコニア
またしても、タイトルまで僅かに届かず3着。いつ重賞を勝ってもおかしくないが、逆をいえば常に惜敗止まりとなる可能性もあり、七夕賞で2着したヒートオンビートと少しキャラが被る。
父ディープインパクトの良血で、全兄姉と全弟が合わせて4頭。そのため常に上位人気に推され、そのとおり安定して好走するが、3連単の1着には据えにくいタイプ。
レース総評
勢いよく飛び出して、外枠から強引に先手をとったベレヌス(その際、ベステンダンクとコルテジアにぶつかってしまい、西村淳也騎手には過怠金10,000円が課せられている)。そのレースぶりから、ハイペースで逃げていると思われたものの、隊列があっさり決まったせいか、800m通過は48秒1のスローペース。その後、11秒8を挟み(1000m通過59秒9)、上がり4ハロンは46秒0の後傾ラップ。3ハロンも34秒6にまとめ、逃げ切ってみせた。
1着から3着までの短評は前述のとおりで、惜しかったのが4着のミスニューヨーク。最後、前が塞がらなければ、勝つまでは難しくても、2着の可能性は十分にあった。コーナーを4回まわる芝1800mでは度々好走しており、今後も、この条件では常に注意が必要となる。
ベレヌスに話を戻すと、騎乗した西村騎手はこれが重賞2勝目。思えば、初めて重賞を制したのは2021年の金鯱賞で、そのときもギベオンでの逃げ切り。大本命の三冠牝馬デアリングタクトを撃破する大金星だった。
また、師匠の田所秀孝元調教師は、騎手時代、1994年のきさらぎ賞をサムソンビッグで逃げ切っており、そのときは11頭立ての11番人気で、単勝172倍の大穴。西村騎手の思い切りの良さは、もしかすると師匠譲りなのかもしれない。
ところで、今年デビュー5年目を迎えた西村騎手は、既に通算勝利数が200を超えている。若手騎手といえば、最近は今村聖奈騎手がよく話題にあがっているものの、西村騎手はじめ、デビューから5年前後の騎手たちも決して負けていない。
例えば、西村騎手の一つ上の期には、2021年にGIを5勝した横山武史騎手がおり、1つ下の期では、岩田望来騎手、亀田騎手、斎藤騎手、菅原騎手、団野騎手が既に重賞を勝利。コロナ渦で外国人騎手の来日が減少した反面、若手騎手が順調に育っている。
一方、ベレヌスの血統に目を向けると、父はタートルボウルで、その父はダイムダイアモンド。ノーザンダンサー系の中でも傍流といえる父系だが、タートルボウルの産駒としては、これが3頭目のJRA重賞勝ちとなった。
その中で、本馬とタイセイビジョンがノーザンファームの生産。また、タートルボウル産駒で初めてJRAの重賞を勝ったトリオンフも、ノーザンファームと提携しているレイクヴィラファームの生産馬である。
他、交流重賞を3勝したアンデスクイーンもノーザンファームの生産馬で、産駒は芝ダート問わず活躍。現役では、5歳馬のヴェントヴォーチェも芝の短距離で活躍しており、ダートの短距離以外であれば、何でもござれのオールラウンド種牡馬といえる。
タートルボウル自身は、残念ながら2017年にこの世を去っており、現4歳世代がラストクロップ。その中ではヴァンヤールが出世頭で、7月2日に行なわれた3勝クラスの九州スポーツ杯を制し、オープンに昇級している。
写真:@NavierStoke0718