重賞連勝、16連敗、感動の復活劇…。後方から追い込み続けた弥生賞馬・カデナの現役時代を振り返る

競馬を語るうえで大事な要素のひとつが"脚質"だ。

脚質は、大きく分けて4種類。スタートから先頭を譲らない"逃げ"、逃げ馬を前に見ながら前目のポジションででレースをする"先行"、後ろの位置から前をかわしていく"差し"、そして、後方から一気の末脚で前を行く馬たちをまとめて追い抜く"追込み"である。
勿論、その中でも馬によって様々なスタイルがあるが、今回の主人公・カデナは父ディープインパクト譲りの末脚を武器に"追込み"で勝負する馬だった。

2016年のクラシックは、桜花賞馬ジュエラーを除き、すべてディープインパクト産駒(秋華賞もディープインパクト産駒ヴィブロスが勝利)が勝利した。その次の世代もまた、ディープインパクト産駒の活躍が予想された。

カデナは、そうしたディープインパクト旋風が巻き起こるなかでデビューを迎える。

鞍上に武豊騎手を迎えて新馬戦・未勝利戦を阪神競馬場で走り、2戦目で初勝利をあげる。続く百日草特別(現在の1勝クラス)以降はしばらく福永騎手とコンビを結成し2着。京都2歳ステークスで後方2番手から鮮やかに捲り切って、2勝目を重賞制覇で飾った。

そして2017年の3歳初戦、カデナは皐月賞を目指すトライアルレース・弥生賞から始動する。

重賞勝利の実績もあるカデナは、1番人気に推されて11番ゲートへ誘導された。

大きく出遅れる馬もなく、カデナも好スタートで発進すると、福永騎手が早々にカデナを促した。
内枠の馬たちが早々に先行ポジションを目指したことでインコースが空く。カデナはそのスペースに入り、後方4番手でゴーサインを待った。

逃げるマイスタイルは1000mを63.2秒のスローペースに落とし込み、それをダイワキャグニー、ダンビュライト、グローブシアターが追いかける。
スローペースを嫌ったか、同じコースの京成杯を勝っているコマノインパルスが1000m通過の時点で後方から中団まで進出した以外は、隊列が大きく変わることなく3コーナーへ。

残り600m。コマノインパルスの後方から、カデナが追い始める。そして4コーナー出口、残り400mからは馬群の大外から、逃げるマイスタイルとの差を一完歩ずつ詰めていった。

最後のひと伸びで半馬身差し切ったところがゴール。重賞連勝を決めた。

弥生賞の前年の覇者は日本ダービー馬マカヒキ。勝ち方も他馬を豪快に外から捲る追込みであった。それと重ねるファンも多く、カデナはクラシック候補の1頭に名を連ね、本番の皐月賞では3番人気に支持された。

──しかし、ここからカデナは勝てなくなってしまう。

皐月賞は前半1000m59秒の締まったペースでレースが進み、朝日杯FS勝ち馬サトノアレスと共に後方から末脚を繰り出すも、そつなくレースを運んでいたアルアインらに敗北。

続く日本ダービーは超スローペースになったが、皐月賞で先行馬を差し損ねたレイデオロとルメール騎手が早めに2番手まで動いて、それに呼応するかのようにペルシアンナイトやアドミラブルが外を追いかける展開に。カデナは直線まで脚を溜めて末脚勝負を選択し、上り3位タイの33.5秒でまとめたが、レイデオロや中段インにいたスワーヴリチャード、そしてマイスタイルら先行馬をとらえることは出来なかった。

秋初戦の神戸新聞杯では出たなりに中団でレースを進めるも、先行したレイデオロに完敗。そのレイデオロは菊花賞には向かわず次走にジャパンカップを選択し、カデナもまた中距離戦の天皇賞(秋)に挑んだ。

ところが、2017年秋シーズンは雨中でのレースが毎週続き、天皇賞(秋)も台風の真っただ中の不良馬場での開催に。キタサンブラックが後に語られる最内強襲を仕掛ける中、カデナは後方のままレースを終えた。着順を見れば上位の馬たちは2000m以上の距離で実績のある馬たちが揃い、末脚よりもタフネスを問われるレースになってしまったと言えるだろう。

──これ以降、2桁着順が続くようになったカデナ。

長いトンネルを走っているうち、気がつけば、弥生賞での鮮やかな捲り勝ちから2年が経っていた。

5歳の春、大阪城ステークスで脚質転換を試みるも伸びず。春2戦目の福島民放杯で鮫島克駿騎手と初コンビを組むと、再び"追込み"を選択し、後方からの追い比べで3着と、久しぶりに馬券圏内に入った。

夏になって挑んだ小倉記念でも、連勝中の勢いがあったメールドグラースとタイム差無しの2着。
更に新潟記念でも直線での末脚勝負で3着に入り、復調気配で天皇賞(秋)へと向かった。
2度目の天皇賞(秋)は、相手がG1勝馬10頭と超豪華。復調した勢いはあったが、さすがにアーモンドアイは強かった。

そして6歳初戦は、中山競馬場の金杯。ここも、11着という着順を見れば大敗に見えるが、タイム差は0.6秒、そして上り最速の末脚を繰り出したのはカデナで、先行馬決着の展開が向かなかったと言える。

──そして、2020年小倉大賞典。ついにその時がきた。

カデナは鮫島騎手と共に、2番枠から出たなりに後方3番手から追込みのタイミングを狙う。
14頭立てのレースで前にいるのは12頭、枠を利してインコースを回り、じっくりと脚を溜めて、勝機を伺う。

迎えた4コーナー、逃げていたランスオブプラーナと2番手のサイモンラムセスの脚が鈍ったことで各馬が外を回る中、カデナの眼前にはまさに勝ち筋と言わんばかりに進路が開いていた。

ここで鮫島騎手は更に外に進路を切り替えて、ドゥオーモの外から一気に末脚を伸ばす。
インコースの芝は荒れていたが、そのなかで比較的きれいな外側を走ったカデナはドゥオーモを併せる間もなく差し切り、1馬身3/4差をつけて久しぶりの勝利を飾った。

鞍上の鮫島克駿騎手は嬉しい重賞初制覇。ゴール時に左手を掲げてガッツポーズを見せた。

結果的に、カデナの勝利は小倉大賞典が最後だった。ただし、カデナの挑戦はそこで終わってはいない。

春のG1大阪杯でも小倉の勢いそのままに追込みで4着と健闘。ダノンキングリーが逃げの奇策に出て、追いかけた各馬が上位を占める中で、12頭中11番手から0.2秒差で好走して見せた。

宝塚記念はこの時期特有のタフな馬場に脚を取られて実力を発揮できなかったが、カデナはその後もあがり上位の末脚を繰り出し続け、G2やG3であれば着差1秒以内に詰めるレースを続けた。

7歳時は小倉大賞典から大阪杯を使った後、久しぶりに武豊騎手とのコンビで安田記念に参戦。

これまでよりも速いマイルのペースに序盤は置かれて後方2番手となったが、追込みのための脚を溜めるべくすぐにインコースを選択し、3コーナーまでに馬群の最後方に追いついた。
直線では名手の手腕が光る。先行馬を追い抜くため前の馬たちが空けたインコースにカデナを入れると、馬群を縫って最内から6着まで順位を上げた。上位勢がマイルをベスト距離にする猛者たちの中で、中距離路線で頑張ってきたベテランの意地を見せたレースだった。

秋シーズンは、33秒台の末脚は繰り出すものの2桁着順が続き、8歳初戦はダートの東海ステークスに挑む。

8歳にして初ダート。近走の着順からも14頭中12番人気の評価におさまる。ゲートでは進路をカットされてしまい、ハヤヤッコと共に最後方からのレースを余儀なくされるが、向こう正面からの捲り合戦に果敢に挑み、最後は上り最速タイの末脚でを繰り出し5着まで押し上げた。

勝ったスワーヴアラミスは最後の数10mで一気に伸びた分、スタートの出負けが惜しまれる一戦と言える。

続く小倉大賞典では57.5キロのトップハンデを背負ったが、それでも脚は止まらず、人気上位馬の一角を崩す3着に好走。以降、春シーズンはダート重賞を3戦する。

ただ、勝ち馬がそれぞれメイショウハリオ→オメガパフューム→テーオーケインズと、ダート路線の大将格に挑み続けることになってしまう。あまりにも相手が悪かったが、それでもあがり上位の末脚は衰えを見せなかった。

夏は中京開催が代替で小倉になり、中京記念、小倉記念と夏の小倉で2レースを走り、天皇賞(秋)へ。
3歳、5歳、6歳、7歳、そして8歳で5度目の天皇盾挑戦は、大逃げで沸かせたパンサラッサを直線でとらえる究極の末脚勝負になった。次世代のスターに駆け上がろうとしていたイクイノックスがゴール寸前でパンサラッサをとらえる。カデナは出走15頭中12着でレースを終えたが、上り33.2秒は全体3位の好タイム。走破時計1.58.3は、かつてアーモンドアイのG1競走6勝目を見届けた5歳時と変わらぬ時計だった。

追込みという戦術ゆえ、展開や馬場に阻まれることも多く、生涯成績は42戦4勝に終わった。

しかし、カデナが好走するときは必ず最後方から先頭を目指して追込みを狙っていた。
クラシックを目指した3歳から引退した8歳まで、重賞で上り上位の脚をコンスタントに使い続けたカデナは、自らの好走のカギが"追込み"であることを知っていたのではないだろうか。そう思わずにはいられない。

写真:win、かぼす、Horse Memorys、のだまハイ、ちゃぼ

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