人馬の挑戦を信じて〜メールドグラース海外G1制覇観戦記〜
はじめに(自己紹介を兼ねて)

ウマフリ読者の方、はじめまして。

普段はTwitterにて、競馬に関するニッチな情報や体験を発信している「徳澤泰明」と申します。

2019年10月17日〜20日、キャロットクラブにて募集されたメールドグラースのコーフィールドC現地観戦ツアーに参加しました。

今回はツアーの参加を決意するまでの思いや、参加して感じた事を寄稿します。

今後、海外挑戦する出資馬を応援しに行くか迷い始めた方や、さすがに現地まで行く気はないからこそ行った人の感想を知りたい方などにとって、一つの参考になれば幸いです。

「一口クラブ馬」メールドグラースの海外挑戦について、僕が感じていた周りの反応

「一口クラブ馬の海外挑戦」と聞いて、皆さんは、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

輸送費用をはじめとする様々なコストが発生し(規定上、会員も負担する形になります)、何より馬にとっても多大な負担がかかる事から、前向きに捉えられない方も多いかと思います。

今回のメールドグラースのコーフィールドC挑戦についても、「芝2000mの国内GⅢを3連勝して収得賞金を積んできたのだから、天皇賞秋を大きな目標の一つにしているのは間違いない」というムードの中での突然の発表であったため(しかも、コーフィールドCは未経験の芝2400mという条件だったため)、多くの批判的な声があがったのも知っています。

また、僕自身、これまで自分の目で見てきた国内の強い馬達とGⅠの大舞台で一戦交えるメールドグラースの勇姿を見たい気持ちが強くあり、中々それが実現しない歯がゆさを感じていたのも事実です。

参加を決意した経緯〜条件戦で試行錯誤する中で構築された信頼感〜

ただ、そういった歯がゆさ以上に「それでもこの馬は、一つ一つステージを上げながら輝いてきている」という、有り難い現状についての認識と、陣営に対する感謝と信頼がありました。

メールドグラースは、今でこそ華やかな戦績を重ねていますが、3歳未勝利戦を勝ち上がるまで6戦かかり、2019年になるまでは2勝クラスで足踏みしていた馬です。

出資者の一人として日々更新される情報や全てのレースを見てきたからこそ、その過程で、陣営が日本各地の様々な条件に積極的に挑戦してくれた事(3歳時点で6場 計12戦)、ブリンカー等の馬具についても工夫を重ねてくれた事を知っていました。

急に何かの魔法をかけられたわけではなく、陣営の努力の賜物として、2019年に入ってからのポテンシャルの開花、5連勝(うち重賞3連勝)という破竹の勢いがあったのです。

「重賞3連勝」についても、今になって結果だけ振り返るとアッサリ勝ったようにも見えますが、実際は毎回、高く見えていた壁や、悲観する声が確かにありました。

3戦とも現地に足を運び、「勝って変えた空気」を身体で感じてきたからこそ、自信を持って書けます。

新潟大賞典では、あくまで「準オープンを勝ち上がったばかりでOPすら走っていない馬の重賞初挑戦」であり、レーン騎手についても、当時の日本では今ほどの知名度や信頼感はなく、新潟で乗る事自体がその日初めて(さらには、その日も大きく展開が異なる”内回り”に1鞍乗ったのみ)という条件から、” 7番人気”という評価を受け、それを覆しました。

鳴尾記念では「ローカルのハンデ戦だった前走とは異なり、主要4場での別定斤量」「1番人気で当然マークも厳しくなる」という条件を、そして小倉記念では、「最重量ハンデ」でありながら、いつの間にか背負い始めた「ここでは負けられない」という絶対的なプレッシャーを、陣営と馬が一体となって越えてきました。

そもそも、新潟→阪神→小倉という厳しい輸送やローテーション自体が、条件戦で足踏みする中で数々の経験を積み、「この馬は輸送も問題ない。コースの条件に左右されずに力を発揮できる」という確かな理解と信頼を構築してきた人馬(陣馬)だからこそ出来た選択なのではないでしょうか。

そのような事から、「陣営と馬との信頼関係」を僕も信頼しており、「批判的な声も多くあり、もちろん個人的な心配や不安要素もあるけれど、メールドグラースだからこそ”超長距離輸送と大きな条件変化を伴う海外への挑戦”を選んだ『陣営』を信じてみたい」と強く思えました。

そして、こんなに強く何かを「信じたい」と思える事や海外の競馬を見に行く機会は稀である事、国内外を問わず出資馬のGⅠ挑戦そのものが初めてだった事、クラブから届いた丁寧な説明文書に好感を抱けた事など……様々な要件やタイミングが重なり、ツアーに参加する事を決意しました。

参加した結果

そうして参加してみた結果ですが、まず一言で、「今後も含めて人生で十本の指に入ると言っても全く過言ではないほどの良い体験」になりました。

行ってみなければ触れられなかった事、知れなかった事が溢れていました。何にしてもそうですが、想像は頭の中で簡単に完成してしまうのに対して、実体験は重ねるほどに奥行きを見せ、かけがえの無い感動や発見を与えてくれます。

例えば、日本で数々の話題をかっさらい、僕にとっても大ヒーローのレーン騎手。レース後、現地の観客や関係者から沢山祝福されていて、「当たり前だけど、現地での人気はこんなに凄いんだな」と感激しました。オーストラリアという「ホーム」での嬉しそうな表情を生で見る事ができ、異国の1ファンとしても何だか誇らしい気持ちになれました。

日本でいう地方競馬のように人と馬との距離が近いコーフィールド競馬場のスタンスにも驚きましたし、肝心のレース(コーフィールドC)についても、まさかオーストラリアの地で「そのまま!そのまま!」と叫んでしまうなんて思いもしませんでした。

外国の方々から英語で、あれほどたくさん祝福されるなんて、今後もう、二度とないかもしれません。

また、クラブ側やツアー関係者がこれまで信頼関係をしっかり築いてきた事により、コーフィールド競馬場や運営母体である「メルボルンレーシング」様がとても温かいムードで歓迎してくださり、行きの飛行機の中で期待しながら想像していたような範疇を軽々と超える貴重な体験を数々させていただけました。

(海外遠征という特別な事象ゆえ、どうしても各クラブ・競馬場・機会において状況が異なるため、一つ一つの「貴重な体験」については明記を控えさせていただきます)

そして、今回のツアーで最も感動したのが、それら全ての体験を繋ぐように他のツアー参加者(出資者)との触れ合いがあり、その繋がりの真ん中に、ずっとメールドグラースという存在があった事です。

「大好きな馬の話を、自分と同じかそれ以上に好きな人達とあれこれ話しながらの海外旅行」。

恥ずかしながら、こんなに楽しい事は他にはあまり浮かびません。

最後に

あれこれ書きましたが、メールドグラースが勝った事も含めて、この遠征は本当に全てが恵まれた体験であった事は、確かな実感としてあります。

ただ、手前味噌ながら、「偶然その機会に居合わせられたわけではない」というのも自信を持って言えます。

少し偉そうで恐縮ですが、「日常生活では中々味わえないような体験やロマンを求めて始めた一口馬主だからこそ、面白そうなキッカケがあれば、あえて乗り込んでみよう」「大きな決断をした陣営を信頼して、自分も海外ツアー参加という大きな決断をしてみよう」という思いを大切にしてきたからこそ、今回、一つの結果として最高の体験を得られたのだと思っています。(もちろん、函館まで遠征したのに惨敗したり、福島まで行ったのに落馬してしまったり、想像通りにいかない事の方が圧倒的に多い世界ではありますが、そこも含めて日々積極的に楽しんでいます)

未勝利戦で足踏みしていた馬が、まさかオーストラリアまで連れていってくれるなんて。

信じられないような嬉しい事ですが、出資馬の活躍や陣営の勇気ある選択をずっと信じてきたからこそ、全力で喜べる今があります。

そして、これからも各陣営が、「クラブ馬だから海外遠征をしない」といった縛られ方をせず、最適な決断や挑戦をしていける世界になっていけばいいなとも思っています。

末筆ながら、メールドグラースはもちろん、全ての馬の活躍、日本の競馬、オーストラリアの競馬の発展を願い、これからも一口馬主を楽しんでいこうと思います。

最後まで読んで下さった方々、有り難うございます。

写真:徳澤泰明、Horse Memorys

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